魔法使いと少女




「…いい夜ね」
と、マリアさんは言った。
窓の外を見ると、夜空には月が浮かんでいた。
「満月…」
「の二日前、ってところかな」
…よくわかるなぁ。
「こんな夜は、散歩したくなるわ」
「ああ、それはわかります」
よく見ると、星もいくつか見えている。
山ならもっと沢山見れるかもしれない。
「じゃ、行きましょうか。きーちゃん」
と、マリアさんが笑顔で言った。

「…マリアさん」
「なぁに、きーちゃん」
「…散歩って言いましたよね?」
「それはもう、きっぱりはっきり言いましたね」
「…ですよね」

「箒で空を飛ぶのは散歩じゃないですから!」
眼下に広がる街を見ながら、私は叫ぶ。

マリアさんは魔法使いだ。
数日前に行き倒れになっていたところを助け、その縁でわたしの部屋で暮らしている。
一人暮らしで寂しい生活をしていたわたしとしては、この同居人の存在はなかなか頼もしいものがある。
料理はおいしいし、掃除は手際がよく、近所の評判も上場、そしてなにより美人さんだ。
同性から見てもとても素敵な人だと思う。
ただ、たまにこんな突飛のないことをしでかしてくれる。
…まあ楽しいからいいんですけどね。

「まあまあ、いいじゃない」
「…見られたらどうするんです?」
「見られて困るかしら」
ええ、それはもう。
わたしはともかく、あなたが。
「大丈夫、常識のある人間なら夢だと思ってくれるから」
「…そうかなぁ」
不安だ。
「細かいことは気にせずに。ほら、月が綺麗だよ」
見上げた先には、いつもより大きな月が見えた。
「この辺りまでくれば、ほら、星も沢山」
いわゆる、満天の星空というものか。
街中ではまず見れない、素敵な夜空。
「…綺麗」
「でしょう?」
そう言って自慢げに微笑むマリアさん。
月明かりに照らされたその顔は、わたしには夜空よりも綺麗に見えて―思わず、見惚れそうになる。
顔が熱くなるのがわかる。
紅くなった顔を見られるのは恥かしい…。
「…マリアさん、寒いのでもうちょっと近付いていいですか?」
「どうぞどうぞ、きーちゃんなら大歓迎」
マリアさんに密着し、顔をマリアさんの背中に押し付ける。

マリアさんの心音が聞こえた。
…なんか、さらにどきどきしてきた。

「マリアさん」
「ん、何?」
「また、こうして『散歩』に連れて来てくれますか?」
「お安い御用です、お姫様」
マリアさんの声音は優しくて、わたしの心に染み渡るようで、心地良かった。

「マリアさん、大好き」
「ん?」
「…なんでもないです」


月がとっても明るくて、照らされたマリアさんはとても綺麗で―この時間がずっと続けばいいのに、と思った。




某百合ゲームを創るスレ用に書いた気がします。
このサイトではないどこかを探せば恋ツクあたりで作ったのがあるかもしれません。
とりあえずこれでゲームと言い張るのは無理があると思う。


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