復讐の願い 3



 そこにはもう、男は一人もいませんでした。
 五人の女性が、全裸で、そしてロープで縛られている光景はあまりに異様でした。
 しかし、これで終わりではありません。
 彼女達にとっての『地獄』は、ここから始まるのです。

 自らが与えてきた恐怖を、屈辱を、恥羞を、そして絶望を。
 それら全てを、百倍返し。それが彼女の願い。
 何を基準に百倍返しなのかまったくわかりませんが、とにかく酷い目にあわせろということでしょう。
 いいでしょう、やって見せましょう。
 貴女達の味わった地獄よりも、もっと深い所まで堕としてみせましょう。
 逃げるのも、壊れるのも許しません。

 だって、わたしも彼女も、みんな怒っているんですから。

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 前回までのあらすじ

 いろいろあったけど、すみれさんは3人目への復讐を成し遂げました。ほとんど自分の手を汚さずに。

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 さて、ここからはわたし――魔法少女かつ犬なわかばからの視点から始めさせていただきます。
 わたしはすみれさんとは違い、結構いい加減ですので予めご了承ください。

 え?すみれさんはどうかしたのかって?
 ええ、ちょっと大変なことになってしまいました。
 あまりに大変すぎて、ふたばさんに(性的な意味で)食べられてますね、たっぷりと。
 今、隣の部屋で二人がレズってますが、ただのレズシーンなので省略です。
 ただ、ペニパンも男性器も無いことだけは保障します。
 どこぞの悪魔の子作りのように生やしません。(※図書館内『あくまのむすめ 発動編』参照)
 ちなみにふたばさんが攻めのようです。

 どうしてこうなってしまったのかというと、それは数日前まで遡ります。
 ちょっと長い話になりますので、興味がない場合は読み飛ばしてしまう事をお勧めします。

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 まず、前回の復讐の後日談から始めましょう。

 コマチさんはふたばさんの家でそのまま暮らすことになりました。
 どうやらすみれさんとわたしに感謝しているようで、『恩を返したいから』と言っていました。
 すみれさんはは自分の為に利用しただけだし、わたしも自分の楽しみで協力しているのだから、感謝されるのは違う気もしますが、まあいいでしょう。
 そもそもコマチさんの生活は、なんだかんだでヒデユキに依存している部分もあったので、それを奪った形になるわたし達が責任を取るのは当然でしょう。
 親元に帰す?そんなの、つまらないじゃないですか。
 もっとも、しばらく外出させる事はできませんけどね。見つかったら色々困りますし。

 ヒデユキはミチナガ診療所に預けてあります。
 わたしとしては別に放置して、犯された挙句に野たれ死んでしまっても一向に構わないのですが、すみれさんに止められました。
 「コマチにとっては、最低の人間とはいえ、一応身内。さすがに可哀想」と。
 甘い考え方です。けど、すみれさんはそれでいいと思います。酷い事は、わたしがやればいいのですから。
 とはいえふたばさんの家に入れるわけにはいかないので、ミチナガ診療所に押し付ける事になりました。――殺さなければ何をしてもいい、という条件付きで。
 実はこの診療所、非合法スレスレの治療を行ったり、色々訳ありな患者に都合を付けてあげたり、時には人体実験をしたりと、とにかく如何わしいのです。
 そんなところに預けて大丈夫なのかは不安です。腕は確かなようですけど。
 実際、前々回の復讐の時に助けた女の子達はみんな元気になってますが、目玉ぐるぐる回しながら「目だ!耳だ!鼻だ!」とか「今なら1+1が2である理由がわかります!いや、なんで2だと思っていたんだろう!」とかいっている子達が正常だとは思いません。
 「よくもこんなスバラシイ身体にしてくれたのぉ!」と言っていた子もいるのが、激しく不安です。具体的に言うと、風呂敷広げたのに畳まないのではないかという懸念を抱いています。
 何を言っているか解らない?それはそれで幸せなことですよ。
 
 なお、コマチさんの母親やヒデユキのバイト先の関係者達からは(コマチさんの希望により)ヒデユキの記憶を消してあります。
 騒ぎになっても困りますから。としあき達の記憶は消していないので、画竜点睛を欠いている状態ですが。

 さて、本題です。
 ここからは、わたしが心や記憶を読んだり、直接調べたりした事を中心に話を進めていきましょう。
 事件は、すみれさんが買い物に行ったっきり帰ってこなかった所から始まります。

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 その日のあたしは夕飯の買い物のついでに、いきつけの古本屋で立ち読みをしていた。
「たまには買ってくださいよぅ……」
 カウンターに座る、御淑やかな雰囲気の少女――現在の店主であるヒメコがいつものように言うので、あたしもいつものように返事をする
「気が向いたらね」
 我ながら酷い客である。
 この小さな古本屋は、以前はヒメコの祖父が経営していたという。
 ところがその祖父が突然行方不明になったため、ヒメコが代わりに店をやっているらしい。
「それにしても、マンガ本増えたね」
「最近は活字離れが進んでますから。マンガですら、読み方が解らないって避けられている時代です。本の種類に拘ってられません」
 どうやら経営状態は芳しくないようだ。
「みんなもっと文字を読まないとだめだねぇ」
「……で、すみれさんは今何を読んでいましたっけ?」
「奇妙な冒険物のマンガ」
 そんなに活字ばかり読んでいられるか。
 それにしてもこのマンガ、なんで6章目から絵柄が濃くなったんだろうか。というかなんで副題が大きく出るようになったんだろう。
 ……まあいいか。面白いし。
 でも6章目の終わり方はちょっと納得いかない。個人的には5章目のボスの末路くらいエグイのを見たかったなぁ。
「すみれさん」
「なにか?」
「私、これからここで逢引きなんですよ」
「……相手はこの間のお姉さん?」
「はい」
 以前この店で出会った女性を思い出す。
 忘れようもない。何せ初対面で(ヒメコと間違えられて)キスを迫られたのだ。
 しかもその後、別人だと気付いたのに「まあいいか」と押し倒された。
 その時は何とか貞操を守りぬいたが、出来れば係わり合いになりたくない相手である。
「……帰る。今すぐ急いで帰る」
「またのご来店をお待ちしていますね」
 ヒメコの営業スマイルに見送られながら、あたしは古本屋から出た。

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 こんな出来事の後、すみれさんは行方不明になったようです。

