復讐の願い 4



 すみれの日記 10月 19日 雨

 今日、すべての復讐が、終わった。

 達成感はない。
 嬉しくもない。
 ただ、むなしいだけ。

 でも、それでいいのだ。
 それがあたしの欲した物だから。

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 前回までのあらすじ

 色々あったけど、ついに最後の一人まで追い詰めた。

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 という訳で、あたし達5人は今、としあきの家の前に来ている。
 ついに最後の復讐である。
「さ、行くわよ」
 あたしの言葉にふたばとテラ先輩が頷き、
「……ちょっと待ってください!」
 わかばが静止を呼びかけた。
「なによわかば、こういうのは勢いが大事なのに……」
「勢いで伏線を置いてけぼりじゃないですか!」
「伏線?何それおいしいの?」
「テラさんが生きていることとか、この場にコマチさんがいないこととか、ふたばさんの事故の話とか!」
「コマチがいないのは親元に帰したからだけど?」
 いてもあまり意味ないし、子供は親といる方が良いに決まっているじゃないか。
「私が生きているのはミチナガ病院の人に『この病院にいるとあんた殺されるよ?』と言われたから身を隠してたからね。
 その間にいろんなツテを頼ったり、得意の催眠暗示で色々な機材を手に入れたりして、その結果としてトカゲのジョージをやったというわけ」
 ちなみにあたしがテラ先輩の生存を知らなかったのは、テラ先輩の特技である催眠術による暗示効果である。
 ふたばが喋れなかったのも同じ理由だ。
「ちなみに大本の事故の原因はとしあきよ。理由は伏せるけど」
 この理由だけは、テラ先輩は教えてくれなかった。
「さ、これで納得した?じゃあ、行くわよ」
「え?今ので終わりですか?ちょ、それはいくらなんでも……」
「いやだってこの話、『自分に書ける最も酷い話』ってコンセプトだって作者が最初に言ってたじゃない」
「作者とか言わないでください!」
「でもこの辺で畳んでおかないと、伏線の存在すら忘れるわよこの作者。
 それにほら、ただでさえこの話、人名がひらがなだったり、説明が長ったらしかったりでわかりにくいんだから、最後くらい簡潔にしないと、ねぇ?」
 作者自身もわかり辛いと思うことが多々あったらしいし。
「……わかりました。もう、どうでもいいです」
「ええ、そう考えた方がいいわよ。きっとね」
 ぶっちゃけあたしも漫画の打ち切りみたいで納得いかないし。
 まあ坂上ったり年表書いたりしないだけマシ、そう思うことにしたんだけど。
「ところですみすみ。わたしからも一つ確認したいんだけど」
「なんですかテラ先輩まで。ここに及んで怖気つきましたか?」
「いやそんなことはないんだけど……」
 そう言ってテラ先輩は周りを見回す。
「今、ここに5人いるじゃない」
「いますね」
「わたしとすみすみ、ふーちゃんにわかばん……で、コマチちゃんは帰郷」
「そうですね」
「じゃあ、このさっきからふーちゃんにおっぱい揉まれ続けてるメイドさんは、誰?」
 テラ先輩が指差した先には、ふたばにおっぱい揉まれて顔を赤らめているメイドさんがいた。
「としあきの家で働いてたメイドの山本さんです。昨日ちょっとした仕事の失敗でとしあきからクビを言い渡され、路頭に迷っていた所を保護しました」
「……えらくご都合主義な展開だけど、まあいいでしょう。で、なんでおっぱい揉んでるのよ?」
「……山本さん、すっごくえちぃ調教されてたんですよ。仕事中もバイブ挿れられた状態で働かされてたみたいです」
「で、すごくエッチな人になっちゃったと」
「そういうことです。昨晩はいろんな意味で大変でしたよ……」
 まさか二人に攻められるなんて思いもしなかったしね……。
 しかもこの人、えちぃ事してないとテンションあがらないという困った性質も持ってるし。だからふたばはさっきからおっぱい揉んでいるのだ。
「だいたいわかった。この山本さんに中の案内をしてもらうわけね」
「だいたいそうですね。まあ、それ以外の用途もありますけど」
「山本さん、いいの?元の主を裏切っちゃうけど」
 テラ先輩は山本さんに向き直り、尋ねた。
「ええ。あんな短小、早漏、度胸なしの三拍子そろった奴なんて主人にふさわしくありませんのよ!
 今のワタクシのご主人様は、すみれお嬢様とふたばお嬢様のお二人だけですわ!
 お二人だけが、ワタクシを満足……もとい、ワタクシが仕えるに相応しいのですのよ!」
 山本さんは過去はどこぞのお嬢様だったらしく、その頃の喋りが癖になっている。
 なんでそんな人がとしあきのところでメイドをやっているかは……乙女の秘密だと言って教えてくれなかった。
「大丈夫か、今回の復讐……?」
 ……凄く、不安です。
 テラ先輩の呟きに、唇だけでふたばが答えた。

