プールに行こう



 ある日街を歩いていると、変なジュースを売っているお婆さんがいた。
 今思えばそんなの放っておけばよかったのだが、つい一本買ってしまった
 缶の表面に書いてある♂や♀のマークが如何わしくて、凄く不味かったことは覚えている。

 翌日、何故か女になっていた。
 すぐにお婆さんを探しに行ったが、見つけることができなかった。
 ショックで部屋に篭っていると、双葉がやってきた。
 双葉は近所に住む女の子で、昔から妹のように可愛がってきた。
 性格は明るく元気で、とてもお金持ちのお嬢様には見えまい。
 どうやら、俺の状況を見かねた母さんが呼び出したらしい。

「お兄ちゃん、本当に女の子になっちゃったんだねぇ」
「…なぜ胸を揉む?」
「そこにおっぱいがあるから」

 黙れ変態。

「ほら、引き篭もっててもしょうがないし、遊びに行こうよ」
「…この身体で外出たくねえ」
「なんで?」
「だって…なんか怖いんだよ…」

 お婆さんを探しに外に出たとき、妙に視線を感じた。
 周りを見ると、こっちをじろじろと眺める男共がいた。
 女になった俺は、それなりに可愛い顔をしていた。
 そのせいか、街中を歩くだけで男に注目されていたようだ。
 さらに、何人かの男にナンパされた。
 断ってもしつこく食い下がってきて、挙句の果てには無理矢理ホテルに連れ込まれそうになった。
 なんとかその場は凌いだものの、俺は外出する気がなくなっていた。
 その事を双葉に伝えたら、

「大丈夫、私に考えがある」

 と言い、俺を無理矢理連れ出したのだった。


 1時間後、何故か俺は青いビキニを着ていた。

「ほらお兄ちゃん、あっちのスライダーも面白そうだよ!」
「ちょ、待て双葉!水着脱げそうなんだけど!」
「大丈夫、私達しかいないから誰も見てないよ♪」
「そういう問題じゃなぁい!」

 やってきたのは近所の大型室内プール。
 それなりに人気のある施設なので、いつ来てもそれなりに人がいるのだが、今日は俺達二人だけだ。
 双葉が貸切にしたらしい。金持ちのやることは豪快である。

 それにしても、双葉も大きくなったものだ。
 子供の頃はいろいろ小さかったのに、今は背はもちろん、赤い水着に包まれた胸も大きくなった。
 自分の身体と比べてみる。
 …背も、胸も双葉より小さい。
 なんか悔しい。
 せめてもう少し胸が大きくてもよかったと思うんだ、うん。
 って、男の考えることじゃねえな、これ…。

 で、ウォータースライダーにやってきた。
 スライダー自体はどこのプールにもある普通のスライダーだ。
 双葉が言うには「高さと傾斜がちょっときつめ」であるらしいが、下から見上げる限りは大したことはなさそう。

 甘かった。
 上から見下ろしてみるとよくわかる。
 垂直…というほどでもないが、それくらいあるように錯覚する角度。

「敷地の都合で、傾斜55度にしか作れなかったんだって」

 と、双葉が説明をしてくれた。
 …今言うなよ。
 というか、設計者馬鹿だろ。

「じゃあお兄ちゃん、行こう♪」
「…マジか?」
「マジ。行かないなら先に行っちゃうよ?」
「だけど…」
「女の子になったら、こんなスライダーも怖くなっちゃったのかなぁ?」

 む、まるで人が心まで女になったような言い方だ。
 ここまで言われて逃げたら、男が廃る。
 …いや、今は女だけどさ、肉体的には。

「わかったよ!やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」

 そう言って俺はスライダーをすべる準備をする。
 …うわ、やっぱ高いなこれ。
 自分の身体を見る。
 頼りなさげな、細い肢体が目に映った。
 …身体、もつかな?
 男の頃だったら何の問題もなかったが、この身体の頼りなさが、俺の心に恐怖心を生み出す。

「お兄ちゃん、怖いの?」

 隣のレーンに座った双葉がニヤニヤこっちを見ている。
 …こいつ、俺が怖がってるのを楽しんでるな。
 よし、見てろよ…こんなスライダーくらい…!