 いつまでもすみれさんが帰ってこないため、ふたばさんは大変心配そうにしていました。
 また、大切な人がいなくなるのではないかという不安を感じていたようです。

 結局その日、すみれさんは帰ってきませんでした。

 翌日も、わたし達はすみれさんを待っていました。
 恐らく、すみれさんは何らかのトラブルに巻き込まれているのでしょう。
 そしてそれには、としあき達が関わっている事は間違いありません。
 コマチさんが探しに行こうと考えていましたが、それは止めました。
 こんな状況でふたばさんを一人にするのは危険に感じたからです。
 それにコマチさんがここにいることがばれてしまったら、復讐の事がばれてしまうかもしれません。
 とはいえなにか手があるわけでもなく、わたし達は昼頃まで何も手がつかない状態でした。

 この状況を変えたのは、意外なことにふたばさんでした。
 ふたばさんは突然立ち上がると、電話を取り、ゆっくりと番号を押し始めました。
 喋ることができないふたばさんが電話を使ったことに疑問を持ったわたしは、そちらに注意を向けました。
 一応、今は犬の身なので、聴力と嗅覚は自信があります。もっとも、本物の犬の能力には遥かに劣りますが。
『……もしもし?誰?』
 微かに、電話の相手の声が聞こえました。
 ふたばさんは受話器をコンコンと指で軽く叩きました。
『ふーちゃんか。あなたが電話してくるって事は、なにか、あったのね?』
 コンコンココンコココン……
 ふたばさんはまた受話器を何回か叩いていました。
 恐らくそれでコミュニケーションをとっているのでしょう。わたしには理解できませんが。
 心を読めば何を伝えているのかは理解できるので、そちらを併用してみる事にしました。
『ええ、今のあなた達の生活は知っているわ』
 ココココンコンコココンコン……(昨日の夜からすみれが帰ってこない)
 意味を理解したうえで見ていても、まったく法則がわかりません。
『……すみすみが?本当なの、それ!?』
 ココココココココココココ……(もしすみれの身になにかあったら、私っ…!)
 ただ連続で叩いているだけなのに、そんな意味があるのでしょうか。
『落ち着いて、それじゃ、聞き取れないから!!』
 ないのですね。……そもそもこのやりとり、正常に伝わっているのでしょうか。
 コンココンコココンココン……(最近、すみれ達がコソコソしてた。あなたが何か吹き込んだ結果だよね?)
『ええ、その通りよ。……やっぱり、気付いていたのね』
 コココンココンココココン……(一緒に暮らしていれば、ね。多分、その事が関係あるのかも……)
『……そうね、だとしたら、全部私のせいだね』
 コン……(違う。二人を止めなかった私も悪い)
 二人?どういうことだろう。それにさっきは、すみれ『達』と言っていた。もしかして……。
『ううん、やっぱり、私がすみすみを巻き込んだのがいけないんだよ』
 コココ、コココン……(今後の事を相談したいんだけど、近くにいる?)
『うん、すぐに行く……けど、到着は夜になるね。そうだね……それまで共犯者と話をしていてくれない?』
 コココン、コン……(そうだね。ちょうど、目の前にいるわけだし)
 その時、ふたばさんと目が合いました。なんてことのない、優しげな目。
 でも何故かその瞳を見ていると寒気を感じました。
『ああ、やっぱり気付いてたんだね……わかばだっけ?聞いているんでしょう?』
 突然自分の名前を呼ばれて、わたしはびっくりしました。
『あなたの正体までは判らなかったけど、すみすみを手助けしていたの、あなたなんでしょう?ふたばも、気付いているわよ』
 ふたばさんが物凄くいい笑顔を浮かべていました。
 この時、わたしは初めて笑顔が凶器になる事を知りました。

 考えてみれば、当たり前のことなんですよね。
 友人が自分の犬を連れて深夜に出歩いていれば、おかしいって気付きます。
 わたし達もふたばさんが眠っている間を狙っていましたけど、夜中に起きる事までは想定していませんでした。
 否、そうでなくても気付かれていた事でしょう。一緒に暮らしているんだから。

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 最初に違和感を感じたのは、兄さんが死んだ翌日の朝だった。
 目が覚めた時、兄さんの部屋の方で話し声が聞こえたのだ。
 その声は、聞きなれたすみれの声と、聞き覚えのない女の子の声。

 その頃からだろう。すみれの雰囲気が変わったのは。といっても、本当に些細な変化だけど。
 例えば食事の時、すみれは好きな物から食べる癖があって、嫌いなものは必ず残していた。
 それが今は何でも食べる。ついでに好きなものは最後にとっておく。
 本を読むときも、すみれはあとがきから読む派だったのに、最近はむしろあとがきを読んでいないようだった。
 料理の味付けは薄味になってたし、右利きなのに左手で字を書こうとしていたこともあった。
 それらの変化は、ある人物のことを思い出させた。兄さんだ。
 最初はすみれが兄さんの真似をしているのかと思っていたけど、そうではないようだ。
 すみれはそれらの行動を、本当に無意識に行っていたようだから。
 逆に、普段の行動が若干ぎこちなくなっていたのもその関係なのかもしれない。
 他にもわかばを連れて夜中に何度か出かけていたし、お風呂でオナニーしていた事も何度かあった。丸聞こえだったよ。
 決定的だったのは、ある日の事。すみれの部屋で話し声が聞こえたのだ。
 おかしく思い、わたしはこっそりと部屋を覗いた。
 そこで見たのはすみれとわかばが、話をしている所を。
 一瞬、頭がおかしくなったのかと思った。犬と話をするなんて、普通はありえないのだから。
 だけどそんな事はすぐにどうでもよくなった。
 そこで語られていたのは、としあきに対する復讐の事だった。

 ――としあき。その名を聞くだけで、あの屈辱が思い出される。
 あいつは、あいつらは、私の身体を弄んだ。
 ただただ自分の欲求の為に、陵辱の限りを尽くしたんだ。
 そんな奴等に、すみれが復讐をする――


 思えば、この時止めておけばよかったのだ。
 そうすれば私は大事な人を傷つけずに、穢されずに済んだのに。
 だけど私は、すみれが私や兄さんの為に行動してくれた事への嬉しさ、としあきへの憎しみで冷静な判断ができていなかった。
 だから、聞かなかったことにしてしまった。
 決して、あの人のせいだけではない。
 きっとみんな悪いんだ。私もすみれも、あの人もわかばも、当然としあき達も。

