オーダーメイト 1
『理想の友達、作りませんか?』
そのメールが届いたのは、いつもの様に学校をボッチで過ごし、放課後に図書室でラノベを読んでいるときだった。
確かに僕には友達がいない。
だからといって、こんな怪しいメールは……。
『この度、弊社ではお客様に最も適した御友人を提供するサービスを始めました。
当サービスをご利用いただけると、お客様の理想とする御友人が明日から共に過ごしていただけるのです。
弊社独自のシステムで、貴方だけの御友人が手に入ります!
貴方の欲しい御友人はどのような方ですか?
憧れのあの人ですか?
同じクラスのあの方ですか?
それとも、想像上の人物ですか?
漫画やアニメの登場人物ですか?
どのような理想も、叶えます!
御希望の際は、このメールへ御希望の友人を御入力の上、御返信下さい。
(空白の場合、お客さまの状況に合わせてこちらでご用意させて頂きます)』
友達ねぇ……。
そりゃ、漫画のキャラでもいれば楽しいだろうけどさ……。
どうせなら恋人がほしいわ。
こう、僕の事をよく理解してくれる幼馴染の女の子とかさ。
あ、どうせなら年下の子に慕われるのもいいよなー。
『年下の可愛い女の子で、僕の事を慕ってくれている子。
一緒に登下校したり、毎日昼休みには教室に迎えに来てくれて、手作りの弁当を一緒に食べたりしたい。
胸は大きめで、背はちっちゃくて、髪の長い美少女』
……ってなんでこんな恥ずかしい事書いちゃってるんだよ。
消さないと……あっ、間違えて送信しちゃった。
……まあいいか。どうせこんなの誰かの悪戯だろうし。
==========================================================
「……ぃっ」
誰かの声が聞こえた。
身体を揺すられている気がする。
いつの間にか寝ていたらしい。
目を開くと、そこには見慣れた可愛らしい少女がいた。
「もう、風邪ひいちゃいますよ、先輩」
心配そうにこちらを見る彼女に微笑みかけながら『私』は起き上がる。
「さあ、帰りましょう?美味しいクレープ屋ができたんで、そこによって行きたいです!」
「ええ、いいわよ」
大きい胸を押し付けるように『私』の腕にしがみつく彼女。
ふふ、可愛いなぁ。……胸が大きいのは羨ましいケド。
「……ん?」
あれ、なんかおかしいような。
「どうしました、先輩?」
「ううん、なんでもない」
見上げてくる彼女に微笑み返しながら『私』達は歩き出す。
なんか違和感があるんだけど、気のせいだよね。
この確かに膨らんでいる胸も、長い髪も、ひらひらしたスカートも、いつも通りだよね?
……自分が男の子だったような気がするんだけど……「夢」でも見てたのかな?
でも男の子だったらこの子とはどんな関係だっただろう。
……少なくとも、ここまで仲良くなれなかった気がするなぁ。
うん、私は女の子でよかったかな。
恋愛とかも興味はあるけど、今はこの子の方が大事だもん。
なにも、おかしくないよね?
==========================================================
「はい、本日の御依頼ですよー!いえい!」
社長様がいつものハイテンションで依頼が来たことを告げる。
毎度の事ながら、何故依頼が来るのか不思議である。
「本日の御依頼は、『年下の女の子と一緒に過ごすリア充生活』ですよー!ぱちぱち―」
「まった、ティア。それ、彼女欲しいって依頼じゃありませんこと?」
紅先輩が社長にツッコミを入れる。
確かにウチの業務は友人を作ることで、間違っても彼女を斡旋することではない。結婚相談所でも出会い系サイトでもないのだ。
「あー。そうかも。それっぽい」
「あらら。またですのね」
「うん、まあ、とりあえずスタート時点では友情の範囲内になるようにしちゃうけどね」
「うん、いつも通りですわね」
社長と紅先輩は方針を決める。
当社の報酬はお金ではなく、御客様の運命自体。
俺にはよくわからない理屈だが、「御客様の運命を変える→スポンサー様からお金が振り込まれる」という仕組みらしい。