「では、作戦を確認します」
 そう言いながらわかばが人間状態になった。説明するのに犬のままでは大変だかららしい。何が大変なのかは知らない。
「まず、中に入ったら二手に分かれます。すみれさんとふたばさん、そして山本さんとかいう人はとしあきの所へ。
 わたしとテラさんは、父親のアキヒサの方を担当します」
 ああ、そういう名前だっけね、父親。
「そしてすみれさん達は、予め渡してあるアイテムを使って復讐してください。わたし達の方はわたしがなんとかします」
「……道中の……警備員…とかは?」
「これを使ってください」
 わかばが懐から拳銃のような物を取り出した。
「……殺すのかぁ」
「ここまで非殺だったのにねぇ」
「ついに……ネタぎれか……」
「違います。よく見てください。こんなカラフルでちゃちい拳銃で人が殺せますか?」
 そういわれてみると、確かにピンク色のカラフルで適当な形だったり、緑色で宇宙人がもってそうな形だったりする銃は、とても本物には見えない。
「緑色の物は『反転銃』といいます」
「ハンテンジュウ?撃たれると身体中に斑模様でも出るの?」
「そんな気持ち悪い物渡しません!」
 テラ先輩の言葉にわかばが怒鳴り返す。
「この銃で撃たれた者は、なにかが反転します」
「……ごめん、わかるように説明してくれる?」
「実践したほうが早いですね。ここに缶コーヒーがあります」
 どこから取り出したのか、いつの間にかわかばの手には缶コーヒーがあった。甘さに定評のあるアレだ。
「コレに向けて……えいっ!」
 反転銃から光が放たれ、缶コーヒーに当たった。
 光が収まると、そこには何の変化も見られない缶コーヒーの姿が!
「では、すみれさん。これを飲んでください」
「……あたし、それ苦手なんだけど」
 コーヒーはブラック派なんです。甘いのも嫌いじゃないけど、甘すぎるのはどうかと思うんです。
「大丈夫ですから、ほら」
 無理矢理缶コーヒーを手渡される。
 ……仕方ない。一口だけ口に含むことにする。
 すると、口の中に缶コーヒーの味が広がった。だがそれは、甘ったるい味ではなく、むしろ……。
「苦っ!苦すぎるよこれ!!」
「はい。甘すぎるあのコーヒーが、ブラックを好む人も嫌がるほど苦くなりましたね」
「……要するに、真逆の性質になる、ってことね」
 テラ先輩がうまく纏めてくれた。うん、そう一言言えばすむ話だったね。
「ただし、何が反転するかは選べません。今の場合、缶の材質がアルミになる可能性もありました」
 それは反転ではないとおもう。
「ようするにこれを人間に当てれば、なにか色々な物が反転するというわけね」
「そうです。性別とか、性格とか、性癖とか、性質とか、性徴の状況とか、色々変わりますよ」
 でも、それだけじゃ無理じゃない?と、言葉を出さずにふたばが指摘する。
「ええ、だからこそもう一つ用意してあるのです――この最終兵器『萌萌銃』を!」
「ネーミングが最悪ね」
「効果は……」
「いい。説明聞かなくてもわかる。というか聞きたくないわ」
 でもまあ、確かに最終兵器ではある。身も蓋もないほど、確実に萌萌銃は警備の人間を無力化するだろう。なにせ、萌だもん。
「なお、こちらも何になるかは大体ランダムなのですが、かなりの確立で金髪シスターか犬耳メイドになる不具合があります」
「……まあ、今回の用途には問題ないな。なんでよりによって、その二属性が多いのかさっぱりわからないけど」
「1億分の1の確立でロリ巨乳になりますので、皆さん頑張って狙ってくださいね」
「なにその低確率」
 某ネットゲームでカードドロップ狙うほうがまだ分がいいんじゃないか。まあ、別にいらないんだけどね、ロリ巨乳。
「では、説明も済んだことですし……」
 うん、そうだね。
「それじゃ、始めましょうか」
 最後の復讐を。

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 萌萌銃は凶悪だった。
 屈強なガードマンも、どう見てもその筋の関係者にしか見えない人も、黒服サングラスの男たちも、みんなみんな無力だった。
 ある者は金髪で巨乳の、信心深いシスターになった。
 ある者は犬のようなたれた耳を生やした、従順なメイドになった。
 ある者は兎のヘアバンドをつけた幼女になった。
 ある者は金髪で巨乳の、信心深いメイドになった。
 ある者は犬のようなたれ耳を生やした、人懐っこい貧乳シスターになった。
 ……シスターとメイドと幼女の確立が異様に多いが、気にしない事にする。

