おきのどくですが、主人公から降格です



 世界は、想像される。
 想像され、創造される。
 創られた世界は、多くは形とならずに消えていく。
 形となった世界も、その全容を見せる事なく消えていく。
 忘れられた世界。壊れた世界。そもそも創られなかった世界。
 そんな消失から逃れ、生き延びた世界は、やがて『物語』として我々の前に姿を現してくれる。

 だけど。
 そんな世界にだって停滞はあるし、消えていった世界にだって未来はある。
 存続を望まれながらも終焉を迎えた世界もあれば、誰にも望まれないのに続く世界もある。
 どこまでも続く世界もあれば、コップ一個にも満たない世界もある。

 しかし。
 広がりすぎた世界は簡単には終わらない。
 勇者が魔王を倒し、世界に平和が訪れても。
 少年が少女に告白し、結ばれても。
 青年が大成し、大金持ちになっても。
 あるいは、創造主が失われ、誰もその世界を紡ぐ事が出来なくなったとしても。

 故に、彼女はいる。

『物語を終わらせる』

 ただ、それだけの為に。


===================================

 タイガー王国。
 この国は、魔王と呼ばれるモノにより侵略されそうになっていた。
 というより、八割方侵略されていた。ほぼ人類の生存権は制圧されていた。
 魔族に捕まった人類は奴隷として扱われ、その数を確実に減らしていった。
 タイガー王国四十六代国王は、過去に魔王を倒したことのある勇者の子孫に魔王討伐を命じ、勇者の子孫は旅立ったのだが……。

「酒だ酒、酒持ってこいや!」
 勇者ジャックは、、今日も酒場で宴会を広げていた。
 周囲に半裸の女性を侍らせ、昼間から酒を浴びるように飲む彼を、誰もが「何やってんだこいつは」と呆れた目で見ている。
 だが、誰も口には出さない。
 ジャックがどれだけ酒を飲もうとも、娼婦でもない女の胸や尻を揉みしだいていても、無茶なわがままを言っても。
 誰も、彼には逆らえない。
 ジャックが今腰かけているのは椅子ではなく、全裸の男だ。
 逞しい筋肉はジャックよりも力強い印象を持っているが、その顔は酷く腫れ上がっている。元々は精悍な顔つきだった彼は、今はもう見る影もない。
 よく見ると、周囲には呻き声をあげなら横たわる男性が数名。その誰もが、深い傷を負っていた。
 ジャックの前で裸踊りをしている女は、教会で聖女と呼ばれている。
 魔王討伐の命を受け、勇者のサポートをする為に派遣された彼女は、涙を浮かべながらも、踊りを止めない。否、踊りを強要されていた。
「ほら、もっと派手に動けよ聖女様。でないと、コイツみたいにヤっちまうぜ?」
 椅子にした男を指さし、ケラケラと嗤うジャック。
 ジャックは細く、とてもじゃないが椅子扱いしている男を倒すことなどできそうには見えない。
 しかし、聖女はその現場を見ている。
 勇者の血がもたらす奇跡の力――『敵対停止』により身動きが取れなくなった男を、ジャックは嗤いながら殴り続けていた。
 その姿は勇者というよりも、悪魔のようであった。
 故に、逆らえない。
 恐怖心もある。が、なにより、自分が逆らい殺されてしまいでもしたら、本当にこの国は終わってしまう。
 なんとか機嫌をとり、魔王退治をしてもらわなくてはならない。
 たとえ、自分の全てを失ったとしても――

「うわあ、ひどい。これはひどい」

 女の声が辺りに響いた。
「あ?誰だ?」
「目の前」
 いつの間にか、聖女とジャックの間に誰かがいた。

 それは、とても奇妙な女だった。
 ウェーブのかかった純白の髪は腰まで伸びている。髪とは対照的に褐色の肌。
 白いドレスを身に纏い、白い長手袋をはめていた。漆黒のブーツは膝まであり、膝上まで伸びたソックスは白。
 顔は整っており、美人の部類に入るであろう。胸は……控え目であった。
「おい、何者だ?この勇者ジャック様に何か用か?」
「勇者?勇者がどこにいるって?」
 芝居掛かった口調で、白黒の女はジャックを煽る。
「あ?ここにいるだろ!誰だよてめえは!」
「え、キミなの?人間的にちっちゃくて気付かなかったよ」
 わざとらしいキョロキョロと見回す動作を見せながら、やっとジャックに気付いたかのようにふるまう。
「うーん、でもなぁ。女囲って、気に入らない奴はぶん殴って、気高き聖女を無意味に辱める……うん、百点満点のクズだね」
「……死にてえのか?俺は女でも容赦しないぞ」
「死ぬ、ねえ。死ねれば、いいけどねぇ」
 ため息をつきながら、白黒の女はジャックの目を真っ直ぐ見据えた。
「できるもんならやってみな、チンピラ。多少変わった能力持ってるみたいだけれど……ボクに通じれば、いいねぇ?」
「……」
 ジャックは無言で立ち上がり、掌を白黒の女に向けた。
『決して動くな』
 白黒の女の動きが止まる。
「はっ、口ほどにもねえ!」
 ジャックは拳を振り上げ、白黒の女へと殴りかかる。『敵対停止』は、相手の敵意を利用し、その敵意自体で相手の動きを止める能力である。敵を一方的に倒せる強力な能力だが、敵意のない相手には使えない。
 故にジャックは、常に敵を作る行動をとる。最初は、演技だっただろう。だが、あまりにうまくいってしまったが故に、増長した。
 己に敵はいない。故に何をしたって許される。
 そう彼は信じていた。

