世界のどこか。まだ、誰も到達していない場所。
 そこに、二人の女がいた。
 一人は漆黒のローブを身に纏った女。顔が隠れていて、どのような容姿なのか判断がつかない。
 もう一人は、玉座に座る、髪の長い女。最大の特徴は、肌の色。海よりも深く、空より濃い青。どう見ても、人間ではなかった。
「プレイヤー達はどうしている?」
「予想通り、ニュトピア周辺からあまり動いておりませぬ」
 玉座の女の問い掛けに、ローブの女が答える。
「ふむ、どれほど強大な力を持とうとも、やはり死の恐怖には逆らえぬか」
「そのようで。今活動しているプレイヤー共も、エリスの加護持ちの者ばかりでございます。それも戦いなれぬ者ばかり。恐れを抱く必要すら感じませぬな」
「だが、油断は出来ん……サキバ!!」
「はいはい〜、あちしをおよびですかい?」
 玉座の女の呼び掛けに、新たに一人の女が現れる。
 露出の多い服を着て、蝙蝠の羽を生やした女は、大きな胸を揺らしながら跪く。
「忠実なシモベ、サキバよ!ニュトピアのプレイヤー共を絡めとれ!決して邪魔をされぬよう、仕掛けるのだ!」
「ふふぅ、了解いたしましたー」
 サキバと呼ばれた女は、溶けるように影の中へと消えていく。
「よろしいのですか?あの者は、この事態を利用し、己が欲望を満たしますよ?」
「それでよい。奴の性質と、この現状は噛み合っている。ならば好き放題してくれた方が足止めもうまくいくであろうよ」
「なるほど……では、我々は計画を進めましょう。『闇』へと至る為に……」

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 ニュトピアより西へ一キロ進むと、大きな山がある。
 山中を登り頂上へ向かうと、そこには、カムイ神を祀る神殿が建てられていた。
 
 神殿へと向かう山道は険しい。
 まず最初に、深い森に包まれている。移動に制限がかかり、さらに視界が悪く、索敵技能がなければあっという間に囲まれていしまう。
 障害物も多く、長物を用いた戦闘には向かない。さっさと駆け抜けてしまうのが一番の攻略法といわれているが、操作に慣れないうちは侵入不可能地形である樹木をクリックしてしまい移動に失敗する、という事も多かった。
 森を抜けると急な坂道と無数の岩で構成された岩壁地帯。
 こちらも移動を妨げる岩がこちらの行動を阻害してくる。視界こそ良好であるが、今度は落石が妨害を行う。
 さらに飛行系のモンスターが多い。飛行系のモンスターは弓、魔法以外の地上からの攻撃に対し、回避補正が高くなる仕様がある。
 ただでさえ動き辛いのに、攻撃が当たりにくい敵だらけという、嫌がらせ以外の何物でもない構成である。
 さらに、岩壁地帯を抜けると最後の難関、吊り橋。だが最後の難関とはいえ、森や岸壁よりはマシという意見も多い。
 ありきたりな吊り橋である。崩れたりはしないし、揺れる事もない。
 ただ、橋の上にボス級のモンスターが二匹ほどうろついていて、戦闘を回避できないだけである。
 大抵の場合、高所から落とされ落下死する。
 これほど面倒な道程を超えて辿り着いた神殿だが、ここでできるのは、一部のイベントを発生させることくらいであり、苦労に見合わない為、基本的に誰も来ない場所であった。
 
 以上が、ゲーム時代における山の様子である。
 ここが現実になったらどうなるだろうか。
 まず、足場が悪くなる。森の中は木々の根が、岩壁地帯は石や岩がところどころに転がっており、転倒の危機が増えている。
 足場の悪さは岩壁地帯の飛行系モンスターとの戦いにおいては最悪の条件である。頭上から襲い掛かる敵に注意がいった瞬間、足元の石に躓いてバランスを崩す等のアクシデントが容易に想像できる。
 なにより、ゲーム時代は上から見下ろす形の画面だったので、上からの攻撃を注意するという現実的な要素は、戦闘経験どころか運動経験すら乏しい者も多いプレイヤー達が慣れるのは一筋縄ではいかない。
 侵入不可能だった岩の上や樹上へ登ることができるようになった。ただし敵も普通に登ってくるし、奇襲に使われるのでメリットとは言い難い。
 そして、吊り橋は風で揺れる。そして足場である割木は所々朽ちていて、そこに足を取られれば戦闘どころではない。
 そもそも縄が切れそうな程劣化しており、何故落ちずに現存しているかが謎である。
 こんな足場なので、ゲーム時代にいたボスキャラが対岸で待ち構える形になっていることが唯一の救いであろう。そのボスキャラも一匹だけになっている。理由は不明だ。
 