 反転銃も凄いといえば凄い。
 勇敢な男が泣き虫で弱気になったり、突然同性愛に目覚めて周りの奴を襲ったり、真面目そうな侍従長っぽい人がだらしなく呆けだしたり、聡明そうなメイドが何をすればいいかわからなくなって混乱したりと、あちこちが大騒ぎ。
 ビジュアル的な派手さはないが、使い込めばかなり楽しいかもしれない。そんな時間はないんだけどね。


 そして、ついにとしあきの部屋の前。
「元同僚の話によりますと、ここに間違いなくいますわ!」
 ビシっと指を刺す山本さん。うん、ふたばに胸揉まれてなかったら格好よかったと思う。
 ふたばが空気読めない人みたいになってしまっているのが特に残念である。
「では、わかばから預かったコレを用意して」
 あたしはポケットから宝石のような物を取り出す。
 それ、なに?とふたばが聞いてくる。
「三回だけあたしにも魔法が使えるようになる石」
 使う魔法は決まっている。
 としあきには今までの中で一番キツイ復讐をしてやる。


 部屋に突入すると、そこにはメイドを調教しているとしあきがいた。全裸で。
「うわっ、なんだお前ら!」
 それはこちらの台詞である。
 館中が大騒ぎの中、なんで普通にメイドさんを縛って調教してんだよ。気付けよ異変に。
「……よく見るとてめえ……すみれじゃねーか。それにふたばも……」
 気付くの遅いから。
「な、なんだお前ら。もしかして俺に抱かれに」
 最後まで言う前にあたしはとしあきに向かって、たまたま近くにあった高そうな花瓶を投げつけた。
 花瓶はとしあきではなく、壁にぶつかり粉々になった。
「……避けるなよ、空気読めないなぁ」
「避けるに決まってるだろ!空気読むとかそういう話じゃねーよ!殺す気か!?」
 としあきが怒鳴る。
「うん」
「……死ねば……いいのに」
「死んだら花くらいは手向けてやりますわ」
 仕えていた山本さんにも死ねばいいと言われている。ノブオも裏で陰口言ってたし、こいつどんだけ人望ないんだよ。
「てめえら、何を言ってるのかわかって……って、ふたばが喋ってる!?」
 うんまあ、驚くところそこじゃない。というか、こいつは状況がわかってるんだろうか。
「は!まさかお前ら俺に求婚」
「馬鹿の相手するの嫌だから用件言うわ」
 あたしは宝石をとしあきに向けた。
「今からあんたに復讐をする。なんの復讐かは……言うまでもないわね?」
「……復讐?まさかお前ら、輪姦したの根に持ってんのか?」
「普通持つわよ。当たり前じゃない」
「け、物好きだな。俺らが犯った他の女達は何も言ってこないぜ?」
「泣き寝入りよそれは」
 なんかもう、真面目に相手にするの辛いわコイツ。
「そうだ。みんな泣き寝入り。何故かわかるか?俺の親父は」
「悪名高きあの会社の社長様。そしてお前は御曹司様だね」
「わかってるじゃないか。俺がその気になればお前らをこの町で暮らせなくしてやることだって容易いもんだ」
「へえ、そうなの」
「だから犯されたぐらいでピーピー喚いてんじゃねえよ!生かしてやるだけ感謝しやがれ!!」
 傲慢な奴だ。
 しかしそれも当然。レイプ程度の罪じゃ、いくらでももみ消せる程度の権力を持ってるんだから。

