世界が終わる日まで



―20XX年

何故か人類は、全員女性になりました。
しかも16歳くらいの。

子供も、大人も、男も、女も、全員女性。

どうやら、人類はゆっくりと滅亡に向かっているようです。


全ての人が同年代の女性になったことによる影響は、ありとあらゆる面に現れました。

自体の原因究明を目的としたチームが世界中で組まれましたが、結局何も分かっていません。

政治も、女性だけの社会になったことによる法の見直しが行われています。

スポーツも、今まであまり注目されなかった女子野球、女子サッカーなどの選手層が厚くなりました。
もっとも、元から女性だった選手の方が、体に慣れている分有利なようですが。

また紳士服店が婦人服店、という風に男性向けの店が次々と女性向けに営業方針を変えていきました。
あるホストクラブなど、「全員男装麗人にすることで殆ど以前の状態を保っている」という話です。
流れに追いつけずに潰れた店も多数。

社会は、確実に女性中心に移行していったのです。


これはそんな世界で生きる、私達のお話です。

ピピピピ…と目覚ましの音がします。
手を伸ばし、止める。
目を開けると、隣で寝ていたきよちゃんのがこっちを見ていました。
…相変わらず無表情な人です。
男の時から、このあたりは何も変わっていません。

「おはよう、ふたば」
「…おはよう、きよちゃん」

もう3ヶ月も続いているやり取り。
お互い慣れたものです。


世界中が女性になっていろんなことが変わりましたが、一番変わってしまったのは…やはり人間関係でした。

女同士になってしまったが為に別れることになる恋人達。
若返ったことで人生をやり直す、と失踪する元大人達。
本来重ねるべき年月をあっという間に経過させられた子供達。
変わってしまった自分を受け入れられず、壊れてしまう人達。
新しい体の欲求に溺れ、互いを求め合うだけの人達。


そして、『家族』が破綻してしまった人達。
私、ふたばもそんな一人でした。

私の両親も新しい体に溺れ、何人もの女の人たちを家に連れ込み、昼夜を問わず絡み合う生活。
それ以外に行うのは、食事と排泄だけ。
これで果たして、人間といえるのでしょうか?
ケモノですら、子供の世話はします。
ですが、両親は既に、私を子供として見ていませんでした。

ええ、襲われそうになりました。勿論性的な意味で。
必死に抵抗し、家から逃げ出すことには成功しましたが、この時に気付いてしまいました。
ああ、私の家族はもうないんだと。
もう私はひとりぼっちなんだと。
雨に打たれながら、ただ呆然と空を眺めることしかできませんでした。

そんなときでした。
きよちゃんが偶然通りかかったのは。

きよちゃん―きよひこくんは、同じクラスの男子でした。勿論、今は女子ですが。
男性だった頃のきよちゃんは、他の男子と違う落ち着いた雰囲気の人、というのが大多数の女子からの評価でした。
…実際は、ただマイペースなだけなのですが。
その所為か、クラス内では浮いた存在で、あまり人と話しているところを見たことがありません。
その頃一番話をしていたのは私だというのが、密かな自慢です。
隣の席なのをいい事に、色々話をしました。
授業の事とか、趣味の事とか、日常の事とか…そんな普通の事を。
…ええ、ぶっちゃけこの人の事を好きでした。
理由は分かりません。というか、人を好きになるのに理由なんていりますか?

彼も、この理由すらよくわからない事態で女の子になっていました。
女の子になった彼を見るのは、この時初めてです。
その時は一瞬誰だか分かりませんでした。
だって、まさかこんな可愛い女の子が、あのきよひこくんだとは夢にも思いませんし。
不思議そうな顔をしていた私に、きよひこだよ、と名乗った彼女は静かに微笑みながら、
「うちに来る?」
と言って、手を差し伸べてくれました。

以来、私はきよちゃんと、きよちゃんのお母さん(やはり見た目同年代)の3人で暮らしています。


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視点変更:きよひこ
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朝起きたら女になってた。
1000年に一回くらいはこういうこともあるだろう。
そう思いつつ、母さんにこの事を報告しようとしたら、自分と同年代の女の子がセーラー服着て鏡の前でポーズ決めてた。
そういうこともあるだろう。
とりあえず通報しようとしたら、その女の子に母親だと名乗られた。
…いや、さすがにそれはないだろ。
そういったら、母さんと俺しか知らない事を知っていた。
どうやら本人らしい。


