船頭多くして……



 一体何がおこったのだろう。
 気がついたときには、僕は女の子になっていた。
 ご丁寧なことに、制服まで女子のものを着ている。




「ど、どうなってるんだよぅ、これぇ……」

 だが、戸惑っていてもどうならない。
―さて、どうしますか?

ルール:
 このスレッドにおいてきよひこさん達は、画像の人物―山田清彦さんです。
 これから行うことを指定してください。
 ただし、みなさんの行える行動には制約があります。

1.清彦さんは死、苦痛を伴う行動は自分からは行えない。
2.清彦さんは空を飛ぶ、変身する等の特殊能力は一切所有していない。
3.清彦さんにはTSに関する知識は一般的なことしかない。(界隈の専門用語は知らないが、漫画で得られる知識はあるものとする)
4.清彦さんは女の子になりたいと思ったことはあまりない。(好奇心程度はある)
5.清彦さんは童貞である。(知識もあまりないものとする)
6.清彦さんはえっちぃことには興味はあるが、自分から積極的に行う勇気はない。
7.指定できる行動は清彦さんの次に行える行動である。
8.複数の行動が指定された場合、行えるのは一番愉快な行動である。(愉快さは主観で決まる)

 以上の条件から行うことを指定し、清彦さんはなにをするのかを指定してください。
 なお、指定されない場合は一番おいしいカップ焼きそばはぺ○んぐであることを主張します。



→>とりあえず体を調べる

>逃げる

→>まず、鏡を探して、今の自分の姿を確かめる。そんでもって、鏡の中の女の子とにらめっこ?



 とりあえず、自分の状態を確認しよう。
 僕はトイレへと向かい、鏡を覗きこんだ。

 女の子が映った。
 前髪が長く、表情がわかり辛い。
 手で髪の毛をどかすと、可愛らしい女の子の顔が目に飛び込んできた。

「……これ、僕?」

 舌を出してみる。
 女の子が綺麗なピンク色の下を見せ付けてきた。
 片目を閉じる。
 女の子はウインクをしてきた。可愛い。
 女の子に笑いかけてみる。
 女の子も笑いかけてくれる。可愛い。
 怒ってみた。
 女の子も怒っているが、あまり怖そうに見えない。
 ……頬をつねってみる。
 鏡の中の女の子も頬をつねり、軽い痛みが伝わってくる。

 ……間違いない。この顔が、僕だ。


 下を見ると、大きく膨らんだ胸。
 触ってみると、手には柔らかさ、胸からは触れられたくすぐったさが伝わってきた。

「……本物だ」

 スカートの中に手を入れてみる。
 あるべきものがなく、あってはならないものがあった。

「嘘だろ……」

 認めたくないが、手に伝わる胸と股間の感触が現実を伝えてくる。

 間違いなく、僕は女の子になっている。

 その時、トイレの入り口のドアが開いた。
 ここは男子トイレ。入ってくるのは必然的に男子である。
 もしこんな姿(男子トイレで自分の胸と股間を触っている美少女)を見られたら……!
 入ってきたのは……

・下一桁の数字が1か6…寝技が得意な柔道部部長 田村 昭雄
・下一桁の数字が2か7…校内でも有名な不良 平田 圭一
・下一桁の数字が3か8…二次元大好きオタク 吉良 和人
・下一桁の数字が4か9…生真面目で潔癖症な優等生 平田 甲児
・下一桁の数字が5か0…頼りになる親友 白井 敏明


=> [126/1000]

 入ってきたのは、柔道部の部長の田村君だった。
 田村君は豪快で力自慢の、典型的なスポーツマンタイプの男だ。
 性格は大雑把でよく早とちりもするけど、弱いものには優しい、基本的にはいい人だ。
 ただ、その大雑把すぎるところと、濃すぎる顔のせいで女の子にはもてない。
 それでもめげない彼が可愛い女の子に告白し、玉砕するのがよく見かけられる。
 最近は焦っているのか見境がなくなってきているような気がする。

 ……あれ?これ、まずくね?
「……」
「……」
 田村君と見つめあう。
「……男子トイレで、自分の胸とアソコを触っている女子……だと?」
「ええと……その……」

 こりゃ、まずいかな?

「これは誘っていると判断してよろしいかな?」

 そう言いながら、田村君は飛び掛ってきた。

「よろしくない!」

 間一髪、ギリギリで田村君の脇を抜けて、僕はトイレから飛び出した。

 まずい。
 田村君は別名『寝技KING』とも言われるほど、寝技が得意。
 男のときでさえ歯が立たない体力差があったのに、今、この状態では捕まったら逃げられない。

 と、とにかく逃げないと!

 大急ぎで廊下の角を曲がった僕は、どん、という衝撃と共に転んでしまう。
 どうやら誰かとぶつかってしまったらしい。

 ぶつかったのは……

・下一桁の数字が1か6…女の子好きな少女 木原 スミレ
・下一桁の数字が2か7…不良と言われている少女 佐々木 若葉 
・下一桁の数字が3か8…剣道部で風紀委員 鈴原 しのぶ
・下一桁の数字が4か9…大人しい図書委員 鈴木 岬
・下一桁の数字が5か0…幼馴染の元気っ娘 大田 双葉

=> [272/1000]

「……ったいなぁ」

 ぶつかった相手は、同じクラスの佐々木 若葉さんだった。
 若葉さんはいわゆる不良というレッテルを張られている。
 実際授業はよくサボるし、喧嘩して停学になることも多々ある。
 先日も先輩の男子を「セクハラされた」という理由で病院送りにしている。理由が理由なだけに大きな処分は下されなかったようだが。
 そんな彼女だが成績はかなり優秀らしく、学校側としても扱いにくい存在であるようだ。
 その為、クラスでも浮いていて、誰かと話をしているところはあまり見たことがない。

 ……こんなときに、この人とぶつかってしまうなんて。
 今日の僕は、完全に運に見放されている。

 気がつくと、いつの間にか立ち上がっていた若葉さんに見下ろされていた。
 ……あ、終わったな、僕。

 だが、次の若葉さんの行動は、僕にとって意外なものだった。

「大丈夫か?」

 すっ、と細い手を差し伸べる若葉さん。
 思わず僕はその手を掴む。
 若葉さんはそのまま僕の身体を持ち上げ、立たせる。

「怪我は……なさそうだな」

 僕の身体を一通り眺め、若葉さんはこつんと僕の頭を叩いた。

「廊下を走るんじゃない。怪我したら困るだろ、お互い」

 その若葉さんの口調はちょっと乱暴だったけど、どこか優しい感じがした。
 普段のイメージとは違う彼女に、僕は戸惑っていた。

 だが、その時後ろの方からドタドタと足音が聞こえた。
 忘れていた。僕は、田村君に追いかけられていたのだ。
 ど、どうしよう……。

―今、目の前にはわりと友好的そうな若葉さんがいます。
―あなたは彼女に助けを求めてもいいし、巻き込まないように逃げてもいいし、それ以外の行動をしてもいい。

 次の清彦さんの行動を指定してください。



>指定なし


 その時、僕の脳裏に浮かんだのは夜食用にとっておいたのに、先日父さんに食べられたぺ○んぐのカップ焼きそばのことだった。
 とっても大事にとっておいたのに、食われて足りないことがあるので問い詰めた。小一時間問い詰めた。
 そのときの父さんの言葉は、これだ。

「おいしかったよ?」

 そんなことは聞いてない。
 とりあえず食べた分を補充することで合意したが、あれは腹が立った。
 あんなにおいしいぺ○んぐを勝手に食べるなんてどうかしている。

 ああ、あのぺ○んぐ、こんなことになる前に食べたかったなぁ……。

 迫り来る足音を聞きながら、僕はそんな事を考えていた。

「みぃ〜つけたぞぉ〜」

 そう言いながら僕の肩をつかんだ田村君の顔は、とてもいやらしい顔をしていた。
 僕の中での田村株が底値を割った瞬間だった。

「は、離して!」
「誘ったのはそっちだろう?」
「誘ってない!断じて誘ってない!」
「はっはっは、照れなくてもいいんだよ?」
「嫌だ!離して!」

 引き離そうと必死に暴れるけど、男のときですら叶わない力の差が、今の状態で覆るわけがない。
 ああもう、田村君ってこんな奴だったのかよ!
 誰か、誰か助けて!