 だけどさ、お前の罪は、それだけじゃないだろう?
「黙れよ人殺し」
「は?誰がだよ?誰が誰を殺したって?」
「……お前が……兄さんをっ!」
 枯れたような声を押し出すように、ふたばが叫ぶ。
「へえ。証拠は?あるの?証拠もないのに殺人鬼呼ばわりとか、最低よ?」
「あるよ」
「へ?」
「殺害現場はここ。あの夜、ふたばの時の証拠を持ってきよひこお兄さんはここに来た。
 隙を見て気絶させたあなたは、何らかの薬品――遅効性の奴を酒と一緒に飲ませてふたばの家の近くに放置した、ってところね」
 さすがに何を飲まされたかまではテラ先輩でもわからなかったけど。
「だから、証拠はあるの!?」
 イライラしたようにとしあきが怒鳴る。
 それを無視して、あたしは部屋を見回す。
「このお屋敷、豪華だね」
「は?」
「調度品とかもいい物が揃ってるし。さっき投げた花瓶も高いんでしょ?」
「何を言ってるのよ……」
「でもまあ、あたしはここに住みたいとは思わないな。だって……」
 あたしはタンスの陰に置かれた置物の一つをどかして、ソレを見せ付けた。
「盗撮されてるから、ね」
 ソレは、壁に空いた小さな穴――その奥にはカメラのレンズがあった。
「……ええっ!?」
 驚くその表情としぐさに、あたしは心の中でガッツポーズをした。
 すべてうまくいっている。まだあいつは、気付いていない。
 ふたばが後ろで笑いを堪えている。うん、今凄く面白いよね、あいつの姿。
 でもまだ。完全じゃない。あとは、形だけ。
 あと少し。うまく演じるんだ、あたし。探偵役という道化を演じ通せ。
「この屋敷には全部で2039個の隠しカメラが設置されてるらしいわよ。あなたがお兄さんにやったことはバッチリ映ってたわね」
 もちろんカメラを仕掛けたのは、トカゲのジョージことテラ先輩。
 どうやってこんなにも大量のカメラを調達し、仕掛けたかはわからない。
 だけど理由はわかる。監視だ。
 テラ先輩は「大本の事故もとしあきのせい」だと言った。
 大本の事故、とは恐らく、ふたばが喋れなくなった時のあの交通事故。
 あの事故でふたばは両親を失い、テラ先輩はふたばの言葉を封じて、消息を絶った。
 理由は知らないが、とにかくテラ先輩はとしあき達から身を隠す必要があったのだろう。
 だからこそテラ先輩の生存を知るふたばの言葉を止め(うっかり喋るから)、あたしに至っては生きていることを忘れさせられた(あたしもうっかり喋るから)のだ。
 ……あたしとふたばで処置に差がある気がするけど、そこはまあ、多分二人とも喋れなくなったら大変だと言う配慮だと思う。
 きっとそう。間違ってもあたしの方が信用できないからではないと思う。うん。
 ともあれ、身を隠したテラ先輩だが、としあき達の同行は気になる。
 なので、テラ先輩は得意の催眠暗示を活用してあちこちに信用できる人脈をつくり、トカゲのジョージを作り上げた。
 その傍らで、常にとしあき達を監視していたのだ。
 もっとも、ふたばのレイプやきよひこお兄さんの死のことを考えると、あまり監視の意味はなさそうだったが。

「さて、これでも言い逃れする気?何なら映像見せようか?この田舎でポータブルDVDプレイヤー探すの大変だったんだからね?」
 その言葉に合わせてふたばが取り出したプレイヤーからは、としあきとお兄さんが口論している様子が映っていた。
「そ、そんなのでっち上げよ!おれがそんなことするわけないじゃない!」
 うん、すっかり出来上がってるね。
 そろそろ、頃合かな。
「ま、でっち上げでも何でも、これを警察に渡せばあなたは御終いだ。……もっとも、すでに復讐の第一弾が終わってるけどね」
「な、なんのことよ……」
 あたしは宝石を一旦ポケットにしまいながら、としあき『だった』ソイツに言ってやった。
「自分の身体を見て御覧なさい、お嬢さん?」
「え?」
 としあきは自分の身体を見下ろし、驚きの表情を上げた。
 そこにあったのは男の裸身ではなく、漆黒のワンピースの上に白いエプロンをつけた女の身体だったから。
「えっ……なにこれ……あたし、どうしちゃったの?」
 その姿はどこからどう見ても、メイドの少女だった。