とりあえず母さんに朝ごはん作ってもらう。
料理の腕は落ちていないようだ。
その間にテレビをつけると…なにやら大変な事になっていたらしい。


まさか世界中の人間が同年代の女の子になっているなんて。
流石の俺もびっくりだ。


慌ててもしょうがないので、着替える事にする。
女物の服はよくわからないので、母さんに着せてもらう。
「女の子の体講座〜♪」
…まて、母さん。
何故胸を触る。
「大丈夫」
なにが。
「気持ちよくなってくるわよ?」
…大丈夫じゃねえな、それは。
息子を襲うなー。今娘だけど。
「ええ〜、こんな可愛い娘がいたらとりあえず襲うのが礼儀って物でしょう?」
マテや既婚者。いつからレズになったおい。
「そこに愛があれば、男でも女でも関係なし!」
愛ねえ…。親子愛はまた別物だと思うんだが。
「…気にするな!えい!」
…だから、揉むな!
く…なんだ、この感触…。
ああ、股間に手を伸ばすな!
ちょ、くちゅくちゅ音慣らすな!

…ぁ…いいよぅ

…なるほど、これが女の感覚か。
なかなかクセになりそうだ。
「息子にネコの気があります。どうすればいいですか、あなた」
黙れ母親。
謝れ、天国の親父に謝れ。

これが女の子になった初日の出来事。
こんな最初だったのに、3ヶ月たった今でも堕ちていない自分達に驚く。
…いや、既に堕ちているのかもしれない。



翌日からが大変だった。
街に出ればそこら中で男物を来た女の子がたくさん。
目のやり場に困る。

路地裏に連れ込まれてお姉さまに虜にされている人もいた。
ああはなりたくないものだ。
てかレズばっかか、この街は?

と思ったら、そういうことではないらしい。
どうやら体の変化に伴い、そういう嗜好の人が増えたらしい。
…迷惑な話だ。


学校も大変だ。
女子たちはほとんど変わっていない。
何故か前より可愛くなっている子もいたが、その子達も前からの印象から大きく外れていることはない。
問題は男。
生徒も教師も姿が変わっちゃったから、誰が誰だか分からない。
しかも、女になった自分が見られたくないのか、登校拒否する奴もたくさん。
登校してきた元男子も、男子の制服着てきたり、女物着崩してたり。
同じクラスのとしあきなんか、女になったのを自分で認められないせいか、かなり荒れている。

ちなみに俺は、母さんがどこからか持ってきた女子の制服を着ていった。
元男子からは冷たい目で見られたが、元からの女子からは好評だった。
…複雑な心境だ。

そんな中、女子の中でふたばだけが学校に来ていなかった。
…どうしたんだろう。


答えは数日後に分かった。

雨が降っていた。
世界はこんなにも変わったのに、自然は何一つ変わらない。
雨に濡れたからといって性別が変わる事もなく、ましてや飴が降ってくることもなく。
変わってしまったのは生き物だけか。

その日の学校も大変だった。
俺が普通に女子の制服着ているのが気に食わないのか、としあきを始めとする男子たちが絡んでくる絡んでくる。
口だけで直接手を出してこないから別にどうってことはないが、うざい。
何かあるたびに女子が助け舟出してくれるので助かるが、その事でまた絡んでくる。うざい。
…ああ、そういえばこいつら、男の頃もこんな風に絡んできたなぁ。
どうやら人間、体が変わった程度『では』本質的部分に何の変化もないらしい。
彼らは、変化が肉体の変化だけですんでいないのに気付いているのだろうか。
『この時点では』学校の男子たちは、まだ体だけの変化だ。
だが、世間ではそういうわけではないらしい。

この現象が起きた頃から、ネットにあるサイトが作られた。
個人レベルからこの現象を調べようという、好奇心旺盛な人たちの溜まり場だ。
まったく、自分も大変なのに物好きなものだ。
…俺もそこに入り浸っている物好きの一人だからなんとも言えないわけだが。
そこでの話題の一つに、内面の変化について語っている奴がいた。
そいつ曰く、喋り方から仕草まで女らしくなっている奴もいるとのこと。
性格も、乱暴者が優しくなったり、運動しか脳がなかった奴が家事にはまったりと愉快な事になっているらしい。
まだ俺の周りではそこまで変化している奴はいないが、他の人の周りでは少しずつ、そういう人が増えているらしい。
彼らと変わっていない人の差はなんだろうか?
ここにこの問題の原因があるのではないか、というのが現在の俺の考えである。
まあ実際のところ、原因より、そういう変化をしている人たちを見て楽しみたいんですがね、俺は。


…話がそれた。
ふたばの話だ、うん。

で、やっぱり学校で色々あったけど、その日も無事に帰宅しているところだったわけだ。

ふと気紛れに、いつもと違う道を通ってみる。

小さな公園にたどり着いた。
ああ、そういえば子供の頃はよくここで遊んだなぁ、そんなことを考えながら通り過ぎようとした時。
誰かがいた。
この雨の中、ブランコに腰掛け、ただ天を見つめている少女が。
見覚えがある。
あれは…ふたば?