 恐らくこの事を、私はずっと後悔し続けるだろう。
 そして、罪を重ね続ける事だろう。

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 わたしとふたばさんは正面に向かい合って座っていました。
 今のわたしは人間の姿に戻っています。その方がいいと判断したからです。
 元に戻ったわたしを見たふたばさんは驚いた表情をしていました。
 そりゃそうでしょう、犬が人間になったうえに、それが前に夢で見た人物であれば。
 わたしはふたばさんに、これまでの事を全て語りました。
 黙ってごまかしてもよかったのですが、残念ながらわたしは嘘と演技が苦手です。他人に化けるのを諦めて、犬になる事を選んだくらいです。
 そんなわたしがふたばさんに嘘八百並べたところで、誤魔化す事すらできないでしょう。
 だったら正直に話した方が、お互いの為になるでしょう。
 ふたばさんに罵倒されたり追い出されたりすることも覚悟していました。
 だけど話を聞き終えたふたばさんは、そのどちらもすることはありませんでした。
 そっと唇を動かし、笑顔のままわたしに伝えました。

 じゃあ、今度は私の願いを聞いてくれる?――と。

 断る理由なんてありません。だってわたしは、元々ふたばさんの願いを叶えるつもりだったのですから。

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「ノブオ、あいつの様子はどうだ?」
「なにかぶつぶつ呟いてます。壊れちまいましたかねぇ」
「なんだ、思ったより脆いな」
「としあきさんはどうしますか?」
「俺はいいや。抵抗しないんならそいつの価値ねーし」
「了解っす」

ピッ

「また強姦か?」
「せめてレイプって言え、親父。その方がカッコいいだろ?」
「カッコいいかねぇ……若者のセンスはわからん」
「ところで、あの件だけど……」
「三人とも全く行方が掴めん。いったい、どうなっているのやら見当もつかん」
「そうか……」
「ヒデユキ君に至っては家族に聞いても、そんな人間は知らない、という答えしかないそうだ」
「ヒデユキの妹は?」
「この辺りで見かけられてはいるが、どこにいるかが全く掴めん」
「あやしいな。親父、妹の方を重点的に探ってくれ」
「ああ、わかった」

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「けっ!金持ちの坊っちゃんめ……」
 切れた電話を見ながら俺――ノブオは悪態をつく。
 いつもそうだ。思いつきで悪巧みしておきながら、としあきは安全圏でニヤニヤ笑ってるだけ。
 たまにヤるのに参加しても、何回かやったら飽きて帰っちまう。
 結局あいつにとっては、俺らはいつでも捨てられる便利な道具程度に過ぎないのだろう。
 実際、ふたばとかいう女をヤったときの仲間は捕まっているが、としあきはそいつらを切り捨てた。
 一番近い立場の俺ですらいつ切り捨てられるかわかったものではない。
 ……それでも近くにいるのは、色々おいしい目を見れるからだが。
 部屋を見回す。
 虚ろな目をして強姦されているすみれがいた。

 いつものようにとしあきの命令ですみれをヤることになった。
 いつものように一人でいるところを拉致って、監禁して、犯す。ただそれだけのこと。
 今回俺は、五人仲間を用意していた。暴れてもすぐに押さえつけられるようにだ。
 一人で相手をするには危険だから、という理由もある。
 なにせ前は、こいつ一人のせいでふたばをヤるタイミングが掴めなかったくらいだ。
 本当なら五人でも足りないかもしれない。
 実際いつもはもっと大人数でヤっている。その方が相手に恐怖心を与えやすいからだ。
 恐怖を心に刻み付ければ、警察沙汰になる事もない。大抵の女は泣き寝入りだ。
 だからせめて十人は欲しかったのだが、人が集まらない。
 いつもは女をヤるって聞けばすぐ人は集まるのだが、相手がすみれと聞いた瞬間尻込みしやがる。
 顔もスタイルも悪くない相手なのにも関わらずに、だ。
 結局、大金を掴ませてやっと五人集めた。金はもちろんとしあきのだ。

 俺を含めて六対一。少々不安だが、女一人ならなんとかなると鼓舞し、決行したのが昨日。
 普通に拉致って監禁。
 すみれも抵抗はしたが、数で押し切った。一人使い物にならなくなったが。

 すみれは黙っていた。俺が話しかけても、無関心そうに見つめるだけ。
 俺はむかついてぶん殴ってやった。
 服を破りして、脱がして、その身体を弄ぶ。
 それでも無関心な目そうに辺りを見ていたが、奴のマ○コは濡れてきていた。
 心でどんだけ拒否しようと、性的な刺激を受ければ反応はするものだ。
 そこでいつものように俺は耳元で「身体の方は嫌がってないみたいだぜ?」って言ってやった。
 そしたらこの女、なんて言ったと思う?「そんなことはない」?「言わないで」?
 違う、そんなことじゃない。こいつは、こう言ったんだ。
「ああうん、いい天気だね」
 意味がわかんねえ。
 とりあえず無視して、俺は奴のマ○コに自慢のマグナムをぶち込む。
 意外なことに、膜はなかった。
「何お前?処女じゃなかったの?」
 こいつの性格じゃ、男とヤるってありえねえと思ってたんだが。
 そしたら、こいつはとんでもない事言いやがった。
「ああ、ふたばのリコーダー入れたら敗れた」
 笛かよ!
 てか何やってんだこいつ!なんで友達の笛で膜破ってんの!?
「残念ながらもう笛の授業ないから、吹いてもらえないんだけど」
 聞いてねえ。
「でも『使った』ナスを料理して食べさせた時は興奮した。思い出すだけでイきそう」
 ガチで変態じゃねーか!なに?俺らこんなのにびびってたの?
 てかマジで変態レズ女なのかよ。ヒデユキが冗談でそんなこと言ってたけど、今はもう笑えねえ。

 すみれはそんな感じで、変なことを口走りながら犯されていた。
 壊れた女を犯すことは珍しい事じゃない。
 だから俺達は、すみれに違和感を感じながらも、ヤり続けていた。