 宝石をとしあきに向け、あたしは魔法を使った。
 その魔法は、『気付かないうちに相手を少しづつ女に変える』魔法。
 その様子を少し遡ってもう一度見てみよう。
「今からあんたに復讐をする。なんの復讐かは……言うまでもないわね?」
「……復讐?まさかお前ら、輪姦したの根に持ってんのか?」
「普通持つわよ。当たり前じゃない」
「け、物好きだな。俺らが犯った他の女達は何も言ってこないぜ?」
「泣き寝入りよそれは」
「そうだ。みんな泣き寝入り。何故かわかるか?俺の親父は」
「悪名高きあの会社の社長様。そしてお前は御曹司様だね」
 この辺りから変化が始まる。
 丸裸の身体に、どこからともなく現れた布が巻き付いていく。
「わかってるじゃないか。俺がその気になればお前らをこの町で暮らせなくしてやることだって容易いもんだ」
「へえ、そうなの」
「だから犯されたぐらいでピーピー喚いてんじゃねえよ!生かしてやるだけ感謝しやがれ!!」
「黙れよ人殺し」
「は?誰がだよ?誰が誰を殺したって?」
 布が黒く染まり、ワンピースとなる。
 この時点ではまだとしあきの身体に変化はない。
 ただし、もっと深い部分での変化はすでに始まっていた。
「……お前が……兄さんをっ!」
「へえ。証拠は?あるの?証拠もないのに殺人鬼呼ばわりとか、最低よ?」
 多分この時にはすでに口調が変化していて、奴の喋る言葉は、自動的に女言葉になるようになっている。
 ちなみにこの場合の女言葉は、としあきの脳内で女言葉と定義されている物が選ばれるようにしてある。
 まったくの余談だが、女言葉に対して否定的な人が稀に英語を持ち出すけど、英語にも女性が好む言い回しがあるそうな。それを女言葉といっていいかは知らないけど。
「あるよ」
「へ?」
「殺害現場はここ。あの夜、ふたばの時の証拠を持ってきよひこお兄さんはここに来た。
 隙を見て気絶させたあなたは、何らかの薬品――遅効性の奴を酒と一緒に飲ませてふたばの家の近くに放置した、ってところね」
「だから、証拠はあるの!?」
 この辺りで声も女のような高いものになっている。
 この声で電話に出たら、誰も男だとは思うまい。
 ワンピースの上に白いエプロンが被さると同時に、胸がうっすらと膨らんできていた。
「このお屋敷、豪華だね」
「は?」
「調度品とかもいい物が揃ってるし。さっき投げた花瓶も高いんでしょ?」
「何を言ってるのよ……」
「でもまあ、あたしはここに住みたいとは思わないな。だって……」
「……ええっ!?」
 この時のとしあきは、身体を小さく竦め、口に両手を当て、目を見開いていた。
 まるで御淑やかな女性がびっくりしているかのような、そんな仕草。
 いつの間にか、顔が厳つい男性的な物から、柔和で女性的な物に変わっていた。
 髪が爆発的に伸びていく。
 身体がだんだんと小さくなっていく。
 それに反して、胸はどんどん膨らんでいく。
 その光景はどこか滑稽で、あたし達は笑いを堪えるのに必死だった。
「この屋敷には全部で2039個の隠しカメラが設置されてるらしいわよ。あなたがお兄さんにやったことはバッチリ映ってたわね」
 どうでもいいけど、カメラの数が多すぎる気がする。
 どこぞの死神漫画でももっと謙虚な数だったはずだ。設置場所は大胆すぎたけど。
「さて、これでも言い逃れする気?何なら映像見せようか?この田舎でポータブルDVDプレイヤー探すの大変だったんだからね?」
「そ、そんなのでっち上げよ!おれがそんなことするわけないじゃない!」
 腰が細くなり、お尻が大きくなる。
 股間の辺りが一瞬膨らむが、少しづつ山が小さくなっていく。一旦勃起してから縮んでいくのはなかなか素敵な趣向だ。
「ま、でっち上げでも何でも、これを警察に渡せばあなたは御終いだ。……もっとも、すでに復讐の第一弾が終わってるけどね」
「な、なんのことよ……」
 股間の膨らみはなくなり、胸の膨張も収まった。
 髪の色が真っ赤に染まった。ありえない色のほうが、目立っていい。
 それ以上の変化が見受けられないので、あたしは宝石を一旦ポケットにしまいながら、としあき『だった』ソイツに言ってやった。
「自分の身体を見て御覧なさい、お嬢さん?」
「え?」
 としあきは自分の身体を見下ろし、驚きの表情を上げた。
 そこにあったのは男の裸身ではなく、漆黒のワンピースの上に白いエプロンをつけた女の身体だったから。
 真っ赤な髪と大きな胸を揺らしながら、としあきは自分の身体のあちこちを手で触り、自分に起きた変化を確認する。
「えっ……なにこれ……あたし、どうしちゃったの?」
 その声も喋り方も、自分の身体に触れる仕草すら、元のとしあきとは似ても似つかない、女らしさを放っていた。
 誰が見ても、この少女が男であったなどとは誰も思わないだろう。
 ……美少女にしすぎたな。
 ちょっと復讐するのが勿体無い気分になった。