「…ふたば、なにやってるん?」
気がついた時には声を掛けていた。
「え?」
ふたばがこっちを見る。
目が赤い。
泣いていたのか?雨のせいで涙かわからないので、実際はどうか分からないが。
「え…っとどちら様でしょう?」
ああ、そういえばこの姿をふたばに見せるのは初めてだっけ。
「きよひこだが」
「…え?」
ふたばが目を丸くする。
「きよひこくんは男だ…ってそうか、きよひこくんも女の子になっちゃったのか」
「ああ、理不尽にも」
全く理不尽だ。
何で毎日のように母親に狙われなきゃならない…ってそれはいまどうでもいい。
「で、こんな雨の中どうしたのさ?」
「…別に」
顔を伏せる。言い難い事らしい。
…なんとなく予測はつく。
でも、今それを問いただすのは…よくないな。
「まあ…こんなところにいても風邪引くし」
自然と手が出た。
「うちに来る?」
ふたばは驚いたようにこちらを見る。
そして、俺の手をしばらく見た後―俺の手を握ってくれた。

今思えば、何故家に誘ったのだろう。自分でも分からない。
だが、この行動に間違いはないと思う。
だけどこの時、まさか母さんの策略で、ふたばと同衾することになるとは夢にも思わないわけで。
…なんだかなぁ。

そんなわけで、ふたばは我が家の一員となった。


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視点変更:亜樹(きよひこの母)
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―母親とは、子供を大切に思う人の事だよ

最近は、自分の娘を(性的な意味で)襲う母親がいるという。
ワイドショーでこの話を聞いたときに、世も末だねえと思いましたよ。

…え?お前が言うな?
いや私が襲ったのは息子ですから。
これから女として生きなくてはならない息子に対する教育ですよ、あれは。
…ゴメンナサイ嘘デス。
ぶっちゃけ、女の子『も』大好きです。
きよひこはレズといいましたが、私は両刀使いだ!はっはっは!
…うん、笑えないよねこんな母親。
私は母親としては駄目なんだろうと思う。

うん、それはさておき。
今はふたばちゃんの話だ。

ふたばちゃんに会ったのはあの日が初めてなわけで、息子が女の子を家に連れてきたのを見たときは、そりゃあもう驚きましたよ。
…出来れば男のときに連れてきてくれたら良かったんですが、まあそれはそれ、これはこれ。
ふたばちゃん…なかなか可愛らしい娘じゃないか。
しかも、どうやらきよひこのことを好きだった様子。
ならば応援するしかないじゃない!ねえみんな!

ということで、ふたばちゃんにはきよひこの部屋で寝てもらいましょう。
そう言ったら「部屋余ってるんだから別の用意してあげなよ」と、きよひこがぬかしましたよ奥様。
ヘタレねぇ。いつからそんな息子に育ってしまったのかしら。母は悲しいわ。
でもね、覚えてなさい。
人生経験は私の方が長いんだからね。
こういう時の言いくるめ方もたくさん知っているのよ。

Q:他の部屋を用意してあげなよ
A:片付けてない部屋に女の子を寝かせようなんて…外道?

Q:じゃあ俺がそっちで寝るから
A:私は外道じゃないのよ?女の子をあんな部屋に寝かせるなんてできると思う?

Q:俺は男…
A:はっはっは。ふたばちゃん、きよひこと3人でお風呂はいる?きよひこが本当に男か確認する?

Q:…間違いなくアンタは外道だと思う。
A:No, I'm 鬼畜, understand?

というやり取りをしていたら、「…もっと性質悪くありませんか?」と、ふたばちゃんから言われた。
ショック。

てな訳でふたばちゃんときよひこを同じ部屋に閉じこめてみた。
これでネット掲示板に実況スレでも立てようかな…。
いや、これは私だけが楽しもう。
…うん、心底駄目な親だ。

でも、私だって人の親ですよ?
他人の子供であれ、傷ついたり、悲しんだりしたら嫌な気持ちになりますよ?