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 その人は天城テラ、と名乗りました。
 テラさんはわたし達を無理矢理車に乗せ、物凄いスピードで走り出します。
「わるいね、私の――いえ、私達の復讐につき合わせちゃってさ」
 静かに笑いながら、テラさんはわたしに頭を下げました。
 テラさんはふたばさんより年上で、お姉さんのような雰囲気の女性でした。
 綺麗な顔立ちと、すみれさんやふたばさんより大きい胸が目を引きます。
「いえ、首を突っ込んだのはわたしですから。ところで……」
「なに?」
「ふたばさんが凄く震えてるんですけど……」
 後ろの席で、ガチガチという歯の音が聞こえそうなくらい震えているふたばさんをコマチさんが抱きかかえています。
「乗り物駄目だからね。今こうして乗っていられるのもすみすみの為、なんだろうねぇ」
「事故のトラウマ……ですか?家族と義姉になる人を失ったっていう……」
 するとテラさんは急に笑い出しました。
「そっか、わかばんも知らなかったか。そりゃそうだ、あんたとふーちゃん会話してなかったわけだしね」
 ……そんな呼び方されたのは初めてです。というかなにがおかしいんだろう。
「よし、改めて自己紹介しよう。私は天城テラ――またの名をトカゲのジョージ」
「とかげの……じょーじ?」
 聞き覚えがありました。確かすみれさんが情報を貰っていた相手のはずです。
 いわばすみれさんの復讐の黒幕。その人が、ふたばさんの知り合い?いったい、どういうことなのでしょうか。
 だけど、驚くのはまだ早かったのです。
「まあ、もっとわかりやすく名乗るのなら……幽霊だね」
「ゆうれい……?」
「そ。私はすでに死んだ人間――きよひこの彼女で、ふたばの義姉になるはずだった女さ」
 この時のわたしは、どんな表情をしていたのでしょうか。
 死んでいるはずの人間が目の前にいる――さすがのわたしも、これは初体験です。
 テラさんの身体をもう一度見直しました。今度は外見ではなく、精気を確認する為です。
 テラさんのオーラは生き生きとしていて、どう見ても死人には見えません。
「大丈夫だよ。ちゃんと生きてる。足もあるから運転はできる」
「……足?」
「あ、幽霊に足がないのは日本だけだったかな?まあ、どうでもいいけどね」
 そもそもわたし、この世界の住人ですらありませんしね。
「……なんで、あなたがここにいるんです?すみれさんはあなたが死んだと言っていましたよ?」
「うん、戸籍上は死んでる。間違いなく、確実に。
 でも、実際はこの通り。幽霊でもなく幻でもなく、確実にここに存在します」
 そう言って胸を張るテラさん。
「まあ、何故私が生きているかなんて後でもいいでしょう。今の問題はすみすみだよ」
「……すみれさん、ですか」
「恐らくあの子はとしあき達に捕まって、レイプされている可能性がある」
 視界の端で、ふたばさんの身体が大きく震えるのが見えました。
 この場にいるみんなが予想してたであろう最悪な展開です。
 特にふたばさんにとっては、もっとも残酷な現実でしょう。かつて自分が味わった屈辱を、今度は一番の友人が味わうことになるのですから。
「さて、ここで魔法少女なわかばんに質問だ」
「なんでしょうか。3サイズは84、54、83らしいですよ?」
「どうでもいい」
 ですよねー。
「こんな時の為に、すみすみに何か仕込んである?」
「そこまで準備はよくないですよ」
 どこぞの宇宙戦艦のスタッフじゃあるまいし、そんなに都合よくあれこれ仕込めません。
 ……こっそりなにか仕込んでおけばよかったと後悔しても遅いわけですね。
「そんなにうまくはいかないか……」
「急ぐしかないですね」
「……きよひこの心が、すみすみの精神だけでも守ってくれないものかねぇ」
「それこそ、奇跡ですよ……」