―数分後。

「グスッ、グスッ」
「ほらほら、泣かないでお兄ちゃん」
「うぅ…なんでこんな目に…」

 すべること自体は何の問題もなく終了した。
 かなり怖かったけど、無事に着水した。
 身体も無事の様子。

 だが、一箇所だけなんかおかしい。
 さっきまで胸を圧迫していた感触がない。

「ちょ、お兄ちゃん!胸、胸!」

 双葉が慌ててこちらに駆け寄る。
 …まさか。
 自分の胸を見てみる。
 水着が、脱げていた。

 なんだ、それだけじゃないか。
 なにを双葉は慌てているのだろう?
 そう思って周りを見ると…周囲にはプールの男性スタッフが集まっていた。
 そう、いくら貸切とはいえ、プールのスタッフまで排除していなかったのだ。
 集まる男の視線に、俺は急に恥ずかしくなった。

「きゃぁぁぁぁ!!!!!」

 俺はまるで女のような悲鳴を上げ、胸元を隠してプールに沈んだ。


 俺は双葉に慰められながら、食堂にやってきた。

「ほら、気分転換に何か食べよ?なんにする?」
「…ラーメン大盛りで」
「じゃあ私は…パフェにしようっと。ちょっと待っててね、お兄ちゃん」

 そう言いながら、双葉は食券を買いに行った。
 俺は空いている席へ適当に座った。
 遠ざかる双葉の背中を見ていたら、なんだか変な気分になってきた。
 双葉が一緒にいた時は気にならなかったけど…まだ誰かが見ているような気がする。
 ちょっと心細い。…双葉、まだかな?

「おまたせ…ってどうしたの?」
「な、なんでもないよ…そんなことより、早く食べよう!」

 寂しかった、とは言えないので笑ってごまかすことにする。
 すると、双葉は何故か顔を真っ赤にして見つめてきた。

「…どうした?」
「え!?あ、な、なんでもないよお兄ちゃん!ほら、ラーメンが伸びちゃうからどんどん食べよう!」
「お、おう」

 双葉に促され、ラーメンに箸をつける。
 …あ、結構おいしいな、これ。

(お兄ちゃんがあんな可愛い笑顔するなんて…。思わずどきどきしちゃったよぅ…。
 男の頃のお兄ちゃんも素敵だけど、今のお兄ちゃんも可愛くて魅力的だよ。
 …落ち着け、私。今お兄ちゃんは女の子だぞ。同姓にときめいてどうする!
 でも可愛かったなぁ…。食べちゃいたいくらい…って待てぇ!!
 私にはそっちの趣味はない!ないはず…多分。
 でもお兄ちゃんだし…。朝に揉んだおっぱい、気持ちよかったし…。
 …目覚めた?もしかして目覚めたのか、私!?
 ああ、どうすればいいんだ私!
 私はお兄ちゃんにどうなってもらいたいんだ!?)

 双葉がそんなことを考えているとは露知らず、俺はラーメンに夢中になっていた。


―数分後

 俺の目の前には、半分ほど残ったラーメンがあった。

「もう、食べられねえ…」
「女の子になったら、小食になっちゃったみたいだね」
「みたいだな…男のときだったら、これくらい軽かったのに…」
「まあしょうがないよ。勿体無いから残り食べていい?」
「いいけど、パフェどうするんだよ」

 双葉の目の前には、やっぱり半分ほど残ったチョコレートパフェがあった。

「…食べる?」

 俺はあんまり甘いものは好きではない。
 加えて、今は満腹状態。
 普段だったら、間違いなく断っていたことだろう。
 だが、今の俺には、そのパフェがとてもおいしそうに見えた。
 あれだったら…大丈夫かな?

「食べる」


 …おいしい。
 口の中でとけるクリーム、それと共に広がる甘さが心地よい。
 こんなおいしいもの、なんで今まで食べようと思わなかったんだろう。
 これだったら、もっと食べられそう。

「おお、いい食べっぷりだね、お兄ちゃん」
「そうか?」
「うん。もう一杯食べる?」
「…食べる」

 結局、ラーメンとは別にパフェを2杯分食べてしまった。
 まさに『甘い物は別腹』である。

 それにしても、甘いものがこんなにおいしいなんて…。
 なんだか、今までの人生損してた気分になってきた。
 その事を双葉に伝えると、このような返事が返ってきた。

「身体が女の子になったから、甘いものがおいしく感じるようになったのかもね」

 なるほど、そうかもしれない。
 そう納得する俺の隣で、双葉はなにやら難しい顔で考え込んでいた。

(さっきのポロリの時といい、甘いものの事といい…
 なんかお兄ちゃん、だんだん女らしくなってない?)