きよひこの予想じゃ、「多分この現象のせいで家族になんかあったのだろう」とのこと。
ふむ、一理ある。学校にすら来れないほどの問題があったわけだ、家に。
なら、その問題を「潰しに」行きましょうか。
なんというか、自分の娘を泣かすような親ほどムカつくものはないのですよ、私には。
(あ、一応私はきよひこ泣かした事『は』ないんだからね!)

さて、色々なツテを悪用…げふんげふん。
…厚い人望からなる情報源を駆使し、ふたばちゃんの家に到着。
さて、深夜3時になりましたが…一つの部屋だけ電気ついてるねぇ。
普通の家庭なら、寝なけりゃ明日に差し支える時間。
なのにこうこうと明かりがついている。
こりゃ、本格的に溺れてるんかねぇ。

私だってこの若い肉体になった事は嬉しいですし、きよひこが女の子になったのも楽しいですよ?
でも、それでも悲しい事があるんです。
私が今まで生きてきた云十年を否定するかのような現象。
きよひこが今まで男の子として生きた十数年を否定するような現象。
両手を挙げて喜べる事じゃありません。
楽しんではいますが、喜べはしません。

なんでこんなことがおきたのか。
そんなことはどうでもいい。なっちゃったものはしょうがない。

でも、今までの人生は、けっして「なかった事」には出来ないんだよ?

どうすればいいのか。
そんなこと知るか。自分で考えろ。

でも、他人に、なにより家族に迷惑かけちゃ駄目。

どうしたいのか。
私はどうしたいのか。そんなの、決まってる。

息子の大切な娘(今、私が勝手に決めた)を泣かす奴は許さない。

うん、理由はこれだけで充分。
それじゃあ、いこうか。


肉欲に溺れ、ただ互いを求めるだけの堕落したヒトが二人。
ニンゲンに戻れず、ケモノにもなれず、ただ溺れているだけのヒト。
まだ、社会復帰は出来そうではあった。
でも、させてあげない。
子供すらを「エサ」とみたあなた達を社会に戻してやるものか。

「で、あなたが旦那さんで、あなたが奥さんなのね?」
「そ、そんなことどうでもいいでしょう!」
「そ、そうよ、私たちがどんなことしようがあなたには関係ないでしょう!」
いえいえ、重要ですよ?
―体が変わろうがお前らは夫婦なんだから。
「はっきりさせたほうがいいですよ?はっきりしてないの、嫌いなんですよね」
そう言って、手に持ったモノをいじる。
「や、やめて、ごめんなさいスイッチ入れないで…―――!!!!」
「い、いや☆○◆□―――!!?!」
…流石にやりすぎかな?
ちょっと友人に頼んで特別に作ってもらった、すっごい強力な媚薬。
飲むと、衣擦れはおろか、空気に触れているだけでも、床に座るだけでもイッてしまう優れもの。
それ飲んだ状態で股間に電気マッサージ(強さ:最強)はきついかな。
下手すりゃ死んじゃうかも。
でもまあいいか。
「で、どっちが旦那?どっちが奥さん?」
「わ、私が妻で…」
「…あたしが夫です」
うん、今度は言えたね。
じゃあご褒美をあげよう。
「では、今度は強さを抑えて…えい」
「「え?」」
「い、いやぁぁーーーーーーーーーーーー!」
「イ、イイのぉぉーーーーーーーーーーーー!!」
うん、気持ち良さそうだねぇ。
もっと楽しみなさい。
もう二度と楽しめなくなるから。

そう、堕ちて、堕ちて、堕ちていきなさい。
地獄の果て、那由他の彼方まで堕ちなさい。

「イ、イクーーー!!」
「イッちゃいますぅーーーー!!」
ええ、イキなさい。
ついでに、壊れちゃいなさい。

ヒトとしての最期は見取ってあげるから。
「さよなら、お二人さん」

こうして、この世の常識から外れた「快楽」を知ってしまった二人はヒトの枠からはずれ、ひたすら「その快楽」を再び求めようとするだけのケモノへと堕ちましたとさ。

男として堕ちて、ヒトとしても堕ちた「旦那」と、女として堕ちて、ヒトとしても堕ちた「妻」がいた。
ただ、それだけの話です。
本筋とは関係のない、まったくの無駄話だったわけです、これは。

…ごめんね、そんなこと長々と話しちゃって。
こんな見た目でも、おばちゃんですからねぇ、どうも話すと長くなるらしいんです。
こればっかりは変わりませんね。
人間見た目が変わっても、中身までは変わりません。