意図も意味もよくわからない仕事ではあるが、俺の能力を活かせる数少ない職場である。細かい事は気にするまい。
多分社長自身の趣味も含まれてるかもしれないけれど、言わぬが花である。
「さて、仕事の割り振りだけど……ミアは今回お留守番ね」
「そうですわね。わたくしの奇跡では少々面倒ですわね」
あ、できるんですね。面倒なだけで。
「海兄さん、フォローよろしく!」
「あいよ」
まあいつも通りである。
「というわけで、ちょっとやりたい放題してきます!」
「正直でよろしいですけれど、言い方は弁えた方がよろしくてよ?」
紅先輩のツッコミも、テンションが上がった社長には決して届かないのだった。
うん、通常運行だ。
==========================================================
さて、やってきました学校です。学生時代が懐かしいですわ。
あの時は……うん、やりたい放題やったわ―。
男子を女の子にしたり、女子をレズっ子にしたり、百合ハーレム作ったり、陰謀に巻き込まれたりしたなぁ。
楽しかったなー。
あ、皆様お久しぶりです。
あたしは瀬尾ティアです。
二年振りですよ、二年放置されてたんですよ信じられますかね。
……ミアに至っては四年放置でしたけど。ええ。
忍者の陰に隠れてひっそり活動再開ですよー。
久しぶり過ぎてキャラがブレてますが、気にしちゃいけません。
設定が便利だから度々呼び出されるけど、誰も設定を知らないからいまいち感情移入しにくい青髪の人よりマシです。
というわけでこの度友達を作るというコンセプトでお仕事始めましたーぱちぱちー。
いやあ、あたしもこの歳になって思うんですよねー。友達っていいよねーって。
うっかり友情の壁を乗り越えて愛情まで一直線なルートばかり廻ったせいで、純粋な友人がミアくらいしかいないから尚更ですよ、ええ。
あ、みんな仲良くやってますよ?
では、お仕事にかかりましょう。
御依頼は「可愛い後輩。おっぱい大き目」だそうですよ。
まずは素材が必要だよね。
具体的には、いらなさそうな人間を見つけて、書き換えましょう。
例えば、校舎の裏でタバコ吸ってるリーゼントのお兄さんとか。
「んだよてめえ」
うん、いまどきこんな典型的な不良がいるなんてビックリだね。
しかも一人。うん、都合がいいね。
こんな「偶然」を引き寄せるなんて、さすがは海兄さんだ。
「おう、何見てんだよ」
うん、どうしようかな。
久しぶりだし『存在証明書』にしようっと。
「おいシカ――」
はい、お疲れ―。
説明しよう!
『存在証明書』とは、あたしの奇跡(いわゆる超能力とか魔法的な何か)における基本スキルである!格ゲー的には236+P的な気軽さで出せるのだ!
これを抜き取られた相手は、なんと存在があやふやになり、動きが止まるよ!
ついでに内容を書き換えると、その書き換えられた内容通りの存在になってしまうのだ!
ただし格上には無効。これは仕方ない。もうマヂ無理……って感じです。
まあ、格上の相手なんてそう転がっていませんし、大体やりたい放題ですがね。
では書き直しです!
まずは身長175cm→145cmとします。
背はちっちゃくてってことでこれくらいかなー。もうちょい小さくてもいいけど、まあ向こうで調整すればいいでしょう。
さて不良さんを見ると、みるみる体が縮んでいってるね。
あ、最近能力が進化しまして、リアルタイムで表示通り更新されるようになりました。超便利。基本一瞬で変化でしたから、この進化は助かりますね。
続いて筋力を低下させます。
数値で表記すると100→30くらいですかね。基準としては、女性の平均値が40ですね。ちなみにボディービルダーで200です。
不良さんを見ると、顔つきが柔らかくなっている感じです。表情筋も落ちたのかな。
身体の方も、だいぶ華奢な感じになってますね。骨格は男性ですけれど、小柄になってる分男らしさはあまり感じません。
……リーゼントは違和感ありますが、まだ変えません。
筋力を落とした代わりに体脂肪率を上げましょう。細かく調整する際は、これが結構大事です。体脂肪率一桁台なのに巨乳って、どんな超人だよってレベルですからね?