「田村」
「へ……げっ、若葉……!?」

 いつの間にか若葉さんが田村君の腕を掴んでいた。
 その表情は……物凄く怖かった。
 多分子供が見たら泣く。というか僕も夢に見そうなくらい怖い。
 もともと目つきは悪い人だったけど、なんだかよくわからない迫力が感じられた。

「その娘、離せ」
「いや、その……」
「離せ」

 少しずつ田村君の腕から力が抜けていった。僕はその隙に田村君から離れる。
 見ると、田村君の腕が紫色になっていた。
 ……どんだけ握力あるんだよ、若葉さん。
 若葉さんはその手を離し、田村君の顔に二発、パンチを繰り出した。そのうち一発は顎に当たっていた。
 ふらっとしたところに右脚で回し蹴りを当てる。
 田村君はそのまま壁にぶつかって、ゆっくりと倒れた。

「……逃げるよ」
「え!?」
 若葉さんは僕の腕を掴んで走り出した。
 ……なんか今日、走りっぱなしだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」
 若葉さんに連れられて屋上までやってきた。
 疲れた。
 女の子になっただけでも一大事なのに、今日は色々トラブルが多すぎる。

「ふぅ……やばいな、ちょっとやりすぎ……」

 若葉さんも疲れているようだった。

「あ、あの……ありがとう、若葉さん」
「……ああ、気にするな」

 お礼を言うと若葉さんは照れたように顔を背け……すぐにこっちを見た。

「ちょっと待て。あたしはまだ名乗っていないぞ」
「へ?」
「初対面の君が、なんであたしの名を知っている?」

 どういうことか考えて……僕は大失態を犯したことに気付いた。
 今、若葉さんから見たら僕は「初めて見かけた女の子」であり、名前を知っているわけがないのだ。

「それともどこかで会ったか?見覚えがあるようなきもするんだが……」

 ま、まずい!
 僕が同じクラスの男子である、山田清彦だとバレたら……!

―この場を切り抜けるために、次の行動を指定してください。


>何故か女性の体になっていた事を話し、二人だけの秘密として誰にも言わないように頼み込む

→>先ずは誤魔化そうと若葉さんの腕力を褒めてみる



「そ、それにしても、すごい腕力ですね……」

 僕は誤魔化す為に、彼女の腕力を誉めた。

「そりゃどうも。正直に言わないならその身をもって体感することになる訳だが、どう思う?ふふふ、楽しみだな。君がどんな悲鳴を聞かせてくれるか」

 物凄くいい笑顔で、若葉さんは言った。
 だけど目が笑ってない。
 ……どうやら地雷を踏んだらしい。うん、そりゃ女の子が腕力誉められたって普通嬉しくないよね。

「嗚呼、今宵も学校に赤い雨が降るわけだ。悲しみの悲鳴が今日も響くのだ……さあどうする?」
「謹んで話させていただけますすいません僕が悪かったです」

 僕は土下座して謝った。


==========================================

「……」

 僕の説明を聞いた若葉さんはしばらく黙り込んだ。
 何か考えているようだ。
 それはそうだ。こんなことはありえないわけだし。

「……清彦(仮)」
「は、はい!?」
「いや、そんなに怯えないでくれ。結構傷つく」
「ご、ごめんなさい……」
「……確認するけど、本当に清彦?」
「う、うん」
「あたしと同じクラスで、男子の?」
「うん」
「背はそんなに高くなくて、おとなしくて、成績は普通くらいの?」
「そうだけど……」
「運動はちょっと苦手で、部活は帰宅部の?」
「……うんまあ」
「サンタを小2まで信じてて、将来の夢がバッタ型改造人間だった?」
「なんで知ってるんだよ!そんなこと!」

 確かに信じてたけど!ライダーなりたかったけど!

「……信じられないなぁ」
「そんなスラスラと僕の事が出てくる若葉さんも信じられないんですが」
「クラスメイトなら当然の知識だと思うが?」
「明らかに知ってちゃまずいことも知ってたよね今!」

 なんとなく、この人がクラスで浮いている理由がわかった。
 多分不良扱いされていることは関係ないのだろう。

「じゃあ今からいくつか質問する。それで判断するから正直に答えてくれ」
「わ、わかった」
「好きな動物は?」
「犬」
「好きな食べ物は?」
「ぺ○んぐ」
「ナポレオンの切り札は?」
「……なにそれ?」
「好きな超人は?」
「カメハメ」
「女の子になった気分はどう?」
「どうと言われても……困る?」
「さっきから後ろにいる人、誰?」
「え?……なにもいないよね?」
「もし明日世界が終わるとしたら、どうする?」
「……慌てると思う」
「その胸の大きさ、どう?」
「……重い」
「下着は?」
「下着も……女物に……」
「もう触った?」
「ちょっとだけ……って何言わせるんだよ!」
「意外とえっち……っと」
「なんでメモした!?」


==========================================

「うん、信じよう。君は清彦だな」
「……」

 今の質問のどこに、信じる要素があった?
 ……まあいいけど。

「……で、どうするんだ、これから?」
「へ?」
「いやだって君……その格好で教室戻れないだろ?」

 そういえば、そうだ。
 まさか女の子の姿で教室に行くわけにはいかない。

「……どうしよう」
「とりあえず担任に報告するべきか?」
「だ、ダメだよ!」
「なんで?」
「信じてくれるわけないし、それに……」
「それに?」
「……恥ずかしいし」

 突然女の子になって、女の子の制服を着ているなんて皆に知られたら、きっと変な目で見られてしまう。

「ふむ……」

 若葉さんはまた考え込む。

「かといってこのまま何もしないわけにもいくまい」
「うん……」
「原因がわからない以上、今後の生活についても考えるべきだ」
「そうだけど……」

 だけど、先生や友達に話しても信じてくれるとは思えない。
 若葉さんは信じてくれたけど、多分この人が特別だからだと思う。

「まあ、今人前に出るのはよくないな。君は女の子として無防備すぎる」
「へ?」
「ぱんつ見えてる。男から見たら痴女に見えるかもしれんね」

 ……下を見ると、いつものように脚を開いて座っている自分がいた。
 なんだか、凄く恥ずかしくなった。


「とりあえずまずは……保健室に行くべきだな。あそこの養護教諭だったら話せば事情を理解してくれるだろうし、一応診て貰ったほうがいいだろう」

 診て貰うのは……恥ずかしいが仕方あるまい。だけど、信じてくれるのだろうか。

「で、放課後にとりあえず今後の事を考える。それでどうだ?」
「それまで、若葉さんはどうするの?まだ昼休みだけど」
「乗りかかった船だ。興味も沸いたし、ちょっと調べてみよう」
「あ、ありがとう……」
「気にするな」

 そう言って、若葉さんは微笑みかけてくれた。
 ……結構可愛いな、と思った。今自分が女の子なのが、ちょっと悔しい。

「あ!」
「どうした?」
「クラスの人とか、先生に僕が女の子になったこと……」
「言わないよ。言っても信じないだろうし」
「う、うん……あれ?じゃあ、保険の先生、信じてくれないんじゃ?」
「ああ、それは大丈夫。あれは普通じゃないから」
「へ?」
「行けばわかるよ」

 こうして僕は、若葉さんと共に保健室に行くことになった。

―保健室に行くまでの間、若葉さんと行う会話を指定してください。


→>どのがんだむが好きか尋ねる

→>好きなうるとらまんのタイプを聞いてみる

→>どの仮面らいだーの変身ポーズが好きか尋ねる。

→>らいだーはバッタが正道でトカゲやカブトムシは邪道であると力説する

→>やってみたいコスプレ(百合漫画限定)をたずねる



 先ほどの件もあるので、人通りの少ないルートを選びながら進む。やや遠回りだが、仕方あるまい。
 ただ歩くのも味気ないので、若葉さんと話をしてみることにする。

「……それにしても」
「どうかしたか?」
「いや、若葉さんって思ってたより話しやすい人だなぁって」
「もっと怖い人かと思ってた?」
「うん、まあ……」

 不良だと思ってた、とはさすがに本人の前では言えないのでちょっと濁しながら答える。

「まあ、君みたいな変わり者とは気が合うほうだと思うよ」
「変わり者って……」
「ほほう、君は自分の事が普通だと思うのかい?そりゃ勘違いだね」

 ……酷い言われようだ。

 しばらく会話が途切れる。
 ……何か質問してみようかな。
 僕は、もっと若葉さんの事が知りたいと思った。
 とはいえ、何を聞けば……。

「ええと、若葉さん?」
「なに?」
「……好きながんだむはなに?」
「……は?」

 ……って僕は何を聞いてるんだ!?

「ヘヴィメタがんだむだけど?」

 答えられた!?
 しかも知らないがんだむだと!?

「それかがんどらんだー」
「……ごめん、よくわからない」
「そうか」

 ……答えられるとは思わなかった。
 こうなるともっと質問したくなる。

「好きなうるとらまんのタイプは」
「……力で勝つだけじゃなにかが足りなかったり、獅子の瞳が輝いたりするタイプかな」

 どんなタイプだ。

「どのらいだーの変身ポーズが好き?」
「せたっぷ。もしくはらいだーまん」

 ……もしかしてこの人、オタクじゃね?