で、ふたばちゃんのことだけど。
「あの…亜樹さん」
「ん?」
ふたばちゃんが話しかけてきた。
「どうしたのふたばちゃん」
「料理…教えてほしいんですけど…いいですか?」
「きよひこに食べさせてあげるの?」
「…はい」
消え入るような、小さな声で答えるふたばちゃん。
顔は真っ赤だ。初々しいねぇ。
昔を思い出すよ。
学校の「先輩」だった旦那にお弁当作ってあげた、そんな可愛らしい少女だった頃が私にもあったねぇ。
懐かしいねぇ…。

では、この懐かしい気持ちを思い出させてくれた『娘』に、この『母』も答えましょう。
「はい、『お母さん』に任せなさい!」
「お、おねがいします『お母さん』」

ふと、お姉ちゃんが言っていたことを思い出す。

―母親とは、子供を大切に思う人の事だよ
  そして、良い母親は他人の子供も思いやれる、素敵な人のことかな

少しは、母親になれたのかな、お姉ちゃん。

『娘』と同じ名前の姉をを思い出し、私は静かに微笑んだ。


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視点変更:ふたば
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…なんだか、随分とぼぅっとしていた気がします。
気がつけばきよちゃんはすでに布団から出て、着替えの準備をしていました。

「ふたば、ブラとめて」
「うん、わかった」

女の子になって3ヶ月たちましたが、きよちゃんはブラを付けるのが苦手です。
原因は亜樹お母さんでしょう。
わたしが来るまで亜樹お母さんが着替えを手伝っていた(という方便で遊んでた)とのこと。
間違いなく邪魔されていたんだと思います。

「できたよー」
「ありがと」

そう言いながら、きよちゃんは制服に着替えだしました。
その間にわたしもパジャマから制服に着替えます。

「そういえば、としあきが『教育』受けたんだって?」
「あー、そういえばわかばが言ってたね、そんなこと」

この理不尽な現象がおきて3ヶ月。
その間にわたしたちの周りもかなり変わりました。

まず、先生方の見た目が同年代になっています。
威厳のあった校長先生も、どこか狡賢そうだった教頭先生も、年配の古文の先生も、熱血ドラマ風の体育の先生も、みんな女の子。
頑張って男の頃からのスーツ着ていた校長先生は、いつも裾を踏んづけて転んでいました。最近は諦めて女の子の服を着ています。
体育の先生は、暑苦しいおじさんから熱血お姉さんになり、なんだかカッコいいです。今では学校一の人気教師です。
女物の服に慣れていない生徒指導の先生が、逆に生徒に服装の乱れを指摘されていたのを見たときは、きよちゃんと二人で大爆笑しました。

元男子達も、徐々に女子の制服を着て来ました。
最初のうちは女子たちとぎこちない感じでしたが、今ではごく普通に接しています。
それに伴い、百合カップルが大量に生まれました。(女の子しかいないし)
元男子と女子、元男子と元男子まではわかりますが、何故か女子と女子同士でもカップル生まれてます。

この状況下でわたしは最初、両親の事を思い出して不快になりましたが…まあ慣れました。
第一、他人から見れば、わたしときよちゃんなんて女同士の同棲(親公認)です。
(わ、わたしたちは『まだ』そういう関係なんかじゃ…ないですけど…)

なんというか、人間の在り方まで変わってきているようです。
男がおらず、種を残す方法がない以上、人類はゆっくりと滅んでいくことでしょう。
種を残そうと科学者さんたちが色々頑張っているようですが、どこぞの大きな団体さんが「自然に反する」とか言って抗議しているそうです。
なんというか、本末転倒だなーと思いました。
…話がずれました。

わたしたちの周りもかなり変わりました。

が、一人だけ頑なに変わろうとしない人がいました。
としあきです。

としあきは、周りが女子に馴染んでいく中、一人男子制服を着続け、男であることを主張し続けていました。
(そのせいか、真っ先に女子の制服を着たきよちゃんが気に食わないようで、ことあるごとにつっかかってきました。むかつく)
結果、彼はだんだん孤立していくことになり、ついに男子制服を着ているのは彼だけになりました。

なんというか、不器用な人です。
きよちゃんみたいに、女の姿になっても、男の心は捨てなければいいだけなのに。
そんなに男の姿に未練があるのでしょうか?