 食事を食べ終わり、またプールで遊んでいると、誰かの視線を感じた。それも、複数。
 最初のうちは気のせいだと思ってた。
 あまりに気になるので周りを見てみると、プールの男性スタッフがこちらを見ていた。
 そのときは(双葉はスタイルがいいから目の保養になるだろうけど…)と、あまり深く考えずにいた。
 だが、時間が経つにつれ違和感は増していく。
 妙に男性スタッフの数が多いのだ。
 いくらなんでも、十数人ものスタッフが二人の客の周りに固まるのはおかしい。
 第一、客がいなくても仕事くらいあるだろうに。

「なんか嫌な感じ…」

 双葉が呟く。
 …同意せざるを得ない。

 だが、今はそんな視線なんてどうでもいい。
 俺にはもっと重要なことがあった。

「…双葉」
「どしたの?」
「…トイレいってくる。もう限界」
「…そういうことははっきり言わない!ほら、私もついていくから!」
「いいって。トイレくらい一人で行ける」

 女としてトイレ行くのはもう慣れたし。
 …それもどうかと思うけど。


 …すっきりした。
 女になってからトイレが近くなった気がする。
 というより、我慢するのが難しくなったというべきか。
 あ、でも双葉とか学校の女子とかはそんなそぶりは見せないよなぁ…。
 …まだ女に慣れきってるわけじゃないんだな。
 まあ相手は十数年女をやってきてるんだ。つい最近女になったばかりの俺より慣れてて当然だ。
 すげえな、女子。

 そんな下らない事を考えていたら、男性スタッフが一人近づいてきた。

「ねえ、君?」
「…なんでしょうか」
「女同士で遊んでないでさ、俺と遊びに行かない?」

 …ナンパかよ。仕事しろ、仕事。
 以前の経験から、男と話すのはちょっと苦手だ。
 特に、こういうタイプの男は駄目。
 ホテルに連れ込まれそうになったときも、相手はこんな奴だったと思う。
 …というか、もっとマシな誘い方はなかったのか。

「いえ、友人が待ってますので…」
「だったら友達も一緒にさぁ」
「あいつはそういうの苦手だし…」

 双葉は男と話すのが好きでないらしい。
 双葉曰く、「お兄ちゃん以外の男は軽薄で信用に値しない」だとか。
 俺が信用できるかはともかく、そう言い切るのはどうかと思っていたが…こういう奴に会うとその気持ちもよくわかる。

「じゃあ二人で遊びに」
「いやだから友人が」
「そんなのほっといてさ」
「そういうわけには行かないので…」

 双葉を置いてったりしたら、双葉の親父さんになにを言われるかわかったものではない。
 それにしても、こいつしつこい。
 ああもう、勘弁してくれ。

「ほら!ついてこいよ!」
「きゃっ!」

 突然腕を掴まれた。
 振りほどこうとするが、女の細腕では男の手を振り払えない。

「は、離せ!離して!」
「うるさい!黙ってついて来い!」

 男が怒鳴りつける。
 怖い。
 男の頃だったらなんてことはなかったのに、今はただ怯える事しかできない。
 …誰か、助けて。

「助けてっ…双葉ぁ!!」

「お兄ちゃんから手を離せ!」
「うぎゃっ!」

 突然双葉の声がした。
 それと同時に、俺を掴んでいた腕の力が弱まる。
 すかさず腕を振りほどき、声のしたほうを見ると―双葉が、男の股間を蹴り上げていた。
 双葉はお金持ちの娘ということで、昔から苛められそうになったり、誘拐されそうになったりすることが多かった。
 そんな状況に嫌気が差した双葉は、護身の為に空手を始めた。
 そして今では黒帯。
 その双葉の蹴りが股間に炸裂した。
 …ありゃ、しばらくは使い物にならないだろう。