「個人的にはらいだーはバッタが正道でトカゲやカブトムシは邪道だと思うんだけど……」
「トカゲは原作者が実際に漫画書いた数少ない例だから許してやりなさい。むしろ電車さんが一番問題だろ。すでにらいだーですらない」
「ええまあ」
「あとどらごんな騎士さんは鏡男のリメイクであると解釈してるんだが、どうか?」
「怒られるよ!いろんな人から!」

 ……オタクかどうかはわからないが、とりあえず恐れ知らずな人なのは間違いないと思った。

「漫画とかよく読むの?」
「読むよ。たくさん。教科書よりは読む」
「若葉さんって、オタク?」
「ん……どうだろう。普通の人より詳しいと思うが」

 詳しすぎるだろ。
 思えば僕を脅したときのセリフも、どこかで聞いたような会話だったし。ふぁみこんで使用禁止扱いされる某国軍人風超人の歌っぽい。
 ちょっと踏み込んでみようか。

「やってみたいコスプレってある?」
「コスプレか……」
「百合漫画限定で」

 どたっ!
 急に若葉さんが転んだ。何もないところなのに。

「わ、若葉さん!?大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫」
「本当?怪我はない?」
「あ、ああ……それより、コスプレだな?百合漫画限定で」

 なにかを誤魔化すかのように若葉さんは取り繕っていた。

「そうだな……百合というものはよくわからないが……弓道着とか巫女服とか、あと喫茶店の店員っぽい服とか普段着ないから着てみたいな」
「絶対知ってますよね、百合漫画」

 そもそもここまで律儀に答えなくてもいいと思う。
 質問する僕もアレだけど。

「本棚に女の子がチャンバラする漫画が17冊入ってるでしょ?」
「君も詳しいな、おい」
「……ソンナコトナイデスヨ?」

 結論。同じ穴の狢。


「さて、着いたぞ」

 なんやかんやあったが、無事保健室まで着いた。
 ……所々で、若葉さんを見かけた人が逃げていったような気がしたが、見間違いだろう。うん。

「さて清彦。この保健室に入る前にひとつ言っておく」
「なんでしょう」
「もしこの中で何かあったら、あたしの名前を呼べ」
「……はい?」
「どこからでも駆けつけてやる」
「……はぁ」

 保健室に入るだけなのに、大げさな。

 そう考えていた時期が僕にもありました。

「いや〜♪可愛い可愛いかわいいぃぃぃ!!!!」
「ちょ、せ、先生、離してぇ!!」

 保健室に入った瞬間、養護教諭の西条 利里子先生に抱きしめられた。
 振りほどこうとするが、物凄い力で抜け出すことが出来ない。

「若葉!この娘誰!?何の用?持って帰っていい?」
「それは山田清彦。男だったけど、何故か服ごと女の子になっちゃったから看て欲しい。持ち帰りはあたしが許さん」
「あ〜ん、若葉のお手つきなの〜?」
「人聞きの悪い事言うな。まだ手は出してない」
「じゃあいつかは出す気だったのね?」
「……お前と一緒にするな」

 利里子先生に悪態をつきながら、若葉さんは僕の顔を見る。

「……こんな変態だが、他の教師より口は堅いし、それなりに腕はいい。
 ……悪いが、しばらく我慢してくれ。すまない」

 そう言って若葉さんは保健室から出て行った。
 ……こんな状況で置いて行かないでよ!


「ふふふ〜、邪魔者はいなくなったぁ♪」
「あ、あの……」
「だいじょーぶ、ちゃんと調べてあげるわよ、す・み・ず・み・ま・で♪」
「大丈夫な要素がない!」
「問答無用!」

 気がついたら僕はベッドに押し倒されていた。

「じゃ、まずは〜、服を脱ぎ脱ぎ〜!」
「や、やめてー!!」

 い、一体どうしたら!

―本来ならここで次の清彦さんの行動を指定するところですが、利里子先生がノリノリのため行動は指定できません。

「ちょっ、そんなのあり!?」



―その手際は、まさに『ゴッドハンド』というべきであったという。

 ブラウスのボタンを留めている糸を傷めず、ネクタイで清彦の首を絞めたりもせず、本人にも気付かせずにあっという間に下着だけにする。(もちろん靴下着用)
 しかも脱がされた服はキレイに畳まれていた。

 これが西条利里子の26の秘密の一つ『究極脱衣術・初級』である。
 なお、中級、上級、G級などがあるのかは一切確認されていない。
 そもそも26も秘密があるのかも謎である。

  ―TS書房刊 『TSと百合と心と体・完結編』より



「……なにこれ!?」

 気がついたときには、下着姿になっていた。

「あら、可愛い下着。似合ってるわよぅ♪」

 はぁ、はぁ、と息を荒立てながら、利里子先生は僕を舐めるように見つめた。

「……ふふふ、どこから見ても女の子。
 あ、でもこことここのほくろは清彦君と同じ位置ねぇ」
「いつ見たぁ!!」
「身体測定のとき。いや、男の子の裸になんて興味はまったくなかったけど、役に立ったわねー」

 凄くダメな人だこの先生!

「で、そこのちいさな傷も、清彦君と同じ。なるほど、確かに清彦君かもねぇ。
 とはいえ、決定的な証拠でもないなぁ」

 あ、それでもちゃんと看てくれはするんだ。

「まあ、どうでもいいか♪」
「よくなーい!!ちょっと感心した僕が馬鹿みたいじゃないかぁ!」
「大丈夫、人間、ちょっとおバカな方が可愛いのよぅ」
「そんな心配してないよ!」

 そんな僕の声をまったく無視して、利里子先生は僕の胸を触る。
 利里子先生の手がゆっくりと、僕の胸を擦るように動き出す。

「ひゃう!」
「あら、くすぐったかった?それとも、感じちゃった?」
「し、知らない!」
「まあどっちでもいいけどねぇ♪」

 やがて利里子先生の指が、ゆっくりと動き出し、僕の胸を揉み始めた。

「や、やめて……ぁん!」
「う〜ん、この柔らかさ……本物だねぇ。天然物。純国産100%の巨乳だ。うらやましい」

 そして片手がだんだんと、下半身に近づいていき……。

「こっちも、女の子みたいだねぇ」
「いやぁぁぁ!!!!!」

 僕のぱんつの中に利里子先生の手が侵入していた。

「形は……そうね、触った感じでは女の子のものになっているわ」

 利里子先生の指が、本来僕に存在しない機関を撫で回す。
 その動きはまるで、自分が男ではなく女の子だということを僕に刻み込もうとしているようにも感じられた。
 無論、そんな意図は利里子先生にはない……と思うが。
 ただ、その動きが僕に女の子の快楽を伝えていることは間違いなかった。

「…んっ……ぁん」

 自然と声が出そうになるのを我慢する。
 声に出してしまえば、僕は自分が女の子であることを心から認めてしまう気がしたから。

「感じ方も女の子と同じなのかなぁ?濡れてるし、固くなってるけど……」

 もはや利里子先生の声など聞こえない。
 声を出さぬよう、この快楽に流されぬよう耐えるのが精一杯だった。
 その時ふと、ある人の顔が浮かんできた。
 それは父さんでも母さんでも、親友の敏明や幼馴染の双葉でもなかった。
 今までたいした接点もなかった、ほぼ赤の他人といっても過言ではない、彼女―

「…ゎ、わ…かば……さん」

 か細い声で、それだけ押し出すように呟いた。


 その時、大きな音をあげて、保健室の扉が開いた。

「なにやってるんだこの変態教師!」

 次の瞬間、若葉さんの真空飛び膝蹴りが利里子先生に直撃していた。


==========================================

「……うぅ〜、一応ちゃんと検査もしてたのにぃ〜」
「あんな検査があるか!」
「じゃあどんな検査をしろと!?」
「感じさせるな!」

 いや、論点はそこじゃないと思う。

「……で、結果は?」
「そうねぇ……病気ではないわね」
「それはそうだろ。服も変わってるんだし」
「あとなんらかの手術をうけた様子もなし。骨格から皮膚まで、完全に女の子。むしろ男だった、という事実の方を疑いたくなるくらいね」
「なんだ、ちゃんと調べてはいたんだな」

 ……調べ方は明らかに異常でしたけどね。

「……私をなんだと思ってるの?」
「変態」
「ひどい!」

 間違いではないと思う。

「……まあいいわ。とにかく、清彦君はどういう訳か女の子になっており、男の子だったという証拠はほとんどないに等しいわね」
「本人の記憶だけか」
「もっと精密な検査を行えば証明できるかもしれないけど。ここでは無理です。
 以上が保険の先生としての見解」

 その言葉に、僕という存在を否定された気がした。
 僕の手に何かが触れた。
 若葉さんの手だった。

「大丈夫だから、ね?」

 若葉さんが笑いかける。
 我ながら単純だけど、それだけで少し不安が和らいだ。

「じゃあ、やっぱり超常的な手段かな」
「超常的?」
「魔法とか、超能力とか……あとは悪魔の力とか。非現実的だけど、この場合はありえない話ではない」

 まあ、突然男が女の子になるなんてありえないしね。

「だとしたら、えらく中途半端ね。本人と、着ていた服だけ変えただけだし」
「失敗したのかもな」
「ああ、そうかもしれないわね。もしくはこういう趣味とか」

 なんという悪趣味。

「結論としては、『まったくわからない』ってことね」
「残念ながらな」

 わかったことは僕の体は完全に女の子になってるってことだけか……。
 あれ?僕揉まれ損じゃない?

