常識ノート 試作
ルール1:一度につき対象は一つ。結果的に多数の対象へ影響を与える変更はできない。
ルール2:一つの対象から起きる変化は世界共通の認識となる。これはルール1とは別の判定である。
ルール3:一つの対象につき、三回まで変化させることが出来る。ただし、決して取り消すことはできない。
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面白い玩具を手に入れたので、浮かれた挙句早起きしてしまった。折角なのでいつもより早く学校へ行こうと思う。
登校途中、男子の制服に身を包んだ、幼馴染の飯田 士朗と出会った。
野球部所属の士朗は、背が高くて筋肉質、顔は……まあ、悪くはない方。イケメンって程でもないケド。
うん、最初はコイツにしよう。わかりやすいターゲットの方がウケがいいからね。誰からのウケかは知らないケド。
「おはよう士朗、朝連?」
挨拶をしながら士朗の隣に立つ。士朗の背が高いので、見上げる形になっている。ちょっと悔しい。
「お、香織が早起きなんて珍しいジャン。午後からは雪かな?」
む、失礼な。私だって10年に1度くらいは早起きするゾ?
こんな失礼な幼馴染殿には、遠慮はまったくいらないね!
私は鞄から一冊のノートを取り出す。
ノートの表紙にはデカデカとマジック(極太)でこう書かれている。
『常識ノート ※悪用しないでね♪お姉さんとの約束だゾ?』
すいません悪用します。会った事もないお姉さんとの約束なんて守れません。てかそもそもお姉さんって誰だ。
まあいいや。私はノートを開き、専用のペンである一文を書き込んだ。
変化は、一瞬。
「あの……香織?ノートなんて……急に、どうしたの?」
聞きなれない、高い声がした。声の主は、士朗だ。
視線を士朗に移すと、狙い通りの効果が現れていた。
「いや、気にしないで。ところで士朗」
「なに?」
「あなた、自分の姿を見てどう思う?」
「へ?」
士朗は自分の身体へ視線を落とす。
紺色のブレザーの下には白いブラウスを着ていて、膨らんだ胸の上の赤いリボンがよく映える。
チェックのミニスカートから生える白い足は、細くしなやかな物だった。
間違いなく、私と同じ女子の制服である。
背も私と同じくらいになって、髪も肩まで伸びた物を三つ編みで二つにまとめている。
眼鏡をかけたあどけないその顔は、まさに【文学少女】という風貌で、とても愛らしい。
先ほどまでいた【運動部の少年】の姿の面影は、一切残っていなかった。
それなのに。
「……いつも通りの、私、だよね?何か、おかしい?」
士朗は、自分自身の変化に一切気付かない。
当然だ。
だって、士朗がその姿なのは、『常識』なのだから。
「ううん、おかしくないよ。士朗が可愛い女の子なのは、常識的に考えて当然だからね!」
私はそう言って士朗の手を握った。
「もう……可愛いとか……お世辞は、いいからさぁ……」
「いやいや、可愛いのは事実だしねぇ。嘘はつけないなぁ」
「う〜……」
恥かしそうに顔を赤らめる幼馴染の顔を堪能しながら、私は学校へと向かうのだった。
『常識ノート』に書かれた事は全て事実になる。
三つのルールさえ守れば、どんなことでも出来るのだ。
今回ノートに書いた内容は一つ。
【飯田 士朗が可愛くてちょっと内気な文学少女であるのは常識である】
たったこれだけである。
さて、士朗に関して変えられる常識はあと二つ。
どうしてくれようかな……。
いや、どうにもしません。
続いた時には登場人物も設定も変わっていました。何故だ。
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