 この時までは。

「……うん、遅い」
 気付いた時には、遅かった。
 いつの間にか、白黒の女はジャックの背後にいた。
 ジャックの首元には、いつの間に用意したのだろうか。
 白黒の女が手にもつ巨大な罐の刃が押し当てられていた。
「何か仕掛けたみたいだけど、何かしたのかな?ま、どうでもいいんだけどさ」
「な、なんだ……?」
「ああ、そういえば名乗っていなかったね」
 白黒の女は笑みを浮かべる。
「ボクの名前はでう――デウス=エクス=マキナなんて呼ばれてるね」
 白黒の女――でうは名乗りながら、罐を引いた。
「残念、キミの物語はここで終わってしまった」


 気が付くと、天井を見上げていた。
 ――生きている。
「へ、こけおどしじゃねえか……えっ!?」
 いつもより声が高い。ジャックは思わず喉を抑える。
 ――細い。それに、いつもなら触れるはずの髭に触れないし、肌が妙にすべすべする。
 首元に触れる指先も細い。服もぶかぶかだ。
 なにより、手首に触れる柔らかい感触は――
「……なんで変化するとボクより胸が大きくなるんだろうね、聖女ちゃん?」
「いえ、私に言われましても……」
「ところで聖女ちゃん、魔王ってどこに住んでんの?」
「えと、ずっと北です」
「北かぁ。じゃあ、防寒具を揃えるところからかな?」
「そうですね。教会から準備金は貰ってますので、それで揃えましょう」
「うんうん、いいねぇ。聖女ちゃんも可愛いの買おうね」
「か、可愛いのですか!?私には似合いませんよ!?」
「いやいや、きっと似合うよ。うん、楽しみだねぇ」
 でうと聖女がガールズトークしていた。
 聖女はすでに服を身に着けており、二人は仲の良い姉妹のようだった。
「あ、起きたみたいだね。聖女ちゃん、先に外で待っていてくれる?」
「はい、でう様」
 聖女が部屋を出て行くのを確認してから、でうは未だ床に横たわるジャックを見下ろす。
「さて、まずは君の処遇について説明しようか」
「……処遇、だと?」
 相変わらずの芝居掛かった口調で、でうはジャックに語りかける。
「そうだね、元勇者様にはこういう言い回しがぴったりかな。
 ――おきのどくですが、あなたは勇者から降格させていただくことになりました。
 以降、この世界における勇者の役割は、不肖ながらボクことでうさんが引き継ぐ事となりました。
 こちらは『管理者』の皆様が決めた事であるので、お前程度に拒否権はないので、諦めろ?」
「なにを勝手な事を……」
「ちなみに、降格した結果、キミに割り当てられた役割は――」
 でうはいつの間にか取り出した鏡をジャックに向けた。