 まあ、やるんだけど。
「さて、今のあなたを苦しめるのは簡単なわけだけど」
 そう言って出来たての胸を思いっきり掴む。
「ぁうっ!」
「例えばあたしやふたばがやられたように、不特定多数の男を連れてきてレイプ」
 胸から手を離し、今度は華奢になった腕を掴む。
 これくらいの細い腕、あたしなら簡単に折れる。
 そしてそれをとしあきは知っている。だから、としあきはあたしの腕を振りほどこうと腕を動かそうとするが、ぴくりともしない。
「例えばコマチがヒデユキにされていたように、暴力」
 だんだんと顔が青ざめてくる。
 いいよいいよ。もっと怯えなさい。
 あたしは腕を放し、今度は軽く両手で首を絞める。
「あるいはノブオのところに連れて行って、あなたも触手地獄を味わう?気付いたときには身元不明で、かつ子連れの淫乱女ね」
 今度は右手をとしあきの頭に乗せる。
「そういえばヒデユキは完全に記憶消されちゃったわねぇ。あなたにもやってあげようか?」
 まあこいつにそれはやらないけど。罪の記憶は、忘れさせない。
「子供にしてタカアキの所に放置しようか?あの変態はあなたの言い分なんて聞かないわよ?」
 まあタカアキは未だにあの地下で自分の分身に犯され続けてるみたいだけど。……あいつは何人幼女犯してたんだか。
「それともマサヒコのように壊れるまでレズ三昧……は駄目ね。業界的にはご褒美だからね」
 どこの業界かは言わずもがな。
 わかばが勝手にやった事だけど、今思えばそれくらいはやっておいたほうが良かったね。あたしの意思で。
 としあきは完全に怯えきっていた。
 顔は青ざめ、がたがた震えている。
 じゃあ、少しだけ安心させてあげよう。
「きよひこお兄さんは死んじゃったけど、殺しはしないよ。大丈夫。死んだほうがマシってくらい酷い目にあわせるだけだから」
 そして、とっくにやる事は決まっている。
 あたしは宝石を再び取り出し、としあきの目の前に持っていく。
「そうね……痛みよりも辛くて苦しい、最悪の感覚って、知ってる?」

「んっ……ん〜〜!!!」
 股間を押さえながら、としあきは床で悶え続けている。
 両脚を擦り合わせるようにモジモジとし、時折大きく地団駄を踏む。
「どう?『出したくても出せない』感覚は」
「だっ……出させて!出させてよぅ!」
「駄目よ。それじゃ復讐にならないじゃない」
 今にも泣き出しそうなとしあきを、あたしは突き放す。

 としあきにかけた魔法は『尿が出なくなる』という、単純な物である。
 単純ではあるが、これはかなりきつい。
 尿意はどんどん溜まっていく。でも出せない。
 これが意外と辛いらしい。
 とりあえずじっとしてはいられない。でも動いたからといってでるわけでもない。
 尿は外に出よう出ようとするのに、ほとんどでない。
 でも尿意は溜まるので、時間が経つにつれて辛くなっていく。
 放っておけば膀胱が破裂して、死ぬ、らしい。
 もっとも殺す事が目的ではないので、膀胱の限界に達する手前辺りで出せるようにはなるようになっている。
 その頃には体力がつき、バテバテだろうけどね。

 それにしても――
「ぅあっ、だ、だめぇっ!」
 としあきは身体を大きく跳ね上げながら、床でのた打ち回っている。
「ぅっ、ぅぅ……」
 身体中から吹き出る汗を漆黒のワンピースが吸い上げ、身体のラインを浮き出すように張り付いていた。
「あっ、あぅ、ああぅ!」
 脚をドンドンと床に叩きつけ、その度に大きな胸が上下する。
 ……スタイルいいなぁ。
 こんな娘を街中に放置したら男共は放っておけないだろうね。
「も、もうだめぇっ」
 一際大きく暴れた後、安堵の表情と共にとしあきの動きが大人しくなった。
 やがてスカートの裾から大量の液体が漏れ出し、床や服を湿らせていった。
「はぁっ……はぁっ……」
「あら恥ずかしい。その歳でおもらしだなんて……って聞こえてないみたいね」
 やっと苦痛から解放された安堵感を味わうとしあき。
「落ち着いているところで悪いけど……あんたに書けた魔法の効果は一生続くからね」
「……へ?」
 ぼんやりとした表情でこちらを見る。その顔にはもう、男だった面影はない。
「あんたは一生メイド服を着た若い女の子の姿。外見だけは歳も取らない、男にも戻らない。
 いつか何らかの原因で死を迎えるまで、一生メイドさんなのよ」
「そ、そんな……嘘でしょ?」
「本当よ。ついでにおしっこするときは一生さっきまでのように我慢し続けてからじゃないと出ないわね」
「ひ、酷い……な、なんでそんなことするのよぅ……」
 涙目であたしの顔を見つめてくる。
「あら?復讐って言ったの忘れた?あなたが男としてあたし達にした事、忘れたとは言わせないわよ?」
「それは……その……」
「嫌なら抵抗すればいい。殴りかかってみれば?今なら反撃しないわよ?」
 かつてのとしあきならば、ここであたしに掴みかかってくる事であろう。
 でなくても、無抵抗で泣き続けるなんてことはありえない。
 でも、今のこいつには。
「そ、そんなことできないよぅ〜」
 抵抗するなんて事は、考えられない。
 既に三つ目の魔法は効果を発揮しているのだから。
「あら、なんでなのかなぁ?ふたばの時みたいに、力で無理矢理ねじ伏せてみたら?」
「む、無理だよぅ」
「あたしは反撃なんてしないわよ?それでも、抵抗しないの?」
「そ、そんな酷い事、できないよぅ……ぅぅ……ふぇ〜〜……」
 としあきはついに声を出して泣き出した。