 この時のわたし達は、奇跡というものがわりと頻繁に起こるものだとは知らなかったのです。

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 さて、ここはどこだろうか。
 まっくらやみの中、あたしは一人で悩んでいた。
 ノブオにどこか――廃工場みたいなところに連れ込まれた事は覚えている。
 ああ、これはあたしがレイプされるなぁ。
 そんな風に考えていたら、突然視界が暗転し、気付いたらここにいた。
 全く意味がわからない。
 あれか?現実逃避の結果、こんな所にきちゃったとか?
 それともここは死後の世界で、あたしは死んじゃった?
 いやなんとなくそれはないと思う。確証はないけど。
 ……まあジタバタしてもどうなるものでもないようだし、おとなしくしていよう。
「相変わらずマイペースだね、すみれちゃん」
 きよひこお兄さんの声がした。
 辺りを見回すが、それらしき姿は見当たらなかった。
 いや、姿はある。いつの間にかあたしのすぐ隣に座ってる、あたしそっくりの娘とか。
 顔も背丈も瓜二つだった。違うのは服装だけ。あっちは制服であたしは私服。
 さっきの声の主はその娘だと思う。そして、これが誰なのかも直感的に理解した。
 理解したんだけど……
「幻聴か」
 あたしの姿なのが気に食わないので無視することにした。
「ふむ、これが女の子の身体か……」
 そしたらもう一人のあたしは自分の身体を弄り始めた。
 幻聴の上にセクハラか。性質悪いな。
「結構、胸大きいんだな……」
 いえ、手が小さいからその程度の大きさでも大きく感じるだけなんです。
 なんであたしこんな辱めを受けてるの?ねえ泣いていい?
「ねえ……なんで相手してくれないの?あたしはこんなに貴女を求めているのに……」
 そう言いながら今度はスカートをたくし上げて潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。
 スカートの下は縞パンで、あそこの部分が湿っているのがわかった。
 ……正直、ドン引きだ。
 なんであたしはこんなよくわからないところで自分の姿をした初恋の人の痴態を見なくてはならないのか。
「いいかげんにしてください、きよひこお兄さん」
「あ、気付いてた?」
「当たり前です」
 恐らくここは夢の中か心の中か……どちらにせよ、あたしの精神的な部分。なんとなく、そうだと思った。
 ならばそこに出てくるあたし以外の人物は、きよひこお兄さんの心以外にありえない。
「なんであたしの姿なんですか!」
「そりゃ、君の身体に長くいたから、元の男の姿を忘れたからに決まってる」
 自分を見失わないでください。
「なんであたしの身体で遊んでるんですか!」
「男の子だから仕方がない」
 これだから男は嫌なんだ。
「そもそもなんの用なんですか!」
「え?読者サービスだけど?」
 急にメタ的な事を言わないでください。
「だってこの話、長く続けているわりにエロ要素がほとんどないんだよ?支援所なのに」
 別に支援所だからエロ必須ってこともないですが。
「それにそろそろレズっぽいシーンがないと作者が飽きる」
 作者とか言うな。
「飽きた挙句、『今の支援所にはTS百合分が足りない』とか言い出すからね」
 レズネタは結構あるし、名作もありますよ?まだ足りないと言いますか。
「そしてこの話を止めてそういう話を書きだしかねないから、ここらで自制の為にいれようという魂胆らしい。どうせたいした物書けないのにな」
 いや、そんなこと話されても……。
「というわけで、レズろうぜ!」
「そんな『一狩り行こうぜ!』みたいに言わないでください!」
「ん?自分相手じゃ嫌かね?」
 論点はそこじゃない。
「なら、こういうのはどうかな?」
 きよひこお兄さんの姿が一瞬でふたばのものになる。
「愛すべき妹の姿はバッチリ覚えているからね。当然この姿にもなれる」
 ……シスコンか?
 というか何故妹の姿は覚えていて、自分の姿は忘れるんだよ。
 ふたばの姿のきよひこお兄さん――ややこしいので偽ふたばと呼ぶことにする――は、服を肌蹴てあたしに迫ってくる。心臓の鼓動が激しくなった。
「……やめてください。ただでさえあなたのせいでふたばをそういう目で見てしまうんですよ?」
「いやいや、君は元からそういう嗜好だったよ。抑えきれなくなったのは僕の影響だろうけどね」
「……へっ?」
 ナニヲイッテイマスカコノヒトハ?
「考えてもみなよ、なんで今までの復讐で君達レズだと思われていたのかをさ」
「そりゃ、親友同士でいつも一緒にいるから……」
「それだけでレズ扱いなら大抵の女子はレズビアンだな。女子校は百合の花が咲き乱れる桜の国だね」
「じゃあなんでなんですか。別にあたし達は普通に……」
「普通の友人関係じゃ、友達の介護までしないと思うよ。少なくとも君達の年代ではね」
「友達を助けたい、それが普通じゃないって事ですか!?」
「それ自体は普通だよ。でもさ、その為に自分の将来すら棒に振って、危険な目にあって、それでもなお一緒にいようとするのは、ちょっと普通じゃない」
「そうかもしれません、けど……」
 偽ふたばはあたしの口に人差し指を押さえつけ、言葉を遮った。
「別に責めるわけじゃないさ。むしろ、うれしく思うよ。
 大事な大事な妹をここまで想ってくれる子がいる、それはとても幸せな事だ。
 まあ兄としてはどうあがいても甥っ子姪っ子の顔が見れないのは残念だけど、まあ些細な事だね」
「……ふたばの気持ちはどうなんですか?」
「聞くまでもないじゃないか。
 あいつが家族以外で気を許したのは、テラを除けば君だけなんだから。
 まあ、恋愛感情まで発展したのは僕がここにいるから、その影響もあるだろうけどね」
 ……そこまで社会性ないように思われていたのか、ふたばは。
「まあ、君とふたばの関係は両家とも納得しているから存分に愛し合うがいい」
「……両家、とも?」
「君のお母さんには生前に挨拶しといたよ」
 何してんだあんたは!
「ノリノリだったよ。『あらあら、じゃあウェディングドレスは白とピンクがいいかしら』って感じで」
 理解ありすぎだ。
「最終的には二人並んで白無垢がいい、って言ってた」
 ……親子の縁、切ってしまいたい。
「とまあ、そんなことを離している間に全裸になってしまったわけですが」
「い、何時の間に!?」
 気付けばあたしと偽ふたばは生まれたままの姿で抱き合っていた。
「ほれ、どうせここから出る方法知らんのだろう?
 せっかくだからエロいことしていくといい」
 なにがせっかくなのかがわかりません。
「それとも何かな?怖いのかな?一方的に攻められてイかされて潮吹いてイっちゃうのが怖いのかな?」
 ……怖い?誰が?にわか女が大きな口を叩くんじゃない。
「……わかった、やってやる」
「お、やる気になった?」
「ただし……」
 あたしは偽ふたばを押し倒した。
「へ?」
「攻めるのは、こっちだけどね」
 そう言いながらあたしは、偽ふたばの胸を愛撫する。
「ひゃぅ!」
 ふたばの声に似た、可愛らしい声が辺りに響いた。
 硬くなっている乳首を舐め、クリトリスを指で弄り、愛液で満ちた膣を指で攻める。
 考える余裕など与えない。
「ちょっ、い、いや、やめっ……ひゃん!」
 すぐ次の行為へと移る。
 もちろんあたしも女同士の経験なんてない(男ともない)。
 だから必死である。隙を見せたら、こっちがヤられる。いろんな意味で。
 知識や技術はないので、手数で埋める。
 例えば、脚。脚を触られるのが苦手という人は多いと思う。作者(男)とかもそうだし。
 脚でなくても、腕でも尻でも、ヘソでもいい。
 とにかく、弱い部分を探す。
 それが出来なければこちらが攻められる。
 相手は女の身体に慣れていないとはいえ、男としてはそれなりに経験豊かな(気がする)年上。
 自慰経験と妄想力、あとは愛と勇気と復讐心だけしか持ち合わせてないあたしには不利な相手だ。しかも復讐心は今関係ないし。
 せめて技と力と心が通えばなんとかなる気がするけど、ないものねだりだ。
 そして、見つけた。
 背中。背骨に沿って指をなぞったとき、一段と激しく反応した。
「うひゃぁ!ゃ、ぁぁん!!」
 ここが、これが、噂に聞く性感帯か!ふたばもここが弱いのだろうかとちょっとだけ思ったのは内緒だ。
 偽ふたばを抱え込むように、無理矢理体勢を変える。
 背中を舐めながら、右手で胸を揉み、左手でクリトリスを弄ぶ。
「い、ひゃぅ、や、ちょっ、ちょっと、やめっ、ああん!!」
 ふたばに似た声を聞いて、あたしも少しずつ昂っていく。
 ちょっと身体をずらして偽ふたばの太腿に股間を擦り付ける。
「ん……」
 あ、こういうのもいいかも。体勢はかなりきついけど。
 手を、舌を、腰を必死に動かし、やがてその時がやってくる。
「あっああっああっあああぁぁぁーーーー」
 なんとなく情けない声を上げながら、偽ふたばがぐったりとする。
 イったの?まだあたしはイってない。
 まあいいか。今度は貝合わせとやらをやってみようか。
 まだまだあたしのターンは続いていく。
 少ない知識を全て動員し、自らの欲望を満たすために……