ただ、体脂肪率って難しいんですよね。理想値なんかは調べればわかるんですけど、巨乳だと高い、ってわけでもなさそう。ネットで調べる程度じゃわかりませんね。数字を一つ一つ変えていけば色々わかるかもしれませんが、あたしは学者ではないんで、そんな面倒な事する気はありません。
ちょっと多めの32%くらいにしましょうか。ちょっと肉付きのいい感じってくらいになればいいかな。
全体的に丸みを帯びてきたでしょうか。骨格が小柄な男性状態なので、太り始めとも見えますね。
そろそろ性別を変えましょう。
顔つきがさらに丸みを帯びてます。太った男の子って感じですが、今は童顔な女の子に見えます。目はぱっちりしてて、小さな唇がふっくらしてます。リーゼントのままなのがちょっとシュールです。
胸元は膨らんでますね。大きいですが巨乳と言えるかは微妙なラインです。個人的には好みのサイズですが。
胸を少しずつ大きくしていきます。ぶかぶかな服の胸元を、むくむくと押し上げていくおっぱい。
具体的なカップサイズは控えましょう。ご想像にお任せします。
むっちりとした、せくしぃな感じにしましょう。抱き心地、いいですよ?柔らかいですよ?
さて髪は長くて……ということなので、まずは伸ばします。明るめの茶髪にしましょうか。地毛ですよ?
髪型は……ツインテールって、後輩っぽいですよね、なんとなく。怪獣じゃないですよ。手持ちのリボンでちょちょいと。
服装はもちろん制服。下着も女性物。ピンク系にしておきましょう。
特に細かい性格設定の要望はないので、手持ちの良く使う性格変更レシピ集の中から、「先輩を慕う後輩」テンプレをチョイスしましょう。
ちなみに内容は「人懐っこい」「可愛いもの好き」「運動は苦手」「趣味はお菓子作り」「雷が苦手」等といった可愛らしい設定を詰め込んだ渾身の逸品です。男性受けもいいため、スポンサー様からの人気も高いです。
これを少し改変し、「先輩(依頼者さんですね)大好き」「内気」「ちょっと人見知りする傾向あり」など、依存度高めの仕様を加えていきます。やはり人間同士の付き合いですので、些細な事で壊れてしまう事もあります。
なので、ちょっと依存性を高めてあげる事で人間関係のトラブルを軽減するのです。あと、美少女独占するってなんかロマンあふれてるよね。
さて、これで不良さん……いえ、彼女の方は完成ですね。名前も戸籍も変更してあるのでこちらは問題なしです。
では、次です。
「社長、終わったか?」
「ええ、ばっちり」
「で、依頼者は?」
「図書室だ。『偶然にも』読書中に寝落ちしてるぞ」
「ふふっ、ありがとうございます」
いいお仕事です。
さて、あたし達の業務は、「友達を作る事」なわけです。スポンサー様の御意向で。
男女の友情もアリですけど……この状態だと、普通にカップルになりますよね?
少なくとも、最初は友達になっていただかないといけないのです。スポンサー様からの挑戦状だと思います。
というわけで、依頼者の方にも女性になってもらいましょう。
後輩ちゃん作成を細かくやったので、こちらはいつも通りに改変しましょう。
まずは女性に。身長は後輩ちゃんより高く、胸は平均くらいで。顔は美人さんで。後輩ちゃん可愛い系だし。
性格は……まあ、そのまま女性にした感じにしましょう。あんまり変えてしまうと別人ですからね。さっきやりましたけど。
ただし後輩ちゃんへの依存度は高めます。お互い依存していれば、友情は壊れませんよ。多分ね。
さて、こんな感じでしょうかね。
もしかしたら今後、二人の関係がゆりゆりしちゃうかもしれませんが、そこは本人達しだいですね。個人的嗜好によりそっちよりの調整してますけど。
ふぅ、いい仕事したなぁ。スポンサー様、喜んでくれますかねぇ。あの人気難しいからなぁ。
さて、次はどんなお仕事かな?
蛇足的登場人物紹介
瀬尾ティア
瀬尾さん。存在を自在に操る系女子。
最近の悩みは「下着姿の女の子にドキドキする自分は変態なのかもしれないな」ということ。
なお、そんなことは皆さんご存じの通り。
紅ミア
本名はミア・クリムゾン。洗脳しちゃう系ドM女子。
最近の悩みは「ティアが精神的に攻めてくるので昂りが収まらない」ということ。
なお、ティアにSっ気はない(自称)ので多分普通に罵倒されているだけ。
青川海彦
最年長の男性キャラ。偶然いいことが起こりやすい系男子。
最近の悩みは「姉が何語を喋っているのかよくわからない」ということ。
なお、ティアより格上。設定だけなら最古のキャラだったりするがそれはどうでもいい。
ネタに困ったときは瀬尾さんに頼る流れ。あまりよろしくないですね。
戻る