 あたしがかけた三つ目の魔法。
 それは、『反抗しようとすればするほど、恐怖心が強くなる』という、ちょっとした暗示のようなものだ。
 人間、抑圧をされれば必ず反発しようとするものだ。
 実際に抵抗や反逆を行うかは別としても、心のどこかでそのような感情――怒りを蓄えていく。
 あたしはその怒りを、そのまま恐怖や絶望に摩り替えるようにした。
 としあきとしてみれば、今のこの状況は屈辱以外の何者でもない。
 あたしやふたばに対する『怒り』は相当なものになっているだろう。
 だが、その『怒り』を『怒り』であると認識する事はできない。
 自ら抱いた『怒り』が、そっくりそのまま『恐怖』となって返ってくる。
 抵抗しようと考えようにも、溢れ出る恐怖心でまともな思考が出来なくなる。
 恐らく「もし抵抗して、もっと怖い目にあったら……」などということですら考えられないだろう。
 考えるより前に、理由もわからぬまま怖くなっていく。

 ここにいるのはもう、としあきなんて男ではない。
 ただひたすらに怯え続ける、名も亡き少女だ。

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 さて、わたし――わかばとテラさんは、アキヒサとかいう男の前にいます。
 否、いましたというのが正解でしょうか。
 今わたし達の前にいるのは、一人の小さな少女でしかないのですから。
「お、お前達、俺に何をした!?」
 少女特有の高い声が部屋中に響きます。よく通る、澄んだ声ですね。
「理解する必要はないね」
 そう言いながらテラさんはその少女にゆっくりと近づきました。
 そしてそのまま床に押し倒します。
「いいザマだなぁ、アキヒサ。この日を、この時をどれほど待ちわびた事か!」
「な、なにを……」
「私の顔、見忘れたか?天城といえば、わかるか?」
 アキヒサは目を見開き、テラさんの顔を見ました。
 その表情は、明らかに恐怖で引きつっていました。
「天城の……娘か?」
「ああそうだ。お前に会社潰されて自殺した、天城夫婦の娘で……」
 テラさんは拳を握り締め、
「勝手にお前の馬鹿息子の嫁にされそうになった、哀れな娘だよ!」
 アキヒサの顔に振り下ろしました。

 ドン、と少し鈍い音がして、顔――それも、目のすぐ横の辺りにテラさんの腕がありました。
 拳は、床を貫いていました。
「自己催眠でリミット外してある。今の私は、鬼より強い」
 アキヒサの目に涙が浮かんでいました。
 あんなパンチが当たっていたら、顔はぐちゃぐちゃになっていたでしょうから当然です。
「さて、お前の罪を数えてやろう」
 テラさんは笑顔でした。
 その姿に私は、すみれさんの持っていた漫画にあった、「笑うという行為は本来攻撃的なもの」という言葉を思い出しました。

「まず一つ。父の会社に裏から手を回し、経営を傾かせた事。
 そして私の身と引き換えに資金援助するという話を持ちかけた」
「で、でもそれに応じなかったじゃ……」
「当たり前じゃないか。そんな時代劇の悪徳問屋みたいな話に乗っかるわけがない。
 第一、なんであんな奴の嫁にならねばならん。取引としてまず成立してないんだよ。
 で、断ったら今度は嫌がらせ。
 悪戯電話から始まり、果ては給料未払いや税金未納といった、社会的信用に関わる事件をでっち上げた。
 おかげでうちの両親は首をつったよ。
 実際にそんな事例はなく、お前の策略であったというのに。
 証拠もバッチリある。言い逃れは出来ないぞ?」
「ど、どうやって……」
「秘密。
 さて二つ目。どうやっても私が思い通りにならなかったから、きよひこの家族と私を事故に見せかけて殺そうとした。
 あれは……痛かったなぁ。一歩間違っていたら死んでたよ?」
「というか、なんで生きてる!?」
「それも秘密。
 三つ目。馬鹿息子とその仲間達の罪を全部揉み消した。
 きよひこの殺害からふーちゃん達のレイプ、タカアキの監禁にヒデユキのDV、その他多数の罪をなかったことにした」
「……」
「あとは……たくさんあるね。私達以外の人も色々酷い目にあってたみたいだし。どうでもいいけど」
「どうでもいいのかよ!」
 アキヒサがつっこんだ。
「うん。どうでもいい。重要なのは、今からお前に復讐できるってことだけだもん。
 結局のところ、お前の存在が気に食わないだけなんだろうね、私は」
 物凄くいい笑顔で、最低なことを言いましたね。
 まあ、赤の他人の分まで復讐っていうより、人間らしくていいと思いますけど。
「で、俺をこんな姿にしてどうする気だ?」
「いやまあ、なんて事はないんだけどね。この身体にしたのは押さえ込むのに便利なだけだし」
 そうだったんですか。
「ああ、そうだ。こういうのはどうだろうか」
 そう言った後テラさんはわたしの方を向き、その願いを伝えました。
 わたしはその願いを叶えるため、魔法の詠唱を始めます。
『オワディドナイドガオワディ ゾリガゴ-ヅドエグスベディベンスリグイエヴ』
 するとアキヒサの身体が少しずつ透明になっていきます。
「な、なにがおこってる!?」
 声を上げる間にも、アキヒサの身体は透明になっていきます。
「しばらくすれば、わかるよ。じゃあね、外道」
 最後まで笑顔のまま、テラさんはアキヒサの消滅を見守りました。