………
……


「……女って、凄いんだなぁ」
 疲れ果てて倒れていた偽ふたばが呟く。
「気持ちよくって、柔らかくって……暖かいなぁ……」
「そりゃよかったですね」
「うん、これならもう、大丈夫だろうね」
 偽ふたばの姿がぼやけてくる。
「……消えるの?」
「うん、僕はもうとっくに死んでいる存在だからね。こうやって君の中にいつまでもいるのは、あまりよくないよ」
「そうですか……」
 偽ふたば――きよひこお兄さんはダルそうに起き上がり、苦しそうに笑いながらあたしの顔に手を伸ばす。
「それじゃあ、すみれちゃん。さよなら。
 ふたばを……僕達兄弟を愛してくれて、本当にありがとう」
「お兄さんも、先輩と仲良くしてくださいね」
 あたしがそういうと、お兄さんは困ったように笑った。
「うんまあ……テラが、こっちに来たときにそうするよ」
「へ?」
「さ、あと一時間くらい寝てるんだよ。そしたら、僕のお姫様が助けに来るからさ」
「お、お姫様!?」
「そう、トカゲを名乗る、強くて酷いお姫様がね」
 その言葉にある一人の女性の顔が浮かぶ。
 そんなはずはない。だってその人は、とっくに死んでいるじゃないですか。
「まあ、その辺は起きたときのお楽しみってことで。あいつに、向こうで待ってるって伝えといてね」
 そう言いながらお兄さんの姿は消えていった。
「ちょっ、そんな軽い感じで消えるなぁ!!」


 そんな夢を見ていた気がする。
 気がつくとあたしは全裸で床に横たわっていた。
 周りには誰もいない。隣の部屋の方に人の気配があるから、そっちの方にいるんだと想う。
 部屋中にツンと鼻につく臭いが充満している。
 身体を動かそうと想ったけど、だるくて動かなかった。
 身体中が痛い。特に、股間が。なんか挟まってるっていうか、何か漏れ出してる感覚があった。

 ……こりゃ、レイプ、されたな。

 されている最中の記憶が全くないので違和感があるけど、これは間違いなくヤられてる。
 記憶にないのは、きよひこお兄さんの心が守ってくれた、ということだろうか。
 先程の夢を思い出す。
 そんな意図、なさそうだけど……そういうことにしておこう。
 なにかとんでもないことを口走った気もするけど、気のせいだろう、うん。あたしの意思で言ったわけじゃないしね。
 おかげでレイプされたという実感が全くない状態だ。
 もっとも、目が覚めたらこんな状態で放置されてたというのは中々腹立たしい事実ではあるが。
 とりあえず身体が動くようになったら、ノブオは親でも見分けつかなくなるまで殴ろう。
 ……その前に親ですら気づかないだろう容姿に変えられている可能性もあるか。
 まあ、どちらにせよ、殴る。絶対殴る。それだけは譲らない。

 ……まだ、眠いな。
 じゃあ、トカゲのお姫様とかいうどこぞの先輩が来るまで寝てますか。
 なんで生きているのかとか今までどうしてたとか、聞きたいことはたくさんあるけど、最初はとりあえず、お兄さんの話をしよう。
 待ってるって伝えてあげないと、ね。

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 もし目が覚めたとき、無言で鉄パイプを振りかぶっている女の子が目の前にいたら、どう思いますか?
 しかもそれが、自分に恨みを持っている人間だったら。
 さらに自分や周りにいる仲間がいつの間にかロープで縛られて身動きが取れない状態だったら。
 ノブオとかいう人が目覚めた時、まさにそんな状態でした。
 ふたばさんは簀巻き状態のノブオが目覚めたのを確認し、そのままその鉄パイプを振り下ろしました。
 何回も何回も、わたしやテラさんが止めるまでひたすらその頭を殴り続けていました。
 その時のノブオの心は、恐怖心で埋め尽くされていました。
 まあ、怖いですね、そりゃ。
 隣で見ていたわたしですら、その場から逃げ出したくなる迫力がありましたから。
 肩を震わせながら、ふたばさんはノブオを睨みつけます。
「すみれは……どこ?」
 誰の言った言葉なのか、一瞬理解できませんでした。
 その声の主は、ふたばさんでした。
 押し出すように、身体の奥底から搾り出すように、かすれた声を出して言いました。
 ふたばさんが喋れないのは精神的ショックに起因していると聞いています。
 それが今、怒りや悲しみといった感情が昂った事で声が出るようになった、という事でしょうか。
 まあ、本当のきっかけはどれだけ考えてもわかりません。
 重要なのは、今、ふたばさんが喋っているという事です。
「かえせよ……わた…しの、わたしのだい…じな……すみれを……っ……」
 涙を流しながら、長い間使われなかった器官を酷使し、怒りをむき出しにしていました。
「どこ?」
 ノブオは答えませんでした。
 ふたばさんは無言で鉄パイプの先端をノブオの咽喉、そのすぐ近くの床に突きつけました。
 コンクリートの床が、少し削れました。
「こたえない…なら…もうい…っかい……めをつぶって……やる……」
 そう言って目を瞑り、鉄パイプを振り上げます。
 もし振り下ろせば、ふたばさんに当てる気がなくても、身体のどこかにあたってしまうかもしれません。
 当たり所によっては、命にも関わるでしょう。
 そして、ふたばさんは脅しでなく本気でやる。少なくとも、ノブオ達にはそう感じたはずです。
 やられるだけのことを、ふたばさんに対してしてきたのですから。
「と、隣!隣の部屋にいる!」
 答えたのは、周りの仲間の一人でした。
「ほんとうに、いるんだね?」
「あ、ああ!だ、だからノブオくんをこれ以上殴らないでやってくれ!」
 テラさんの問いかけに、その男は答えました。嘘はついていないようです。
 ふたばさんは鉄パイプを投げ捨て、ゆっくりと部屋から出て行きました。
 最後に振り返り、唇だけでわたしに伝えました。