「で、清彦君はこれからどうするの?」
「へ?」
「家族への説明とか、今後の身の振り方とかだな」

 ……どうしようか。
 帰るにしても、父さんも母さんも、僕の事をわかってくれるのだろうか。
 わかってくれたとして、受け入れてくれるかどうか。
 ……不安だ。

「……あたしの家に来るか?」
「へ?」
「もし帰れなかったらの話だが。狭いボロアパートだが、君くらいならなんとかなる」

 若葉さんの言葉に、心が揺さぶられる。
 その提案はあまりに魅力的だった。

―清彦さんの行動を指定してください。


>「本当にいいんですか……?」と涙目になりながら上目遣いで聞いてみる。

>「不束者ですが、宜しくお願いします」と素で言ってから、意味に気付いて慌てる

>若葉さんに キュン ってときめく

>妊娠する

→>「とりあえず、家に帰ってみます。でも……ちょっとだけ怖いから一緒に来てください」ってお願いしてみる

>部屋にある晩御飯用のカップヤキソバがUF○しかないと言われショックを受ける



 だけど、すぐその提案を受け入れるわけにはいかない。
 だって僕は、若葉さんに助けてもらってばかりで、

 ―自分からは、何もやっていないじゃないか。

「……とりあえず、家に帰ってみます」
「そうか……そうだな、その方がいいかもね」

 そう言って微笑んでくれた若葉さんは、少し寂しそうだった。

 正直、不安なことのほうが多い。
 もし受け入れてもらえなかったら……否、むしろこんなことを信じてもらえるのか―。
 それでも僕は、自分で出来ることをしたい。
 どうなるかわからないけど……やらないで後悔するよりマシだろう。
 ただ少し、勇気が足りない。
 踏み出すための、度胸が足りない。
 だから一つだけ、我侭を言わせてください。

「……でも、ちょっとだけ怖いから一緒に来くれると嬉しいんだけど……駄目かな?」
「いや、それくらいならお安い御用だ」

 若葉さんは、僕の我侭を快く受け入れてくれた


。 ==========================================

 現実は、フィクションのように甘くはない。

 家の外で待っていた若葉さんは、玄関から出てきた僕に気付くと駆け寄ってきた。

「……駄目だった?」
「……ううん、一応信じてくれたよ」
「だったら」
「でもね、僕の今の姿を見るの、辛いって。昨日までの僕と、今の僕をどうしても同一視できないって」
「……」
「しょうがないよ。僕だって、これは夢じゃないかって……」
「もういい」

 そう言いながら、若葉さんは僕を抱きしめた。

「もう、いいから。我慢しなくてもいいから」
「……我慢なんて、してないよ」
「そんな顔で、そんな嘘つくな。今にも泣きそうな顔して、耐えるな!
 泣きたいんなら、泣け!」
「……」
「君の泣き顔くらい……あたしが隠してやるから。だから思いっきり泣いていいんだよ」
「……若葉さん」

 若葉さんの目の端に輝くものがあった。
 それを見たとき、我慢してきた『思い』がこみ上げてきた。
 我慢しようと思ったけど、心の奥から湧き出る感情は収まらない。
 そしてついに。コップの限界まで入れた水が零れるように、涙が溢れ出してきた。
 そこが、限界。
 僕は声を出して泣いた。

   若葉さんは、ただ静かに僕を抱きしめてくれていた。


==========================================

―数日後。

 僕は、若葉さんの住むアパートの部屋に居候していた。

「どうせ一人暮らし。遠慮はいらない。なに、生活には困らんさ」

 そんなことを若葉さんは言っていたが、僕はバイトをはじめようと思っている。
 若葉さんの世話になってばかりでは、僕が納得いかない。
 せめて自分の食費くらいなんとかしないと。
 今の僕は戸籍があいまいな状態だから簡単ではないが、それでもやらないと駄目だ。
 ここまでしてくれる、若葉さんに対する恩返しと……伝えたい思いがあるから。

 そう、いつか伝えるんだ。

―僕は、若葉さんが好きだって。


==========================================
―ここより先は、若葉からの視点となります。
==========================================

 私こと佐々木 若葉はいわゆる不良のレッテルをはられている。
 ケンカの相手を必要以上にブチのめし、いまだに病院から出てこれない男もいる。
 威張るわりに頭が悪いので、口で言い負かせた教師はまだ学校に戻ってこない。
 料金以下の味で栄養すら考えられていない食事しかださない学食の目の前で、栄養ドリンクとカ口リーメイトを2時間くらい食べ続けるなんてしょっちゅうやっている。



>
 そんなあたしだが、最近友達が出来た。
 名前は山田 清彦。

 ある日突然女の子になってしまい、独りぼっちになってしまった『男の子』である。
 その突然の事態に、彼の家族に受け入れられなかった。
 まあ、受け入れられなかったというか、本人が逃げたというか……いろいろ大変だったんだわ、あれから。
 あの後、さすがに後悔したのかすぐに清彦の両親がうちに来たり、一晩中今後の話をしたり、埒があかないから利里子呼び出したりとか……まあ面倒なことがたくさんあったのです。


 で、その結果が今あたしの目の前で気持ちよさそうに寝ている清彦なわけだ。
 ……なんで同じ布団に寝てるんだ、お前は。
 昨日ベッド明け渡したろ?
 なんで目が覚めたら、目の前にいるんだよ。

 ……まったく、無防備な奴だ。
 あたしが男だったら、とっくに襲ってるぞ。

 ……しかし、可愛い寝顔である。
 こういう寝顔を見ると、悪戯したくなるよなぁ……。

―若葉の行動を指定してください。

ルール:
 ここから先においてきよひこさん達は、大田若葉さんの行動を指定してもらいます。
 彼女がこれから行うことを指定してください。
 ただし、若葉さんの行える行動には制約があります。

1.清彦さんや若葉さんに死、苦痛を与える行動は行えない。
2.若葉さんは空を飛ぶ、変身する等の特殊能力は一切所有していない。が、喧嘩は強く、特にキックに自信がある。
3.若葉さんにはTSに関する知識は少しだけ知っている。(性転換に対する勉強の結果、ほんの少し詳しくなった)
4.若葉さんは男になりたいと思っていない。
5.若葉さんは意外にも処女はである。
6.若葉さんはえっちぃことに興味津々。あと清彦さんの身体にも興味津々。(研究的な意味で)
7.指定できる行動は若葉さんの次に行える行動である。
8.複数の行動が指定された場合、行えるのは一番愉快な行動である。(愉快さは主観で決まる)場合によっては複数の行動が実行されることもある。

 以上の条件から行うことを指定し、若葉さんはなにをするのかを指定してください。



→>寝顔に見とれて、思わずキスをしました。

→>寝ている清彦に化粧してみる。うまく行き過ぎて可愛さに身悶えする
この口紅を使えば、間接キスになると気が付いてドキドキしながら自分もメイクアップでも起きた清彦はそんな双葉さんの葛藤などどこ吹く風で全部台無しに



 ……よし、化粧だ。

 女の子初心者である清彦は、化粧などしたことはない。
 そもそも女物の服も、最初に着ていた制服とあたしがあげたパジャマ以外はない。男物のTシャツをダボダボの状態で着ているのだ。
 それはそれで可愛らしくはあるのだが、それでは物足りない。こんなに可愛いんだから、もっと可愛くなったらいいんだ。
 世の中、かわいくなりたくてもかわいくなれない女がどれだけいることか……。ああちくしょう、あたしも清彦みたいに可愛い女の子になりたい。

 ……ないものねだりしてもしょうがない。
 こうなったら、清彦を徹底的に可愛くしてやろう。
 ふふふ、覚悟しておけ。


―数分後。

 ……出来た。
 ありえないくらい、うまくできた。
 清彦の顔に塗られた薄い色の口紅とアイシャドウは、あどけない子供のような寝顔を大人っぽく魅せていた。
 可愛らしさと色っぽさ、二つの要素が混ざり合い、一つの芸術のようになっていた。
 ……これが、化粧の魔力か。あまり化粧道具とかに金をかけていなかったが、これからは少しくらいいい物を用意してもいいかもしれない。清彦用に。

 ああもう、可愛いなちくしょう。羨ましい。
 元男なのに、こんな可愛いなんて反則だ。
 この可愛い女の子を、手放したくない。
 そんな思いがあたしの中で湧きあがり、清彦を独占したいという想いが大きくなっていく。
 身体は女同士?知るか!元々男と女だし、女同士で何が悪い!?
 生産性がないだの、不毛だの、そんなこと関係あるか。そこに相手を想う心がある、それ以外に何が必要か。
 女同士だろうが男同士だろうが、、男女であろうが、好きという感情に違いがあるわけないじゃないか!