―アキヒサは―
2度と社会へは戻れなかった……。

「いや、やめ、やめろっ!」
「へへへ、いい声で泣くじゃねぇか」
「これは犯し甲斐がありそうだぜ」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

幽霊と生物の中間のよくわからないものとなり
永遠に襲われている女に次々と憑依して犯され続けるのだ。

「ハァ、ハァ、まみタン、今日もちーちゃくて可愛いねぇ」
「や、やめろ、よるんじゃねぇ!」
「おやおや、今日は男の子のフリ?それはそれでそそるねぇ」
「この変態がぁぁぁぁ!!!!」

そして感じたいと思っても痛みでそれどころではないので
――そのうちアキヒサは考えるのをやめた。

「……」
「おいおい、こいつマグロかよ……」
「そんなのどうでもいいよ。穴さえありゃ同じだ」

………
……




「終わりのないのが終わり。
 これがゴールド・レイプ・レクイエム!!」
 最後の最後で、こういうオチですか。
 というか二部か五部かどちらかにしてください。

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 こうして、あたし達の復讐は終わった。


 としあきはその後、どこかのお屋敷へ引き取られたらしい。
 今でもおもらしばかりして、それを理由にお仕置きされているとか。

 タカアキは未だにあの地下室の中らしい。
 わかばが言うには、「面倒だからループさせる事にした」そうで。
 ……それ、アキヒサの運命と大して変わらないのではないだろうか。
 そう思ったけど、黙っておいた。

 マサヒコ一家は未だにレズ三昧らしい。
 最近は近所の主婦も誘惑し、離婚の危機を迎えている家庭もあるそうな。
 素敵ですね。

 ノブオは夢百合草に犯されている。
 もうすぐ一人孕むらしい。
 できれば破裂はさせないで欲しいと思う。


 テラ先輩はまたどこかへ消えた。
 トカゲのジョージのソフトも、いつの間にか消されていた。
 ふたばの知っていた連絡先にも繋がらなくなっていた。
 テラ先輩と会うことは、もうなかった。


 コマチは母親と元気に暮らしているらしい。
 母親も落ち着いてきたので、もうすぐこちらへ戻ってくるそうだ。
 また楽しくなりそうだ。


 山本さんはふたばの家に住み着いている。
 隙あればセクハラしてくるので、どうにかしてほしい。

 わかばは犬として暮らしている。
 ……お前は本当にそれでいいのかと言いたい。

 ふたばは在宅の仕事をかんばっている。
 声を出せるようになったとはいえ、まだ乗り物や男に対する恐怖心は完全に克服していない。
 でも、ふたばなら大丈夫だと思う。


 そしてあたしは……。




     仕事、探さないとね。
      ふたばと、生きていくために。




「ぶっちゃけ今のところニートですもんね」
「……それを言うなよ」




色々と酷いですが、これで完結です。
一年4ヶ月もかけてこんなオチですいません。


以下、裏話的な言い訳。


実は「復讐の願い」の1を書いていた辺りで、結石が尿道に詰まって入院しました。
尿が出せないのは本当に辛いです。マジで。実体験したから間違いありません。
なので、今回の復讐はこんな感じになりました。

実は途中調子に乗って、「実はテラとすみれが付き合っていた」とか「テラの両親が黒幕」とか考えていましたが……やらなくて正解だと思います。
「じゃあきよひこへの片思い設定はなんだったんだ→テラの暗示です」というのはさすがにまずかろう、などと考えているうちに色々長引いてしまいました。


最後に、この話をラストまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
次はもっと早く終わらせますすいません。



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