 久しぶりに声出して疲れた。あとは、任せる。百倍返しくらいが好みです。

 ふたばさんが部屋から出ると、その場にいた全員がほっと溜息をつきました。
 正直、どうなる事かと思いました。特にふたばさんが鉄パイプ持ち出したときとか。
 目の前で人が死ぬのは(別に構わないけど)いい気分ではないですから。
「ふたばお姉さん、連れてこない方が良かったんじゃ……」
 コマチさんが呟きます。というかあなた、いたんですか。
「テラさん、ふたばさんってああいう人だったんですか?」
「うん、昔から負けず嫌いで、怒るとなにをするかわからないタイプだよ」
 人は見かけによりませんねぇ。
「……喋るのは予想外……が効いてないのかな」
 テラさんが何かを呟きました。
 犬の状態だったら聞き取れたと思いますが、今は人間の姿なので無理です。
 まあ、それは置いておきましょう。今はどうでもいいことです
 今はこの目の前にいる五人の男達への復讐です。
 ふたばさんの希望は、百倍返しです。
 だったら、こんなのはどうでしょうか。

 男達の姿が変化していきます。
 背は一回り小柄に、同時にロープもきつく縛りなおされていきます。
 身体中の筋肉が削げ落ち、代わりに皮下脂肪が全身を覆っていきます。
 特に胸元は、丸く大きな女性特有のバストへと変化していきます。
 腰周りは折れそうなくらい細くなり、お尻は逆に膨らんでいます。
 股間で自己主張していたペニスは既になく、女性である証拠である溝が刻まれています。
 髪も伸び、顔つきも柔らかくなっていき……そこにはもう、男は一人もいませんでした。
 五人の女性が、全裸で、そしてロープで縛られている光景はあまりに異様でした。
 しかし、これで終わりではありません。
 彼女達にとっての『地獄』は、ここから始まるのです。

 自らが与えてきた恐怖を、屈辱を、恥羞を、そして絶望を。
 それら全てを、百倍返し。それが彼女の願い。
 何を基準に百倍返しなのかまったくわかりませんが、とにかく酷い目にあわせろということでしょう。
 いいでしょう、やって見せましょう。
 貴女達の味わった地獄よりも、もっと深い所まで堕としてみせましょう。
 逃げるのも、壊れるのも許しません。

 だって、わたしも彼女――ふたばさんも、みんな怒っているんですから。

 さて、何をしましょうか。
 すでにロープで縛られていますし、SMでもやりますか?
 ……あ、駄目だ。一人ロープの拘束で興奮している奴がいる。
 これでは復讐にはなりませんね。まさかマゾの人がいたとは思いませんでした。
 ではどうしましょう。
 魔法で男を出して犯すのは前にやってますし、強制レズプレイもやりました。
 となるとあとは拷問とか陵辱とかですが……自分でやるのは趣味じゃないですね。
 他人を利用するという手もありますが、その他人の人が負うリスクだけ少ないのが嫌ですね。
 さて、どうしましょうか。
 あ、これなんてどうでしょうか。

「あっ……いゃ……ゃめ…てぇ……ぁんっ!」
 部屋は元男達の喘ぎ声と、甘い匂いで満たされています。
 ノブオ達の身体は触手に蹂躙されていました。



「色々考えましたけど、触手プレイに落ち着きましたね」
「で、この触手はどういうものなの?植物のような感じだけど」
「はい、その通り。これは魔法の国の原生林に住む、寄生植物の一種です」
「寄生!?」
 手触りを調べようとしたのか、テラさんは触手に伸ばそうとしていた手を引っ込めました。
「まあ、寄生とは少し違いますけどね。触らない方がいいですよ。獲物にされますから」
「わ、わかった」
 まあ、こちらから触れない限りは安全ですけどね。自分から獲物を追い求めるほどの知性はないです。
「じゃあ、説明しますね。まず捕まえた獲物にこいつがする事は、蜜を飲ませることです」
「蜜?」
「はい。この蜜は強力な幻覚作用と催淫作用を持っていて、飲まされた相手は前後不覚の状態で発情してしまいます――あんな風に」
 一人の獲物を指差します。ロープの拘束感だけで感じてた彼です。
「はぁんっ!も、もっと胸、むねがいいのぉっ!!」
「もう自分が男だったことすら曖昧なんでしょうね、彼は」
「ただマゾなだけじゃないかな?」
 それは否定できません。
 なお、この蜜は魔法の国では麻薬の一種として流通しています。世も末ですね。
「でもこれ、気持ちよくなっているだけのような気が……」
 コマチさんが呟きます。
 まあ、そうですね。快楽に溺れさせるだけの行為では復讐にはなりません。
「コマチさん、この触手の実力はここからなんですよ」
「そうなんですか?」
「この植物が人に蜜を与えて快楽漬けにする理由はただ一つ――繁殖の為です」
「繁殖って……苗床にでもする気?」
 それは中々エグくて素敵ですね。でも違います。
「この植物はある程度時間が経つと、獲物に精を放ちます」
「精を放つ?」
「はい。わかりやすく説明すると、お○んこに触手ぶち込んで、妊娠するまで精子のような液体を枯れるまで吐き出し続けます」
「魔法少女がお○んこ言うな。というか……妊娠、するの?」
「そこは魔法的な影響で」
 人間を繁殖の手段に使うため、そういう風に進化したとも考えられています。
「生まれるのは、人間の少女の形をした、植物の要素を持つ生き物です」
「……なにそれ?」
「アルラウネに近いですね」
 もしくはモリ○ト。
「ごめん、よくわからない」
 まあ、この世界モンスターいませんからわからないかもしれませんね。
 それっぽい存在はいるようですけど。神とか悪魔とか。
「まあとにかく、そういう生き物が生まれます。生まれた子供は、何故かみんな女の子です。
 そして子供は母親である女達から栄養を吸収します」
「それって……」
「安心してください。別に命にはかかわりませんから。
 彼女達の栄養は……その、言い難いんですが……女性の、愛液とか呼ばれるアレです」
「……あなたの世界は、そんなのばっかりか?」
「そうですね。大抵の事は性的な物に繋がってますね」
 恥かしい話です。
「まあ、そんな訳で生まれた子供は栄養を得るために母親を性的に攻め続けます。
 さらに自分も、母親のために栄養となる液体を股間の辺りから分泌します」
「親子レズですか」
「子供がある程度育った頃、母親はやっと正気を取り戻しますが……大抵その時には、子供なしでは生きていけない状態になっています。
 そして母親が死ぬ時、子供は悲しみのあまり破裂することがたまにあるとか」
「破裂!?」
「その破裂によって大量の種子が蒔かれ、そこからまた最初の植物が生えてきます。
 非常に回りくどい繁殖法を持つ植物ですが、それ故に今回のようなケースで使われる事も多いですね」
 なにせこの植物と絡んでしまえば、それだけで相手の一生をめちゃくちゃに出来ますから。
 余談ですが、魔法の国のレズビアンの方には、自分からこの植物を求める人もいるそうです。
 さて、彼らはこの後どうなってしまうでしょうね?
 子供を生む前に助けてもらえますか?
 男の彼らは出産に耐えられますか?
 気付いたら快楽だけを与えてくる子供に迫られる人生、楽しめますか?

