ある魔法少女の戦いの終わりに




 突然だが、私は今悩んでいる。
 勉強?違う違う。日々の努力のおかげで、そんな事を悩む必要はない。
 金?違う違う。そりゃ欲しいけど、生活に困っているわけでもない。
 恋愛?うん、そう。
 私の悩みは、恋愛についてだ。
「お姉様、どうしました?」
 私の腕にしがみついている「恋人」が私を見上げている。いつも通りの可愛らしい顔だ。
「いや、どうしてこうなったんだろうって思ってさ」
 私の言葉に、彼女は笑顔で言う。
「きっと、運命ですよ」
 そして私の腕をさらに強く抱きしめ、自分の大きな胸を押し付けてくる。

 ……お気づきかと思うが、私の恋人はとびっきりの美少女である。
 何故こうなってしまったのか。
 それは数ヶ月前に遡る。

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 その日、私はついに魔女「タ・マーナ」と決着をつけることになった。
 緊張で震えが止まらない。
 手にした杖が、いつも以上に手に馴染まない。
 だけど、ここで逃げるわけにはいかない。
 私がここでタ・マーナを倒さなければ、人類が終わってしまう。
 大丈夫、このパステルカラーのドレスが私を守ってくれる。
 最初は恥ずかしかったこのドレスも、今じゃ一番頼りの切り札、といってもいい。
 勇気を振り絞り、私はタ・マーナの城へと乗り込んだ。

 ……よく分からないと思うので説明すると、私はこの日までは魔法少女だった。
 地球の意思とか名乗っている、ヤ・オインとかいうおばさんっぽい女神によって、私は魔法少女になれる力を貰った。
 ヤ・オインは私をタ・マーナと戦わせた。
 そんな日々も、この日で終わったのだ。

 戦いは熾烈を極めた。
 今まで倒した怪人が何故か復活していたので倒した。
 四大幹部が全員で襲いかかってきたので返り討ちにした。
 悪の博士がタ・マーナを出し抜いてなにやら企んでいたので倒した。
 その後ろで、博士が作った発明をヤ・オインが勝手に動かしていた。
「この装置を使えば、あの女の魔法を利用し、わらわの理想である美男子だらけの世界で生のBL見放題なのじゃ!」
 とか訳のわからないことを言い出したので、倒した。
 その結果、ヤ・オインの魔力供給が切れ、変身が解けてしまった。
 それでも私は戦い続けた。
 特に最後にして最強の怪人との戦いはどうやって勝ったのかすら覚えていないくらい激しい物だった。

 そして私は、満身創痍の身体でついにタ・マーナの前へとやってきた。
「遅かったですね、お姉さん」
 可愛らしい顔の少女が、私に笑顔を見せる。
 その屈託のない無邪気な笑顔は、相変わらず私の心を戸惑わせる。
「もう、準備は出来ちゃいました。後は……」
 私の目の前に、一振りの剣が現れる。
「お姉さんに決めさせてあげる。ボクの魔法を止めるなら、ボクを殺して。
 それ以外に方法はないよ。大丈夫。抵抗はしないから。おねえさんになら、殺されてもいいですよ」
 そう言いながら、タ・マーナは両手を広げた。
 その身体がわずかに震えているのを、私は見逃せなかった。
 私は剣を手に取る。
 迷う事などない。ここでこの娘を殺さなければ、人類は終わってしまう。
 タ・マーナの正面で、剣を振り上げる。
 さあ、後は下ろすだけ。
 剣が、タ・マーナの顔へと向かっていく。
 タ・マーナは満面の笑みをこちらへ向けていた。
 剣が、その笑みへと――
「――そんなこと、出来るわけないじゃない!」
 剣は床へ叩きつけられた。
「やっぱり、お姉さんは優しい人ですね。
 ――だから、ボクはあなたを選んだんです」
「へ?」
 選んだ?
「どういうこと?」
 タ・マーナは笑顔のまま、無言で服を脱ぎだす。
 晒されたタ・マーナの身体を見て、私は息を飲んだ。
 全身を覆う、傷、傷、傷。
 大小様々な傷が、その白い肌を埋め尽くしていた。
「これは、全て男につけられた傷です。
 魔女の力を欲した男共が、ボクを力で手に入れようとした名残。
 ……ま、全部仕返ししましたけど」

 ――だけど、傷は癒えなかった。心も、身体も。

「だから、人類を滅ぼそうとしたの?」
「最初は。でも、お姉さんに会って、考え方を変えました」
 タ・マーナの身体が光を放ちだした。
「もう時間ですね。それじゃあ、お姉さん。また会いましょう」
 そう言いながら、タ・マーナは消えていき――

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 彼女に告白され、今に至る。
 私の隣には、大切な彼女がいる。
 道行く人々を見ると、彼女達も幸せそうだった。
 やっぱり、彼女と一緒だと嬉しいのは、どの『女』でも同じなのだろう。

 あの頃の私は魔法少女で、タ・マーナと戦っていた事は覚えている。
 だけど、何故戦っていたのかが思い出せない。
 そもそも、タ・マーナは何をしたのか。
 世界は相変わらず美少女だらけ。
 タ・マーナの計画が成功したのか失敗したのかもわからない。
 そもそも、タ・マーナやヤ・オインの言っていた『男』とはなんだったのだろうか。
 私にはもう、それを知る術はない。
「もう、お姉様!ボクの話聞いてる?」
「あ、ごめんごめん」
「もう、しょうがないなぁ」
 くすり、と彼女が笑う。
 本当に、笑顔の可愛い娘だ。

 さて、私は悩んでいる。
 近々彼女の誕生日なのだが、何をプレゼントしようか。
 これはかなりの難問だ。何をあげても喜んでくれるだろうけど、折角なら記念になるような物がいいかな。
 しっかりと考えないとね。

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 ごめんなさい、お姉さん……否、お姉様。
 ボクがあの時かけた魔法は、「この世界から男という存在をなかった事にする」というもの。
 それにより、この世界の男は全て、最初から女性であった事になりました。
 他にも女同士で子供が出来るようにしたり、争いを起こさぬようにしたりしてあります。

 でも一番大きな事は、ボクを魔女ではなく、ただの人間にした事。
 魔女のままだと、老いる事も、自然に死ぬ事もできない。
 そんな状態でお姉様の傍らにいるのは、ただ辛いだけなのです
 ただ一人の人間として、お姉様と向き合いたかったのです。
 そしてボクはお姉様に告白し、お姉様は受け入れてくれました。
 そう、ボクは、ただ真っ直ぐにボクに挑むお姉様を、いつしか愛してしまっていたのです。

 ボクの身勝手な願望に、お姉様や、世界中の人を巻き込んでしまった事。
 この罪は、いつか『管理者』によって裁かれる事になるでしょう。
 それが、この世界を捻じ曲げ、ただ一人その事を覚えている者の責任です。
 でも、今は。今だけは祈らせてください。

 願わくば、このささやかな幸せが長く続くように、と。





ご都合主義でいいじゃない、百合だもの。
またまたPixivに投稿した物です。


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