…普通はありますか。
きよちゃんがおかしいんだ、この場合は。

さておき、としあきの状況を見て、クラスのみんなが思いました。
このままじゃまずい、と。
何がまずいんだかわたしにゃわかりませんが。というか心底どうでもいい。

そしてついに、わたしの友人であるわかばが、としあきの「教育」を行うことを宣言しました。

「きよちゃん、『教育』って何をするの?」

きよちゃんの髪を梳かしながら聞いてみました。

「俺は知らないが…なんとなく予想はつくかな」
「どんな?」
「女の良さを教える…とかね」

わたしは噴出しました。

「それ効果ないって、多分」
「そうかな?」
「効果があったら、きよちゃんもっと女らしくなってるよー」
「…そうだな」

そんな話をしているうちに、きよちゃんの準備は完了。
わたしも手早く髪をまとめ、準備完了。

「二人ともー、ごはんできてるよ〜」

台所から亜樹お母さんの声が聞こえてきました。

「じゃ、行こうか」
「うん!」

今日もがんばろー!


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視点変更:わかば
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「じゃっじゃ〜ん!本日のメインイベントー!『としあきの教育』を始めようと思いまーす!」
「「「いえーい!」」」

放課後の教室にあたしたちの声が響いた。

今この教室にいるのは、あたしことわかば、すみれ、まり、みはる、そしてメインのとしあき。
としあきは今、ロープでグルグル巻き。
う〜ん、悪役っぽくて素敵。

これから、としあきを女の子らしく『教育』するよ。
4人いるけど、実際に教育を施すのはあたし。
あとの3人は野次馬。
でもこれがまた重要で、誰かが見ていると教育が進むのよねぇ。

「お前ら!こんなことしてただで済むと思っているのか!」

済むわきゃないですね、君が。

「ほらほら、もっと女の子らしくしないと、みんなから浮いちゃうよ〜」
「そんなことどうでもいいだろ!いい加減にしないと…」

無理矢理出したような太い声でとしあきが言う。
喉痛めるよ?
それにうるさい。
あたしはとしあきの背後に回り、後ろから胸を揉む。

「う〜ん、あたしより大きいなぁ」
「や、やめろ!痛い!痛い!」

…おやおや、慣れてないのかねぇ?

「しつもーん!としちゃんは、その体になってからオナニーした?」

お、すみれの言葉攻め開始。
ねちねちとくるんだよなぁ、これが。

「し、してねえよ!てかなんだとしちゃんって!」

「ええ〜!?してないの〜?」
「駄目だよ〜健全な男の子が女の子の体に興味ないなんてさ」

…その例えおかしくない?
いや間違ってないけど、この場合違うような。
まあいいか。

「それじゃあ、これから女の子の良さをたっぷり教えてあげるから…楽しもうね♪」
「やめろ馬鹿!そんなのいらねえ!オレは男…ぁん!」

お、感じてきた。


〜数分後〜


「ぁ…ぃゃ…やめろ…ひゃん!」

よしよし、反応が良くなってきたよ。

「いい声ねぇ」
「色っぽいよーとしちゃん」
「こりゃ、男がほっときませんなー」
「「男はいないっての」」

外野、漫才はいいから。

「さてとしちゃん、今どんな気分かな〜?」
「…ぁ!も、もむな〜!」

おやおや、声が随分と可愛らしくなってきましたよ皆さん。


〜数分後〜


「ひゃ、あん、や、やめろよぅ!オレは…オレは…ぁう!」
「ほら、俺とか言っちゃ駄目だよ?こんなに可愛いのに」
「可愛い…なんていわれても嬉しく…はぁん!」

うん、胸だけで随分とまあ。
もう、高い声しか出てこない。
後は少しずつ、内面を教育していきましょうか。

そう考えつつ、あたしは『下』へと手を伸ばした。


〜数十分後〜


「あ、ああ、イク、イっちゃうよぅ!」

もう、何度目かの絶頂。

「女の子はどう?」
「…」

としあきは目をそらす。

「こーら、あたしの目を見なさい」
「…うー」

素直にこっちを睨む。
でも怖くない。表情が随分と柔らかくなったみたいだ。
…カワイイ。

「ほら、可愛い顔が台無しよ?」
「…可愛いって…言うなよぉ」

言葉が弱弱しい。
もうちょっとかな?

「わかばー、私達も混ざっていい?」
「ん?すみれ発情でもした?」
「…もっと言い方があるでしょ!?」

うん、あたしとしては独り占めしたいところだけど…せっかくだし皆で楽しみましょうか?