「ああもう、客に手を出すような従業員を雇ってるプールなんて最低!お兄ちゃん、帰ろう!」
「う、うん…」

 双葉が俺の手を引き、早歩きで更衣室へと向かっていく。
 その背中が頼もしく感じると共に、自分が『か弱い女の子』になってしまったことを改めて実感し、悲しくなった。

(ああもう!いくら今のお兄ちゃんが可愛い女の子になったからって、ナンパするなんて最低!
 だからお兄ちゃん以外の男は嫌なんだ!
 お兄ちゃんをあんな男共にくれてやるくらいだったら…!)


 今俺達は、二人背を向けたまま更衣室で着替えている。
 タオルで濡れた髪を拭き、顔を拭き…ついに身体を拭くときがきた。
 女になってから、自分の身体を触ったことはある。
 そりゃ、俺だって男です。女の身体に興味はあります。
 でも…この状況を楽しむ気にはなれなかった。
 自分が自分でなくなりそうな気がして、怖かったから。
 風呂に入ったときも、身体についた水分を取ることだけに集中して、女であることを意識しないようにしていた。
 今回も、そうするつもりだった。

 ふわっと、後ろから布のようなものをかけられた。
 …双葉のタオルだ。

「お兄ちゃん…身体…拭いてあげるね…」

 そう言いながら、俺の身体をゴシゴシとタオル越しに拭ってくる。

「いいよ、自分で…」
「慣れてないんでしょう?女の子の身体に」
「そりゃ…」
「ほら、女の先輩である私に任せて、ね?」

 正直、身体拭くのに先輩も後輩もないと思うが…任せることにした。
 さっきの件で、双葉がイラついていたのを思い出したからだ。
 経験上、こういうときの双葉には逆らわないほうがいい。
 俺の身体を拭くことでストレス解消してくれるなら安いものだ。

「わ、わかった。任せた」
「うん、任されるよ…優しく、するからね?」

 その言葉の意味を理解するのは、もうしばらく後のことになる。


 最初のうちは、丁寧に身体を拭かれているだけだった。
 髪から滴る水を、腕をつたう水を、優しく優しく、タオルで拭っていく。
 頭から首へ、肩から腕へ、少しずつ少しずつ、俺の身体を拭いていく。
 そして、背中から胸へと双葉の手が動き―乳首へと、手が触れた。

「ひゃぅ!」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「な、なんでもない」

 まさか身体を拭かれただけで感じた、などと言えるわけがない。
 こうなったら、双葉の手が胸を拭いている間、耐えるしかない。

 だが、一向に双葉の手が胸から離れてくれない。

「あの…双葉?」
「任せて」

 そう言われても。
 いくらなんでも、これはおかしくないだろうか?
 そう思ったとき、双葉の手が動いた。
 …勘違いだったか。
 ほっと溜息をつく。この時、俺は完全に油断していた。

 双葉の右手が、俺の左胸へと移動した。
 同時に、左手が右胸に。
 結果、自然と後ろから抱きつかれた形になった。
 双葉の大きな胸が背中に押し付けられる。

「ふ、双葉…?」
「お兄ちゃん、私の胸、どう思う?」
「どうって…」
「私はね、この胸、嫌いなんだ。重くて邪魔だし、男はジロジロ見てくるし…一番見てほしい人は、見てくれなかったし。ね、お兄ちゃん」
「え?」

 耳元で囁く双葉の声。
 その響きは、なんだか心地よかった。

「お兄ちゃんには、お兄ちゃんだけには見てほしかった。でも、見てくれなかったよね…」
「双葉…」
「思えば、子供の頃はずっと一緒だったのに…最近は会う機会も減っちゃったよね…」
「ああ…」
「久しぶりに会ったら、女の子になっちゃってるし…お兄ちゃんは、変わっちゃったの…?」

 双葉が言っているのが身体ではなく、心のことだと気付くのに時間はかからなかった。
 思えば、小学校に通っていた頃は双葉とよく遊んでいた。
 だけど、中学生になる頃には、なんだか気恥ずかしくて、無意識のうちに双葉を避けていた気がする。
 俺としては悪気があった訳ではないが…双葉にしてみれば、突然嫌われてしまったかのようにも感じただろう。