 そこには、幼い少女の顔が写っていた。
 ぱっちりとした瞳、小さな口、長い栗色の髪。
 そのどれもが、ジャックの面影を残していなかった。
「……なんだよ、これ」
「うん、君は勇者としての使命を果たそうとせず、それどころかその立場に胡坐をかいて、魔王以上に人々を苦しめた。
 その罪はとってもヘビィなので、罰として『勇者の血と、それに伴う特殊技能の剥奪。そしてその存在の剥奪』とさせて頂きました♪
 存在の剥奪に伴い、新たに適した存在が割り当てられ……女の子になったのは、うん、担当者の趣味だね。ティアたんらしい。
 理解できた?受け入れられる?
 ま、理解できなくても受け入れられなくても拒否権はねーですけどね、ジャック……いや、ジルちゃん?」
「な、なにを言って……えっ!?」
 ジルという女性名で呼ばれたことで、『担当者』が仕掛けたスイッチが入る。
「ちがう、おれ、じる、じゃない!ちがうおれはじゃっくっ……いだいなる、ゆうしゃのちを……ゆうしゃ?
 ゆうしゃって、なに?だいじなことなのに、おもいだせない……」
 ジャックの中から、ジャックという男を構成していたナニカが失われていく。
 その代わりに、『担当者』渾身の大量な設定が押し込まれていく。
「ちがっ、わた、ちがうのっ、じるじゃない、じるじゃないのにっ!
 りょうりなんて、できないのにっ!さいほうだって、やったことないのにぃ!」
「……どんな設定を押し付けたのかねぇ」
 でうは『担当者』から満面の笑みと共に受け渡された設定書の写しを見る。
『名前:ジル
 職業:遠方から出稼ぎにきた村人
 身長:低め
 体重:軽い
 性格:弱気で健気。強気にでられると逆らえない。特に男性から恫喝でもされれば怯えて何でも言いなりになってしまう。
 来歴:ある山村で育つ。幼くして父を亡くし、母に女手一つで育てられる。
    母が生活の為に働きに出ている間に家事を任されていた為、家事技能が非常に高い。
    母譲りの美貌が遺伝されており、村長の息子から度々セクハラ紛いのちょっかいを出されていた。身長の割に胸が大きめなのはそのセクハラが原因である。
    ある日その息子に呼び出されたジルは』
 でうはここで読むのをやめた。
 なお、この後二百行ほど続いている。
「ああ、あの子、おバカさんだったんだねぇ……」
 知ってた。
「まあ、それはさておき、もう大分進行しちゃったかな……さて、キミは誰かな?」
「……わたしは、ジルです」
「どこからきたの?」
「……○○村です」
「料理とか、出来る?」
「はい。山にある物だったら、大体調理できます」
「そっかそっか」
 設定の書き換えがうまくいったことを確認し、満足げに頷くでう。
 いつの間にか『ジル』が着ている服も、身体に合った女性の物になっている。
「うん、すっかり女の子になっちゃってるねぇ」
「……?元から、女ですけど……」
「君がそう思うならそうなんだろうね。キミの中だけではね」
 そう言いながら、周りを見回す。
 そこにはいつからいたのだろう。数人の男女がいた。
 特に目立つのは、腫れ上がった顔が目立つ屈強な男性。彼以外の人物も、身体に傷が目立っていた。
「――覆水盆に返らず。キミの存在が書き換えられ、過去の所業を忘れたとしてもだ。
 彼らが負った傷は治らない。外傷も、心も。
 そういう風に管理者側から干渉していたからね。本来の担当者じゃ、ここまでは出来ないんだけど……相当管理者を怒らせてたぞ、元のキミは」
 肩を竦めながら語るでうの言葉は、しかしジルには届かなかった。
 周囲から『彼女』に投げかけられる視線。そこに籠められた明らかな敵意。
 ジルには心当たりはない。
 だが、彼らには「勇者だった彼女」から受けた理不尽な暴力の記憶がしっかりと残っていた。
 故に、ジルにとっては理不尽な、彼らにとっては当然の「恨み」が募っていた。
「さて、こうして『横暴な勇者様』は、『無力な少女』へと降格させていただきました。
 聖女ちゃんも待たせていることだし、そろそろお仕事に戻りますかね。
 あ、みなさん、この子はどのように扱っても構いませんよ?
『彼女はこの町に来たばかり』だし、『出身の村も遠くて連絡が付きにくい』からね。
 行方不明になったりしても、魔族に襲われて死んだくらいにしか思われないだろうねー」
 そう言い残し、でうは立ち去る。
「あっ、待って……」
 身の危険を感じたジルはでうを呼び止めようとするが、肩を強い力で掴まれる。

 振り返ると、顔が腫れあがった男がいた。
「ひっ……」
 怯えるジルを取り囲むように、周囲に人々が集まっていった。
 そして――

===================================

「でうたんはうまくやってくれてるみたいだね」
「そのようだね。
 ……でもいいの?あんなの動かして。あれ、どっかの神様のコピーでしょ?まともに活動させて変な影響出ても知らないよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。クリスちゃんは心配性だなぁ。
 色々能力は制限しているし、役割以上は働けないよ。何より、人格部分はティアたんに頼んでボクのを写してあるからね!」
「それが心配なんですがね……」
「あれぇ〜?ボクってそこまで信用ない?」
「むしろ何故信用されてると思っていたのか聞きたいわ」
「えー」

 管理者とその友人の魔女は、今日も平和そうであった。




でう というキャラを考えたので、とりあえず使ってみようというコンセプト。
ここ最近は大昔に作ったキャラを少しずつでも使おうという流れが密かにあります。


戻る