〜数時間後〜


「――――――――!!!!」

もう、何度イかせたかねぇ?

「としちゃ〜ん、女の子ってどう?」

すみれがとしあきに聞いた。

「…」

む、ここで黙るか。
何度もイった癖に、まだ意地をはるか。

「正直に言ってごらん?言ったら、もっと気持ちよくしてあげる」
「…もっと?」
「そう、もっと。今は『教育』だから手加減しているけど、としちゃんが『女の子になりたい』なら、本気でやってあげる」
「…気持ちいいの?」
「もちろん」
「オレ…」
「だぁめ。女の子がオレなんていったら」
「…」

少し躊躇うように顔を伏せる。
でも、すぐに顔をあげて、言った。

「…アタシ、女の子になりたい。いえ、女の子にしてください!」

うん、いい返事。

あたしは、としちゃんの初めてのキスを頂いた。

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視点変更:ふたば
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「あら、二人ともおはよう。今日も仲が良さそうで何よりですわ」

教室に入っての第一声は、としあきのこんな一言だった。
今日としあきが着ているのは、来ているのは男子の制服ではなく、女子の制服。
昨日まで必要以上に男らしかった仕草が、今ではまるでどこぞのお嬢様のような優雅さを漂わせるほどの女らしさ。

「…すっかり女の子に馴染んでるよ」
「まるで産まれながらの女のようだな。凄いね、『教育』」

きよちゃん冷静だね。

その時、わかばが教室に入ってきた。

「あ!わかばお姉様!」

としあきがわかばの元へ駆けていき、わかばの腕に掴まる。

「お、おはようとしちゃん」
「ああん、お姉様素敵ですわ〜」

蕩けるような表情でわかばにじゃれつくとしあき。
そのとしあきを見ながら、引きつった笑顔を浮かべるわかば。

「ははは…ヤリスギたーorz」

そんな声が聞こえた。

※教育の効果には個人差があります。ヤリスギに注意!

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視点変更:きよひこ
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最後に、俺の話をしよう。

また例のサイトに行ってみた。

かつては、この現象の真相を求める人々たちの情報交換場所だったサイト。
でも今は…

『あたしも、かなり女らしくなりました〜』
『あ〜○○さんみたいに胸がおっきかったらなぁ…』
『今日もお姉様に可愛がって頂きました♪』

こんな感じ。

この現象を調べるのなら、自分の体を調べた方がいい。
そう『誰か』が書き込んだ。
そして、みんなが実行した。
結果、試した全員が女に馴染んでいった。

わかばから聞いた『教育』と同じだ。
女としての感覚を知れば知るほど、より女に近付く。
外見だけでなく、内面もより女らしく。
楽しいことになったものだ。

みんなわかっていなかったんだ。
『何故こうなってしまったのか』はどうでもいいということを。
世界中の人間が、ある日を境に同年代の女になるなんて現象、解き明かそうというほうが無理。
これが小説とか物語なら、主人公の周囲に原因があるわけだが、あいにくこれは現実。
主人公なんていません。
それは結局、今の自分からの逃避でしかない。

だったら、『これからどうするべきか』を考える方がいい。
その方が前向きだ。
原因が分かっても、恐らく元には戻らないだろうしね。

男としての心を持ったまま女として生きるもよし。
女の心に変わって生きるもよし。

さて、俺はどうしようか。
心まで女になって生きるのも楽しそうだ。

でも、母さんに体を弄られても、俺の心は変わらなかった。
変わっているかもしれないが、少なくとも俺自身が理解できる変化ではない。
…俺はおかしいんだろうか。

もし、みんなの心が変わってしまって、俺だけが男の心のまま。
その時、俺はどんな気持ちなんだろう。

「きよちゃん、どうしたの?」

ベッドの上で本を読んでいたふたばが声を掛けてきた。

「…ん、ちょっとな」

だが逆に、俺が鈍いだけで、そのうち俺も変わってしまうかもしれない。

もしそうなったら、ふたばは俺と一緒にいてくれるだろうか?
…ってなんで俺はそんなことを不安に思うんだ?
ふたばがいなくても、それは前と同じになるだけだろ。
母さんと二人で暮らす、そんな毎日に戻るだけ。
それだけじゃないか。

「悩み事?」
「まあそんなところ」

それだけ…なんだけど…。
なんというか、胸の中がもやもやするような感じ。

「んーきよちゃん、ちょっと目、閉じて」
「…なんで?」
「いいからいいから」

言われた通りにする。
何も見えない。

ふたばがいなくなったような気がした。
急に不安になる。

「いい、きよちゃん?」

後頭部に柔らかい感触。
それと同時に、後ろから声が聞こえた。

「ふ、ふたば!?む、胸、当たってる!」
「うん、当ててる」
「な、なにしてんだよ!」
「別に?」
「別にって…おい」
「ただ、きよちゃんが何だか寂しそうな顔するから、教えてあげただけ」

声音は平然としている。
でも、頭に伝わるふたばの鼓動は、かなり速い。
…緊張している?