―後から思えば、この頃にはもう、あたしは清彦に夢中だったんだと思う。
 だから、次に行った行動も、あたしはなんの躊躇いもなかったし、やったことに後悔なんてしてない。

 ゆっくりと、清彦の顔に自分の顔を近づけていく。
 少しずつ近づいてくる無防備な表情に、あたしの心が昂っていった。
 やがて、唇同士が触れ合う。
 小さくて柔らかい清彦の唇が、あたしの唇を受け止めていた。
 それはただ触れ合うだけの児戯のようなキスであったが、今のあたしにはそれで十分であった。
 眠っている相手にこんなことをする罪悪感もあったが、それすらもあたしを満たしてくれていた。

 ……しばらくして、そっと唇を離した。
 まだ清彦は眠っている。この眠り姫め。
 まあいい。もう少し眠らせてあげよう。
 朝食を作ったら起こしてあげよう。
 そう考えて立ち上がったとき、あるものが目に入った。
 口紅である。
 さっき清彦に塗ってあげた、薄い色の口紅。
 以前、「女の子なんだからもう少し化粧とかしたら?」といいながら利里子がくれたものだった。
 教師が生徒に化粧品をプレゼントするのはどうかと思った。
 その口紅を片付けようとして手に取った。
 ふと、「今塗ればお揃いの口紅を塗っていることになるな」と思いつく。よし、塗ろう。
 鏡を見ながら、自分の口に口紅を塗っていく。

「そういえばこれ、清彦の唇に触れてたんだっけ……」

 かなりドキドキした。
 さっき勝手にキスしたときよりも、ある意味興奮した。

 鏡を見てみる。
 ……まあ、普通だな。
 あたしも可愛くなりたい。
 いろいろな意味で。

「じゃ、行ってきます」
「うん、いってらっしゃい、若葉さん」

 清彦に見送られ、あたしは学校へとむかった。
 ……いってらっしゃい。こう言われるのは何年振りであろうか。なかなか悪くない。

 今の清彦は学校へは行っていない。
 社会的には『山田清彦』という名の女子は存在しないのだからしょうがないが、これは何とかしてあげたい。
 戸籍はともかく、学校側のほうは利里子に頑張らせればなんとかなるかな……。
 そうすれば、清彦の制服姿や水着姿も堪能できるだろうし。
 ……まああいつにそこまでの力はないか。ただの養護教諭だし。

 そういえば、清彦は化粧に気付かなかったな……。
 後で鏡を見たら驚くだろうなぁ。

 自分の唇をなでながら、そんなことを考えた。


==========================================

 あっという間に放課後になった。
 いろいろ調べてみたが、清彦が女の子になった理由には辿り着かない。
「戻さなくてもいい気がするわねぇ〜」

 そんな事を利里子が言っていたが、そうもいくまい。
 本人としては、戻れれば戻りたいのだから。
 ……あたしとしては戻したくないけど。

 さて、帰ろう。
 帰ったらなにをしようか。

―帰宅後の若葉さんの行動を選択してください。
 なお帰り道に買い物を行っても構いません。



>資料として用意したTS本を分析する

>着替えとしてゴスロリやピンクハ○スの可愛らしい服を何着も買って帰り、清彦を着替えさせる

→>帰ったらタンスの中に隠しておいた勝負下着(フリフリのスケスケ)を前に清彦がにらめっこしているのを発見してあわあわする。



 なにをしようか考えていたとき、利里子からメールが届いた。

『清彦ちゃんの洋服を買わざるをえない』

 なんでお前が買う気なの?
 ……まあいい、奢らせよう。
 さすがに一式揃えるのはきついからな。
 あたしの服を貸せればいいんだけど……背も胸囲も違うから気回しできないんだよなぁ。
 あの背の高さであたしより若干胸が大きいのだ。ある種の究極生物であろう。


「ただいま」

 返事がなかった。
 ……寝ているのか?
 まあいい、とりあえず着替えよう。

 部屋に入ると、清彦がいた。
 なんだ、いるなら返事くらいしてくれてもいいだろうに。
 清彦はなにかを一生懸命見ている。

「なにを見ている?」

 清彦の後ろから覗き込む。
 そこにあったのは、あたしの下着だった。
 それも、箪笥の奥にしまってあったはずの勝負下着だ。
 以前下着を買いに行ったとき、つい店員のセールストークと好奇心に負けて買ってしまった、フリフリなレースのついたスケスケの下着。

「き、清彦、こ、これはだな!」
「わ、若葉さん、こ、これ……!」

 あたしも清彦もパニックだった。なんかもう、お互い恥ずかしかった。(清彦は後ろめたさもあったようだが)

「そ、そうだ、それは利里子のものでだな!」
「あ、そ、そうなんですか、そういえば、そんな感じですね!」

 ……利里子が聞いてたら怒りそうだ。
 ちなみにあの変態女の下着はもっと派手だったりする。
 まあうまく誤魔化せた(と信じたい)。おかげで少し落ち着いてきた。
 ふとあることに気付く。

「ところで清彦?」
「な、なに、わ、若葉さん?か、顔が怖いよ?」
「な ん で あ た し の 下 着 見 て る の か な ?」
「……ごめんなさい」


==========================================

「清彦ちゃんたら、女の子の下着に興味がわいちゃったんだぁ〜」

 利里子の運転する車の中で、あたしたちは先程の事について話し合っていた。

「うっ……だって、胸、邪魔だし……ぶらじゃー着けたら楽になるかなって……」
「でも若葉のじゃサイズが……」
 ドスッ。
「若葉が蹴ったぁ〜」

 黙れセクハラ女。

「さて、じゃあ下着と服を買わないとな……女物に抵抗はないのか?」
「あるけど……どうせ着せるよね、利里子先生が」
「ああ、間違いなくやるぞ、着せ替え人形感覚で」
「……恥ずかしいけど、我慢する」
「いいの?本当に?」
「うん、だってちゃんと服用意しないと、出かけることも出来ないし……」

 今の清彦の格好は大き目のシャツを無理矢理着て、裾の長いジーンズを引き摺っている状態。
 歩いて出かけるのは大変なので、利里子に車を回させた。どうせ一緒に来るつもりだったようだし。

「そうだな……服買ったら日曜にでも一緒に遊びに行くか?」
「……いいんですか?」
「遠慮するな」
「では、是非」
「あ〜、私も……」
 ドスッ。
「お前は遠慮しろ!」


 利里子が連れてきた店は、ゴスロリ系の専門店だった。

「ああぁん、似合ってる、似合ってるわよぅ!」

 黒いドレス風の服を着た清彦を、いろんな角度から写真を撮る利里子。
 使用しているカメラはなんか凄いごついレンズのついた、高そうな奴だった。バカだろこいつ。
 とはいえ、ゴスロリ服を着た清彦は人形のように可愛かった。

「お客様、次、これいきましょう、これ!」

 なんか店員もノリノリだった。

「わ、若葉さぁん……」

 助けを求めるように清彦がこちらを見る。
 だが残念だったな清彦。あたしも見たいんだ。

「頑張れ」
「うわ、凄くいい笑顔だよこの人……」

 結局2時間ほど撮影会は続き、数着を購入することになった。
 その際に清彦の写真数枚で4割引き、という交渉が行われたことは内緒である。


 で、そのあと普通の服も買いに行った。
 そこでも清彦は着せ替え人形状態。
 ボーイッシュな感じのものから女の子らしいもの、最新のファッションにあわせたものまで多数着せられていた。
 そのどれもが似合っており、特に白いワンピースを着た清彦は、可憐という言葉が似合っていた。
 そのように感想を言ったら、

「喜んでいいの、それ?」

 と、複雑な表情をしていた。

 そして下着。
 ここは大変だった。
 他と同じように撮影しようとした馬鹿が警備員に連れられていったり、清彦が下着を持ったまま固まってしまったり、店員がなんか派手なのばかり持ってきたりと大騒ぎだった。
 結局、あたしが無理矢理清彦に着せて何着か選んで早々に帰ることにした。
 利里子は置いていくことにした。


「……大変だったな」
「……うん」

 今の清彦の服装は、先程あたしが誉めた白いワンピースと白い帽子のセット。
 なんだ、結構気に入ってるんじゃないか。

「どう、その服?」
「……すーすーします」

 ああ、脚が露出してるからね。
 足元が素足でサンダルという組み合わせだから、結構寒いだろう。

「まあ、慣れなさい。女の子はそういうところで頑張る生き物なんよ」
「……元男だけどね」

 清彦はなんだか恥ずかしそうだった。
 それはそうであろう。自分が女の子の格好して街を歩くなんて初体験だろうし、なにより可愛いからすれ違う人が皆見てくるし。
 しかし、これも慣れるしかない。
 現状では、清彦が戻れる確率は0に近いのだから。