 まあどちらにせよ、戸籍があやふやな女性が生きていけるほどこちらの世界は甘くないでしょうけどね。

「ところで、あの植物はなんて名前なんです?」
「あ、はい。女の子同士で終わらぬ夢を見続ける草――夢百合草といいます」
 ちなみに花の百合とは関係ないです。ユリ科ですらありません。

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 身体が揺すられたような気がした。
 目を開けると、見慣れた顔がそこにあった。
「……ふたば?」
「……すみれ、すみれ!!」
 ふたばは目に涙を浮かべながら、満面の笑みであたしに抱きついてきた。
「ちょっ、ふたば、痛いって!」
「よかった……よかったよぅ……!」
 力強く抱きしめてくるふたばに、あたしの身体は悲鳴をあげた。
 記憶にはないけど、ヤられている時、身体中を傷つけられていたようだ。乙女の身体を何だと思っているのか。
 まあ、ここにふたばがいるってことはノブオはわかばが代わりに復讐をしていてくれているという事だろう。
 それにしても、ふたばに心配かけちゃったな。こんなに声を上げて大泣きさせちゃうなんて。

 ……声を、あげて?
「ふたば?」
「……なに?」
「……」
「……」

「ふたばが喋ったぁぁ!!!」

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 すみれの日記 10月 16日 晴れ

 あ、ありのまま、今日起こったことを書くぜ!

 あたしがレイプされたと思ったら、ふたばが喋っていて、気づいたら恋人同士になっていた。

 何を書いているのかわからないと思う。
 あたし自身、何が起こったのかまったくわからない。

 気がついたら押し倒されて、ふたばの指と舌で身体を蹂躙されていた、
 でも全然嫌じゃなくって、むしろ気持ちよくて、あとなんか凄く幸せな気分だった。

 そんな行為の後に耳元で「もう、絶対離れないからね♪」とか言われたら抵抗など出来るわけないじゃない!

(以下すみれのふたばに対する熱い想いが40ページほど続いていますが、TS関係ないので中略)

 まあ、まだあまり多く喋るのは大変みたいだから、普段は今まで通りのコミュニケーションをとるつもりらしい。
 ……リハビリしろよ。

 あと死んでたはずの人が生きてたり、きよひこお兄さんの心が消えたりした。
 そのおかげであたしは助かったのだろうけど、色々納得はいかない。話ができすぎていると思う。

 でもまあ、浮かれるのはまだ早いか。
 あと一人、としあきへの復讐が残っているんだから。

 ……それにしても、なんか腑に落ちないなぁ。
 今まで情報がなかったノブオがあたしを襲ったり、ふたばが急に喋ったり、テラ先輩が生きてたり……。
 頭の中で思考がぐるぐる回っているような感じがした。

 先輩に会った事で、あの時――ふたばが家族を失った事故に対しての疑問が沸いてくる。
 何故あの時、テラ先輩も一緒に行ったのだろうか。
 何故あの時、ふたばだけが無事だったのだろうか。
 そして今までテラ先輩はなにをしていたのか。トカゲのふりをしていただけじゃないはずだ。
 そもそもどんな事故だったのかすら、あたしは詳しく知らない。

 いったい、真実は何なんだろう。
 何も知らないあたしは、これからどうするべきなのだろうか。

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 天城テラは、一人部屋に篭っていた
「さて、これからどうしようかな」
 電気はついておらず、光源はテラの前に置かれたパソコンのみ。
 仄かに照らされた部屋には人一人が動けるスペースだけ残し、後は全てコンピュータで埋め尽くされている。
 ここは彼女が数年篭っていた部屋。
 即ちここが、こここそが『トカゲのジョージ』の正体。
 世界中の情報を密かに集め、保管する場所。
 集まるのは芸能スキャンダルから極秘開発資料、果ては個人情報まで全てを集めている。
 それらを切り売りして、テラはこの数年姿を隠したまま生活していたのだ。
 もちろんこのような設備をテラが作ったわけではない。
 どのような手段を用いて彼女はこのような設備を手に入れたのだろうか?
 今はもう、テラ以外の誰も知らない。
「……奴らが情報よこさなかったのはノブオが慕われてたから、か」
 このような設備を持っていたとしても、個人の性格や隠している本性まではわからない。
 だが情報は更なる情報を呼ぶ。
 誰かのスキャンダルを掴めば、それを元に他の情報を得られる。脅迫でもいいし、交換でもいい。
 それを利用してテラは情報収集を行っていた。
 今までの復讐で集めた情報も、テラ自身が集めたモノだけではなく、関係者を脅迫したり、別の情報網を持つ仲間に協力を求めたりして手に入れたものも多い。
 それでもノブオの情報が集まらなかったのは、周りの信頼が高く、口が堅かったからだろうとテラは結論付けた。
「それにしても、ふたばがあそこで喋るとはねぇ。あの娘じゃ破れないと思ったんだけどな」
 自分の手を見つめながらテラは呟く。
「……それも、愛故にかな。すみすみへの愛情と怒りが、『暗示』を打ち破ったわけだ」
 そして静かに微笑みながらテラは独り言を続けた。
「いいよぉ、すみすみ。アンタ最高。アンタなら、私の出来なかった悲願、叶えてくれそうだ」
 その微笑みは、どこか寂しげだった。




支援所の時より色々追加しています。
先輩ことテラが生きているのは当初からの決定事項です。
実際、ふたばがテラを死んでいるといったシーンはありません。
ジョージの正体であることも最初から決まっていました。
でも名前だけは最近付けた。思いつかなかったから
今はそんな勢いだけの人です。


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