「教えるって…なにをだよ…」
「そりゃあ…」

急に胸の感触がなくなる。
そして、体が椅子ごと回され―口に柔らかいものが触れる。

「!?」

驚いて目を開く。
すぐ目の前にふたばの顔。

「ん…ほら、こんなに近くに…わたしがいるでしょ?…んちゅ…ん」

一瞬唇を放して、こういった後にもう一回キスをされた。
今度は舌を入れようとしてきた。

…俺は拒まなかった。

「!?ん…んちゅ…んぅ…んぁん…」

気持ちいい。
こんなに気持ちいいキスは…初めてだ。

「ん…いい、きよちゃん?きよちゃんは一人じゃないんだよ?女の子になっても、きよちゃんはきよちゃんなんだよ?」

俺の目をしっかりと見て、ふたばは語りかけてくれる。

「亜樹お母さんもいるし、わたしもいる。ずっと一緒にいる。離れろ、っていっても絶対に一緒にいる」

それって…。

「大好き、きよちゃん。ずっと前から…そして今も」

ああ、そうだったんだ。
ふたばは俺なんかを好きでいてくれたんだ。
体が女になっちゃった俺でも好きでいてくれるんだ。
凄く嬉しい。
…うん、嬉しいんだ、俺。
ふたばが好きでいてくれることが嬉しいんだ。
今なら、わかる。

「うん、俺も―ふたばが好きだ」

そう、これが俺の気持ち。
体が変わっても、周りが変わっても変わらない気持ちなんだ。

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―翌日。

いつものように俺たちは同じ布団で目を覚ました。
いつもと違い、二人とも裸だ。

「可愛かったよ、きよちゃん♪」
「あぅ…」

ふたばが笑顔でこっちを見ていた。
…恥かしい。

「ねえ、ふたば?」
「なに?」
「もし、俺が…心まで女の子になっちゃったら…どうする?」

ふたばは一瞬呆気にとられたような顔をし、そして笑いながら言った。

「それでも、きよちゃんはきよちゃん。わたしの大好きな―優しいきよちゃん」

うん、きっとそうだと思う。

人間、どんなに変わろうと、根っこの部分まではなかなか変わらない。
俺が心まで女の子になっても、俺はふたばを好きで居続けるだろう。
それだけのことなんだ。

だから、俺はふたばとの生活を楽しもう。
なぁに、時間はたっぷりある。
これからの人生、楽しまなきゃ損だ。

そう思いながら、俺はふたばにキスをした。

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視点変更:ふたば
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いつものようにわたしたちは同じ布団で目を覚ましました。
いつもと違い、二人とも裸です。
昨日の夜の事を思い出します。

「可愛かったよ、きよちゃん♪」
「あぅ…」

恥かしそうに俯いちゃうきよちゃん。
ああ、可愛いなぁ。

「ねえ、ふたば?」

顔をあげたきよちゃんが真面目な顔で聞いてきます。

「なに?」
「もし、俺が…心まで女の子になっちゃったら…どうする?」

…は?
きよちゃんは何を言っているんだろうか。

「それでも、きよちゃんはきよちゃん。わたしの大好きな―優しいきよちゃん」

ただそれだけのことじゃない。

そう言って笑いかけたらきよちゃんにキスしてもらった。
ああ、嬉しいなぁ…。


―20XX年

何故か人類は、全員女性になりました。
しかも16歳くらいの。

子供も、大人も、男も、女も、全員女性。

どうやら、人類はゆっくりと滅亡に向かっているようです。

でも、わたしたちはまだ生きています。
だから、わたしはきよちゃんと一緒にいようと思います。

―世界が終わる日まで





2作目です。
TSした理由は特に設定していません。
前作のお姉さんが暴走したとか、某セールスレディが頑張りすぎた結果とか、なんでもいいのです。

……これを書いた当時には、まだiPS細胞の話題なんてなかった気がします。
人類滅ばねえですよ、ええ。


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