 家に帰り夕食を食べた後、図書館で借りてきた本を読むことにする。
 それらは全て、男が女になってしまうという内容の創作物。
 性転換関係の資料を読んでもなんの参考にもならないと悟ったあたしは、こういったフィクションの方がまだ役に立つと判断した。
 とはいえ、図書館においてある本では物足りなかった。
 ネットも活用するか?でもあたし、パソコン持ってないんだよな……。

 そんなことを考えていると、すっかり夜も更けてきた。
 ……そろそろ風呂入らんとな。
 さて、どうしようか。

―若葉さんの、寝るまでに行う行動を指定してください。


>ヨガをはじめる

→>若葉さんがお風呂に入りに行ったら清彦が入る所で、女の子の体の洗い方を教えると言って一緒に入ってしまう

>清彦に寝るとき抱き枕になってもらうようにお願いする
 #>清彦に寝るとき抱き枕になってもらうようにお願いする
→#わかるけど別々に寝てたはずなのにいつの間にか清彦の抱き枕にされてるってのもよくね?
 #だが寝る前にまずはお肌の手入れとストレッチだろう


→>日課である大自然に感謝しつつ正拳突き一万回を行う



 とりあえず風呂に入りたいところではあるが、その前に軽く運動するのも悪くはない。
 例えば……ヨガとか。
 しかし、ヨガってどうやるのだろう。
 自分の記憶をたどり、脳内ヨガ知識を検索する。
 ……だる○むしか浮かばなかった。
 さすがに火を吹いたり腕や脚を伸ばしたりはできない。というか多分、それはヨガとか関係ない。
 ヨガは無理だな。火を吹けないし。
 ではもっと簡単なものを……空手だな。
 とりあえずどこぞの狩人協会会長の若き日のごとく正拳突き1万回とかどうだろうか。
 試しにやってみよう。
 フン、フン、フン!
 飽きた。100回で飽きた。
 そもそもあたしは蹴りの方が好きだし。
 アイラブさわ○ら。
 でも結構いい運動になった。これなら肘打ちかわしてハンマーパンチも出来そうだ。

 さて、風呂に入ろう。


 風呂場の前には何故か清彦がいた。
 今日買ってきた着替えを持って、なにやらうろうろしている。

「どうかした?」
「あ、若葉さん……」
「風呂入るん?」
「いや……その……」

 なんか様子がおかしい。
 ……もしかして。

「まさか、自分の裸見るのが恥ずかしくて入れなかったとか?」
「そ、そそそそそんなことなかとですよ?」

 図星だったようだ。
 まあ気持ちはわからなくもない。
 よし、ここは(一応)女の先輩として一肌脱がなければなるまい。脱ぐのは肌ではなく服だけど。

「清彦」
「な、なんでしょう」
「一緒に、入ろ♪」

 できる限り可愛らしく言ってみる。
 ……自分で言っててなんだけど、似合わない。
 こういう可愛い系のしぐさはあたしのキャラではない。
 ほら、清彦も呆れて……まて、何故顔を赤らめる。

「……」
「あの、もしもし、清彦さん?」
「……はっ!」
「どうしかしたの?」
「なんでもないよ、なんでもない!」

 ……?よくわからんな、男の子。

「というかなにを言い出すんですか若葉さん!一緒に、お、お風呂だなんて!」
「いやまあ、少なくとも身体は女の子同士だし?」
「中身は男です!第一、一緒に入るって事は……わ、若葉さんの裸を見ちゃうってことじゃないですか!」
「んー……まあそんな立派なものじゃないし、君に見られるの、そんなに悪い気はしないなぁ……」
「なっ……!」

 何故かさらに顔が真っ赤になる清彦。

「……?とにかく、女の子の身体の洗い方なんて知らないだろう?
 まああたしに任せておけ。悪いようにはしないさ」

 清彦は顔を真っ赤にしたまま黙りこんでしまう。
 そのまま1分ほど硬直していたが、やがて静かに頷いた。

 二人でお風呂に入る。

「……こっち、あんまり見ないでくださいよ?」

 そりゃ無理な相談だぜ、清彦さんよ。これから君の身体洗うんだから。
 というか、普通そういうセリフはあたしが言うべきじゃね?

「清彦は普段、身体はどこから洗ってる?」
「……頭から」
「じゃあ、まず髪を洗おう」

 じゃばぁ、と清彦の頭からお湯をかける。

「髪は丁寧に洗うように。髪は女の命、っていうくらいだしね」
「うん……」
「男のときより伸びてるし、質感の違いはあたしにはわからんが、多分前よりさらさらしてたりしないかい?」
「そういえば、なんとなく……」
「とはいえ、極端に長くなったわけでもないからいつもより優しく洗ってあげるくらいでいいかな」

 髪についたシャンプーを洗い流す。

「次は身体だけど……背中流すよ?」
「お、お願いします」
「前は自分で洗ってみる?
」 「が、頑張ります……」
「あ、そんなに強く擦ると肌が傷つく。もっと優しく洗いなさい」
「は、はい」
「胸は敏感だから気をつけてね」
「う、うん……ぁん!」
「……気をつけてね?」

 あたしの理性がもちそうにないから。


==========================================

 なんとか理性が勝利し風呂から出る。
 髪や肌の手入れもしてあげていると眠気が襲ってきた。……なんだかんだで、今日は結構疲れたしなぁ。
 清彦も眠そうで、可愛い欠伸をしていた。

「じゃ、寝ようか?」
「うん……やっぱり若葉さんがベッド使ってよ。若葉さんの部屋なんだし……」
「家主がいいって言ってるんだから、遠慮しないの!」

 君みたいな可愛い娘を床で寝かせて自分はベッドで眠るなんて出来るか。
 え?一緒に眠る?そりゃ、ちょっとハードル高いなぁ……。
 ふと目が覚める。
 部屋の中は真っ暗で、何も見えない。
 そして身体が動かない。

 ……金縛り!?
 いや、違う。
 何かが身体を拘束しているような……。
 それに、背中に何か柔らかいものが押し付けられている。

「…ん……ぁ……すぅ……」

 耳元で何かが聞こえた。
 頑張って後ろを見ると……清彦の顔があった。
 清彦は、あたしを抱きしめて眠っていた。
 まさか、また寝惚けてあたしの布団に入ってきたの!?しかも人を抱き枕代わりにしてる!?
 ……なんて娘だ。あたしが男だったら、清彦、あんたとっくに妊娠してるよ!危機感なさすぎだよ!
 と、とにかくこの腕だけでも振りほどかないと……!
 だけどどんなに力を入れてもその腕が離れることはなかった。
 結構、力強いんだね……。

「……ぅ、…きよひこぶりーかー……

」  なんか寝言言ってる!?
 何!?清彦ブリーカーって何!?

「……大好き〜♪」

 頭に血が上るのがわかる。
 あまりの衝撃に、あたしの意識はそこで途切れた。

※清彦ブリーカー:相手は萌え死ぬ。


==========================================

「……なんて、羨ましい」

 昨晩の顛末を聞いた利里子は、ハンカチをかみ締めながら地団駄を踏んだ。
 久しぶりに見たわ、そんな悔しがり方する人。

「あたしも一緒に暮らすぅ!清彦ちゃんと一緒に寝るぅ!
」 「黙れ変態……で、なにかわかった?」
「あなたに言われたくない……まあいいわ。一応検査結果は出たわよ」

 そう言って一枚の紙を取り出す。

「知り合いの医者に頼んだDNA鑑定の結果、清彦ちゃん=清彦君であることがほぼ確実に証明されましたわよぅ」
「ふむ、清彦のDNAどこから手に入れたんだよ」
「そりゃこの間押し倒したときに……」
「警察は119番だっけ?」
「それ消防だから!ていうか通報しないで!お願いだからぁ!」

 ……本当に通報しようかな。
 少なくとも、学校の女子の貞操は守られるし。

「まあそれはまたの機会にして」
「いつかは通報する気なの!?」
「原因はまったくわからなかったのね?」
「そりゃそうよ。普通ありえないことだもの」

 そう、ありえない。男が突然、着ていた服ごと女子に代わるなんて。

 ……さて、どうしようか。
 この現象の原因がまったくわからない以上、調べても無駄かもしれない。
 それでももう少し調べるべきか……。

―若葉さんの行動を指定してください。


>校舎内に清彦の気を感じる

→>一度清彦が変わった場所を見てみるとかどうだろう

>無防備すぎる清彦が心配ですぐに帰宅して一緒にいようとする

>清彦を女にしたのは自分だったと思い出す



 ……「犯人は現場に戻る」という法則があったな。
 行ってみるか。なんの犯人かよくわからないし、そもそも犯人がいるのかもわからないけど、他に手段もないしな。

 一旦清彦に連絡を取り、清彦が変化に気付いた場所へ向かう。
 ごく普通の廊下だった。
 辺りを見回しても誰もいない。……これはこれでおかしい。
 なにか落ちてたりしないだろうか……ん?
 紙のようなものが床に落ちていた。
 ……これは……名刺?
 なにか書いてある。
『心と身体……』あとは何故か字が滲んでいて読めない。

 拾うのはやめておこう。
 いやな予感がするし、きっとこの件には関係ない。


 ……そうだな、久しぶりに教室行ってみるか。
 そういえばあの日、田村を蹴り倒した気がする。
 あの件で呼び出しとか何もないんだけど、いいんだろうか?