「…ごめん」
「ううん、いいの、わかってる。でもね…やっぱり、お兄ちゃんと一緒にいたいよ、私は…」
「………」
「どんな姿でもさ、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ、私にとって。いくら身体が女の子になっちゃったからって、私の大好きなお兄ちゃんには違いないんだよ…?」
「………」
「お兄ちゃんを誰にもあげたくない、他の女の人にも、男にも、お兄ちゃんを盗られたくないの!」
「双葉…」

 双葉の手が、俺の身体を弄ってくる。
 …不快感はなかった。
 むしろ心地よくって、いつしかその動きに身体を委ねていた。

 何故だろう。
 男に触れられるのは怖かったのに…双葉に触られるのは怖くない。
 むしろ触ってほしい。
 そのしなやかな指で、柔らかな掌で、体中を触ってほしい。

 それは双葉だからだと思う。
 きっと俺は、双葉のことが好きだったんだ。
 男だった頃から、心のどこかで惹かれていたのだろう。
 そして、女になってしまった今も、彼女を思い続けていたのだろう。

 だから、女になったことが悔しかったのだ。
 彼女を愛することの出来ない自分が嫌だったのだ。

 だけど、双葉は俺を愛してくれている。
 男の頃からも、そして女の姿になってしまっても、愛してくれている。

 それが悲しくて、切なくて、恥ずかしくて…でも、とても嬉しくて。
 俺の目から、涙が零れ落ちた。

「お兄ちゃん…泣いてるの?」

 悲しそうな顔で、双葉が見つめてくる。

「ごめんね、嫌だよね、こんなこと…」

 違う、そんなことはない。
 そう言おうと思ったが、言葉が出なかった。
 双葉の目からも、一筋の涙が浮かんでいたから。
 だから俺は、その涙を拭うように、彼女の頬をなめた。

「お、お兄ちゃんっ!?」
「双葉…俺さ、初めてなんだよ」
「へ?」
「だからさ、優しくしてくれよ…?」

 そう言って、俺は双葉の唇へキスをした。

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「ほら『お姉ちゃん』、あっちのスライダーも面白そうだよ!」
「ちょ、待ってよ双葉!水着が脱げちゃいそうなの!」
「大丈夫、私達しかいないから誰も見てないよ♪」
「だからそういう問題じゃなぁいってば!」

 あれから数ヶ月。
 おれはすっかり女としての生活に馴染んでいた。
 まだ色々慣れない事もあるが、女らしい振る舞いが自然に出来るようになってきてはいると思う。
 男の体には未練があるが、最近はもうずっとこのままでもいいかな?と思うようになってきた。
 それも、双葉のおかげ…なのかなぁ…。

 そんなある日、また双葉に誘われて大型室内プールにやってきた。さすがに前とは違うプールにだけど。
 しかもまた貸切だ。金持ちのやることは豪快だね、本当に。

「ほらほら、あの『日本一早いウォータースライダー』とか楽しそうだよ!」
「早いって何が!?別に早さ関係ないよねスライダーは!」
「きっと色々早いんだよ、水流とか!」
「意味あるのそれ!?」

 そんなことを言い合いながら、おれと双葉はスライダーへと向かっていく。
 前のように誰かに見られるような視線を感じるが、もう怖くなんかない。
 双葉が一緒にいてくれるから。

 愛しき人から離れぬように、しっかりと繋がれた手。
 それが、おれに勇気をくれた。

 …双葉、大好き。

 心の中でそう呟きながら、おれは双葉と共に歩いていくのだった。


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 道を歩いていたら、一人のお婆さんがいた。
 そのお婆さんは僕に近づいてきた。

「お兄さん、ジュース買わないかい?」

 そう言って、♂や♀といった記号かたくさん書かれた缶を差し出してくる。
 僕はそのジュースを…






某老婆シリーズと某魔法使いの道具に似たものがあります。実際かなり意識して書いています。
これに限らず本筋と関係のないところではそういうわかる人が見ればわかるネタを仕込んでいます。
本筋の方はいつも通りなので我ながら変わり映えしない人だなぁとおもいました。


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