 教室はいつも通りだった。
 誰もあたしと目をあわそうとしない。
 ……誰彼構わず喧嘩吹っかけているわけじゃないんだから、もう少しフレンドリーでもいいと思うんだが。別にいいけど。
 ふと見ると、あたしの席に誰かが座っていた。誰かはわからないが、女子のようだ。
 見覚えのない顔である。
 転校生だろうか?席くらい用意してやれ。
 ……まあ別にいいんだけどね、普段使ってないし。
 前の席の鈴原さんと話をしているようだ。
 とりあえず授業受けたいから、ちょっとどいてもらおうか。

「そこ、あたしの席なんだけどどいてくれないか?」
「あ、すいません若葉ちゃん」

 そう言ってその娘は席から離れていく
。  ……若葉ちゃん?
 あたしをそういう風に呼ぶ人間はいない。
 というか、まず会話する奴が少ない。
 ……名前を知っているということは、知り合いだろうか?
 前の席の鈴原さんに聞いてみよう。
 彼女とは比較的よく話す。風紀委員の彼女に一方的に起こられているだけとも言うが。

「若葉、久しぶりね。サボってばかりだと卒業できないわよ」
「日数は考えてるよ。……ところで、さっきの誰?」
「ああ、若葉は知らなかったっけ」
「転校生?」

 自然に考えればそれが妥当。
 だが、次に返ってきた答えは意外なものだった。

「あれ……田村君」
「……は?」
 言っている意味がわからなかった。
 だって田村は、間違いなく男子だった。少なくとも、あの日あたしが蹴り倒したときには。
 ……まさか。

「信じられないかもしれないけど、本当。この間―あんたが早退した日の事なんだけど」

 早退した日といえば、清彦の事があった日。

「休み時間明けからやけにボーっとしていると思ったら、授業中に……」


==========================================
視点を切り替えます:鈴原しのぶ
==========================================

 田村君が突然苦しみだしたのよ。
 最初はふざけているのかと思ったわ。

 最初の異変は、身体が小さくなっていったことね。
 身体がグングン縮んでって、がっしりした体格だったのが随分と華奢になっちゃったわ。
 次に髪が伸びてったの。
 まるで映画見ているみたいだったわね。グングン髪の毛が伸びてって、ちょっと気持ち悪かったわ、アレ。
 その時、一瞬私と目が合ったんだけど、その時にはもう女の子みたいな顔つきだったわ。
 あとはもう、あっという間。
 胸が少し膨らんで、服装が女子のになってったの。

 で、気がついたらあんな感じ。
 もう誰が見ても女の子みたいになってた。

 当の本人は自分の変化に気付いてないみたいで、それどころか元から自分は女の子だったと言い張っててね。
 その日はもう授業どころじゃなかったわね。


==========================================
視点を戻します:佐々木若葉
==========================================

 ……なんということだろう。
 まさか、清彦以外に変化が起きてた奴がいるなんて。

「でも、なんでそんなことがあったのに利里子は教えてくれなかったんだろ?」
「誰も気にしてないから。みんな、普通に受け入れちゃってる」

 意味がわからなかった。
 こんな異常な状況なのに、誰も深刻に考えていないのだ。

「おかしくないか、いろいろ」
「若葉も、そう思う?」

 どうやら鈴原さんもこの状況に違和感を感じているらしい。

「今本人と話をしてた感じだと、家族も周りも気にしてないみたいだし」
「……なんで鈴原さんは気にしてるんだ?」
「おかしいからに決まってるじゃない。あんな大きな身体が小さくなっちゃうなんて面白いことを放置するなんて気になるじゃない?」

 ……あなたも少し(観点が)おかしいのではなかろうか。

==========================================

「へえ、そんなことがねぇ」

 利里子に一連の話をしてみる。
 今保健室には、あたしと鈴原さんと利里子の3人。

「清彦ちゃんといい、田村君といい、おかしなことになってるわねぇ」
「清彦君?」
「その件はあとで利里子に聞いてくれ」

 しかし、どういうことだろうか。
 清彦も田村も、確かに男だったわけで。
 しかも田村の場合、清彦よりも状況が悪い。
 本人が男だったということすら忘れている。
 周囲もそれを自然と受け入れている。
 いったい、何が原因だ?

「他にも被害者がいそうね」
「最終的には女子校化したりして」

 ありえない、とは言い切れんなぁ……。
 男女全てが反転する可能性もあると思うが、それは勘弁してもらいたい。
 さすがに男になりたいとは思わない。

「でも女子校化はいいわねぇ〜。みんな可愛い女の子だったら楽園じゃない」
「黙れ変態」

 さて、どうするべきだろうか。
 このまま調べても何も判らない気がする。
 そもそもこんなありえないことをどう調べればいいのか。

「……そういえば、怪しい部活があった気がする」
「鈴原さん、それ、どんなの?」
「黒魔術部」

 あ や し す ぎ る。

「ただ、もう部員がいなくて去年廃部したはずだけどね」

 なら関係ないか?
 どちらにしても、かかわるのは危なそうだが……。

―今後の若葉さんの行動方針を指定してください。


→>理里子に黒魔術部を調べさせて、自分は帰宅して清彦といちゃつく

→>黒魔術部を調べようとするもエロエロな魔法をかけられる(清彦が)



 よし、こういう時こそこいつの出番だ。

「利里子」
「なぁに?」
「今から黒魔術部調べてきて。もしくは潰してきて」
「ちょっ、え?ええぇ〜!!」

 さすがの利里子も、この作戦には驚きを隠せないようだ。

「い、嫌だよぅ、そんな危険なことぉ」

 断ることも想定済みだ。だが、こんな時のために切り札を用意してあるのだ。
 あたしは携帯を取り出した。

「これ見てみ?」
「!こ、これは……」
「清彦の寝顔写真。これをあげよう」
「……そ、そんな手には」
「動画もある」
「今すぐ行ってきます!」

 物凄い速さで利里子は保健室から走り去った。廊下を走るな。
 というか、ここ開けっ放しでいいのだろうか。
 ……まあいいや。怒られるのあいつだし。

「じゃああたしたちは帰ろうか、鈴原さん」
「え?い、いいの?利里子先生放っておいて」
「鈴原さん……マンドラゴラの抜き方って知ってる?」
「へ?」
「まあ、犬よりは賢いから大丈夫だと思うよ」
「ごめん、私にはよくわからない」

 わからない方がいいかもしれない。


==========================================

「たのもう!」
「だ、誰!?」

 黒魔術部にいたのは一人の女子だった。
 この娘は確か……ああ、木原さんだ。木原スミレ。
 私の同類で―ようするに、女の子大好き、そんな娘だ。

「な、なんのようでしょう利里子先生」
「4月14日、山田清彦を女にしたのはお前だな!ビシィ!」
「ビシィ!って口で言ったよこの人!」
「さあ吐け!吐かないと襲う!性的な意味で!むしろ襲わせろ!タイプです好きだ付き合ってください!」
「自分の欲望に素直すぎでしょ!あたしは年上は興味ないの!」

 えぇ〜。私の好み一直線なのに。

「……そうよ、清彦君―と、ついでに田村を女の子に変えたのはわたし。だとしたら、どうするの?」
「へ?……どうしようか?」
「何も考えないで来たの!?元に戻せとか、そういう話でしょ普通は!」

 ……元に戻す?
 あんな可愛い娘を、男の子に戻す?

「そんな勿体無いことさせるかぁ!仮に本人が戻りたくても戻させるかぁ!」
「ええ!?本人の意見無視!?」
「だって、僕っ娘だよ?きょにゅーだよ?ロリっぽいんだよぉ!!」
「知るかぁ!」
「なんで知らないのよ!あなたが変えたんでしょうがぁ!
 自分の作ったものにはちゃんと責任を持つようにPL法でも定められているでしょう!?」
「人間を物扱いするな!」
「お前が言うなぁ!」


==========================================
数時間後
==========================================

「……ようするに、偶然知った『相手の存在を完全に別のものにする』魔術の暴発で清彦君は女の子になっちゃったと」
「ええ……本人や周りの意識に変化がないのはその影響ね、多分」
「でもあなた自身がそういう状況になっていることを確認する前に若葉が清彦ちゃんを拾ったと」
「……あの人怖くて話しかけられなかったんだよね」

 話すと意外とフレンドリーだよ?
 よく蹴られるけど。

「で、しょうがないからたまたま床で倒れていた田村君に同じ魔術をかけたと」
「ええ……そっちはうまくいったみたいだから、清彦君の方も問題ないと思って放っておいたの」
「話はよくわかったわぁ」
「そう……」

 木原さんは凄く疲れたように肩を落とした。

「どうしたの?そんなに疲れて」
「同じ説明を12回もすれば、疲れもするわっ!」
「違うわ、木原さん。14回よ」
「……なんでもっと話のわかる人が来ないんだ。
 これなら若葉さんと話するほうがマシだよ」

 酷い言われようねぇ。
 まるで私が理解力のないおバカさんみたいじゃない。

「まあいいわ。それじゃあ、お願いね?」
「は?」
「魔法使って、遊ぼうよ」
「なんで!?教員として、ここは怒るところでしょ!」
「いや私、養護だし」
「それ関係ないよね!」
「どうでもいいじゃない〜。他の先生に言わないから、遊ぼうよぉ〜」
「……わかった。これは嫌がらせね。わたしに対する、若葉さんの嫌がらせね」
「早くぅ〜」
「……わかったわ。わたしの一番得意な魔術を見せてあげる!」
「どんなの?どんなの?」
「それはね……女の子を、えっちな気分にする魔法!」
「おお、それは素敵ねぇ」
「これを、若葉さんにかけてやるぅ!」

 そういうと木原さんは部屋の真ん中にあった魔法陣の前で呪文を唱えだした。
 魔法陣の中心に光が集まり、その光は窓を突き破って空の彼方に飛んでいった。

「……窓開けるの忘れてた」
「……これは弁償してもらわないとね」
「なんで服を脱ぐ!」
「身体で払って♪」
「なんで!?少なくとも利里子先生に払う必要ないよね!」
「もはや問答無用♪」
「いやぁぁぁぁ!!!!!!」


==========================================

 今日も一緒に風呂に入る。
 まだまだ女の子の裸になれていない清彦は、顔を真っ赤にしながらあたしの背中を洗ってくれていた。

「……いい月だ」

 窓の外には、大きな満月が浮かんでいた。
 風呂入りながら見る月、最高じゃないか。
 ……ちょっと寒いのが問題だが。

 あ、なんか鼻がむずむずする。

「……ハクション!」

 その時、頭上を何かが通ったような気がした。

「……?何かあった?」
「わ、若葉さぁん……」
 振り返ると、清彦の顔があたしの目の前にあった。
 ……やばい。この状態は、ヤバイ。
 お互い全裸で、こんな近くに清彦の顔がある。
 『理性』という名のブレーキを全力でかけ、清彦を押し倒したくなる衝動を抑える。

「……清彦、どうしたの?」
「なんか……僕……身体、熱くてぇ……」
「の、のぼせたのかな……」
「若葉さん見てるとぉ……ドキドキするの……」

 清彦の腕が、あたしの首に絡みつく。
 清彦の大きな胸が、あたしの胸を押しつぶしてくる。
 もう、清彦の目しか見えない。
 大きくて、潤んだ瞳があたしを見つめていた。

「若葉さぁん……大好きぃ……」

 清彦の唇が、あたしの唇に触れた。

「……っ!」
「ぅ…ん………」

 清彦の舌があたしの唇をこじ開け、無理矢理舌を絡ませていく。
 まるであたしの唾液を舐めつくすように、あたしの口内に清彦の唾液を染み込ませるように。
 清彦の舌は、あたしの口を蹂躙していく。

 もう、何も考えられなかった。
 理性?そんなもの、クソ食らえだ。

 あたしは清彦を風呂場の床に押し倒していた。

 互いに互いの舌を求め合いながら、あたし達はお互いの身体を探りあう。
 清彦の全てを知りたい。清彦の全てをあたしのものにしたい。
 男だったとは思えないほど華奢な清彦の身体。
 細くて、柔らかくて、大きくて、小さい。羨ましいくらい女らしい身体。
 女のあたしですら求めたくなるほど可愛い、『あたしの』清彦。

 そうだ、この可愛い生き物はあたしのものだ。
 この大きな胸も、小さな手も、細い体の抱き心地もあたしだけのものだ。
 他の誰にだって、触らせてやるものか。

 そんな独占欲が湧き上がってきた。

 その元男とは思えないほど大きな胸に、あたしの胸を押し付ける。
 互いの乳首が擦れあい、そのたび快楽を生み出していく。
 清彦の顔は淫らに、いやらしく微笑んでいた。
 見ているだけで興奮が高まっていく。
 清彦のこんな表情、他の誰にだって見せたくない。見せてやるものか。

 清彦の指が、あたしの股間を刺激する。
 今まであたし以外の誰も触れた事のない場所を、清彦が侵略してくる。
 小さな手が一生懸命、あたしを気持ちよくさせようと動いている。
 ……自分でするより、何倍も気持ちいい。

 その気持ちよさを清彦にも与えたくて、あたしは清彦の股間に手をのばす。
 既にそこは濡れていた。
 指を動かすと、清彦は小さな声を上げた。
 その声が聞きたくて、あたしは指を夢中で動かした。
 声は少しずつ大きくなっていく。
 指を動かすたび、艶かしい声があがる。
 まるで楽器のようだった。

 ……あたしも、こんな声を上げていたのだろうか。
 そう思うとちょっと恥ずかしい。

 清彦のあそこ―本来は存在しなかった場所に、あたしの股間を近づけていく。
 互いに見つめあい、静かに頷く。

 あたしのあそこと清彦のあそこを擦り合わせる。
 互いの愛液が奏でる音を伴奏に、あたし達は互いの名を呼び、喘ぐ。
 どんどん気持ちよくなっていく。もはや何も考えられない。
 やがて、高まってくるものが抑えられなくなり……頭の中が真っ白になった。

 これが、絶頂……なのだろうか。
 身体の力が抜けるように、あたしは風呂場の床に寝転がった。
 目の前には、幸せそうに眠る清彦。
 女のあたしですらこれならば、男であった清彦はどんな感じだったのだろうか。
 あたしがそれを知ることは叶わない。少し残念だ。
 そんなことを考えながら、あたしはそのまま眠ってしまった。


==========================================

「くしゅんっ!」

 可愛らしいくしゃみが隣から聞こえた。

「大丈夫か、清彦……ハクション!」
「若葉さんも……」

 同じくしゃみなのに、なんでこうも違うのだろうか。


 風呂場で一晩過ごしてしまったあたし達は、二人仲良く風邪を引いてしまった。
 鈴原さんがお見舞いに来てくれた時、「仲がいい姉妹みたい」と笑っていた。そこは恋人と言って欲しかった。

 結局、清彦が元に戻ることはなかった。
 清彦の姿を変えた魔術は、一度かかった相手に再度かけることは出来ないという。
 それを聞いた清彦は残念そうだったが、

「……まあ、気持ちいいから、別にいいか」

 と、あたしの頬にキスをした。
 ……まったく、恥ずかしい奴だ。

 なお田村は、彼氏と仲良くしているらしい。
 最初は男と付き合うのを嫌がっていたらしい。男の頃の影響は少し残っていたようだ。
 それが女子として生活していくうちにいつの間にか彼氏を作っていたという。
 男に先を越された、と鈴原さんは悔しがっていた。

 首謀者であるスミレは利里子に調教され、完全に利里子の虜になったらしい。
 元々レズっ気があったとはいえ、年下好きだった彼女のその変貌は周囲を驚かせたという。


「しかし、風邪でデートの約束を果たせぬとは……」
「残念だね……」

 自分達が悪いんだが。

「まあいいさ。また今度いけばいい」
「そうだね、若葉さん」

 にっこりと笑う清彦の頭を、あたしはゆっくりとなで上げる。
 そう、時間はたっぷりある。
 清彦と二人、楽しく生きければいい。

 これからの生活に、あたしはワクワクした。


―以上が、清彦さんと若葉さんの物語の『始まり』です。
 この後、二人には数々の困難が立ち塞がることでしょう。
 でも、きっと大丈夫。
 二人一緒なら、大丈夫。


 おしまい♪






『船頭多くして船山に登る』といいますが、(それがいいことかは別として)そんなことが起きるのは凄いことではあると思います。これはきっとそんな話です。
一度はやってみたかった、支援所の皆さんとの交流作品。
まさかここまでいつも通りになるとは……。
なお、途中の人物決定の部分はランダム(支援所の乱数生成機能を使用)で決めたのですが、ここであの二人を引くあたり運がいいのか悪いのか。
場合によっては不良に犯される、ヤンデレに死ぬほど愛されて眠れない清彦等のパターンも想定していたのに……。

あとネタ投稿が多かった辺り、みんなよくわかっているなぁとおもいました。


戻る