 このように変化してしまった山に、数名の冒険者がいた。全員、女性である。元から女性キャラを使っていた人達である。
「まったく、面倒な道ね……」
「……まったく、ひえ〜も面倒な指示だしやがって」
 彼女達は『ぐんぐにる』のメンバーである。彼女達はひえ〜の指示で、カムイ神殿へと向かっていた。
 元から女性キャラを使っていたメンバーの中で、戦闘への『慣れ』が早い数名を選抜し、カムイ神殿の現状を行う事にしたのだ。
 ここが無事であるならば、こちらで加護を受けなおす事が可能ではないか。そうすれば、聖都への遠征に対する人員不足も解消できるはず。
 そう考えたニュトピアの王宮から、『ぐんぐにる』に依頼されたわけだが。
「……辛かった」
「ええ、そうね……」
 神殿も目前。雑談をしながらも警戒を怠らない。
「ボスが一体だけしかいなかったのが救いだな」
「もう一体どこいったんだろ?」
「……下に落ちたんじゃね?」
 ボスキャラも落下死するという、ゲームではありえない事実だが、今は現実だ。あり得ない話ではない。ないのだが。
「そんなボスキャラは嫌だ」
「でもそうするともう一体が対岸でうろついてる理由もわかるね」
「……怖いから?落ちるのが?」
「うん」
「だからそんなボスキャラは嫌だよ!」
 まったくである。。

「じゃあ、こんなボスはいかが?」

 突然、声が響いた。
「だ、誰!?」
 辺りを見回す。
 右。
 左。
 後方。
 前方。

 ――上。

「残念、そこじゃない」
 彼女達の足元。
 ――影が、彼女達に巻きついた。
「な、なんだこれ!?」
「や、やめっ」
 影の中に引きずり込まれた彼女達は、気付けば暗闇の中にいた。
「ふふぅ。あちしの領域へ、ようこそー」
 何者かの声が響く。
「だ、誰だ!」
「ふふぅ、あ・ち・し♪」
 露出の多い服を着て、蝙蝠の羽を生やした女――サキバが現れる。ニヤニヤと笑うその顔はとても不気味で、不快だった。
「悪魔か!?」
「いえいえー、似たようなモノではあるかもしれないですかね?」
 サキバはプレイヤーの一人を選び、胸倉を掴んで顔を近付けさせる。
「は、離せ!」
「そんなに怖がらなくてもだいじょぶ大丈夫ー。殺さないよー。殺しちゃったら、キミたち戻っちゃうだけだしねー」
「へ?」
「一生、飼い殺してあげるよー。大丈夫、気持ちいいから。何もかも忘れて、あちしのモノになるですよー」
 サキバの瞳が輝くと、抵抗していたプレイヤーの動きが鈍っていく。顔が段々と赤みを増していき、息遣いが荒くなっていった。
「ぁぅ……」
「ふふぅ、可愛くなってきたわぁ」
 プレイヤーの首筋をそっと撫でる。プレイヤーは顔を背けず、少しずつ、サキバに顔を近付けていく。
「ど、どうしちゃったのケン!?」
 赤い髪のプレイヤーが声を上げる。ケンという呼ばれたプレイヤーはそれに気付かない。それどころかサキバへと抱きついてしまう。
「ちょっ、ケン!?」
「無駄ですよー。もう、この人、あちしのモノですよー」
「あんっ!」
 胸を鷲掴みされたケンだが、嫌がることはなく、それどころか自分から胸を押し付けていく。
「……魅了!?お前、サキュバスか!」
「正解〜。あ、自然解除はしないですよー?」
 状態異常の一つ、『魅了』。ゲーム時代ではかかると一時的に操作不能状態になり、敵に有利な行動だけしかできなくなってしまう。さらに味方からの攻撃も当たるようになる為、範囲攻撃が打ちにくくなるという非常に厄介なモノだった。
 この現実化した世界においては言葉通りの『魅了』で、心から相手を縛り付けるだけでなく、性的な興奮すら誘発させるようだ。
「ふざけるなぁ!」
 赤髪のプレイヤーはサキバに攻撃を仕掛けようとするが、再び影が身体に絡みつく。
「おやおや、もしかして、この子は彼氏さんだったのかなー?残念だねー。お前の男は、もうあちしの女ですよー?」
「くそっ!ふざけんな!ケン、そんな女に魅了されんな!」
「むだむだー……サキュバス舐めんな?」
 サキバは一旦ケンから手を放し、赤髪のプレイヤーに向き合う。
「こうやって見せつけてやるのもいいですけれどー、周りがうるさい環境は好きでないですのよー」
 瞳が輝き、赤髪のプレイヤーの身体から力が抜け、息遣いが荒くなる。『魅了』だ。
「見せつけて絶望させてからっていうのもやりたかったのですけどー。うん、だめですねー。不慣れなものでねー。ま、いいですよねー。どっちにしてもお前らもうあちしのモノだからねー」
 そう言いながら一人ずつプレイヤーを『魅了』させていく。誰も、抵抗できなかった。
「ふふぅ、全てのプレイヤーが女であるのならば、あちしの本領発揮ですわん。同族共を見返すチャンス、必ずモノにするですよー」

 
 
「……サキバの臭いが残ってる」
 先程プレイヤー達が消え去った静寂の中、一人の少女が降り立つ。
「急がないと……」
 幼い身体つきながら露出の多い服を着た蝙蝠羽の少女は呟き、空へと飛び立った。

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「……というわけで、カムイ神殿へ向かった冒険者が消息を絶っております」
「『ぐんぐにる』もか……」
 『ぐんぐにる』サブリーダー、ひえ〜の報告を受けた第一王女、ローゼリアは落胆を隠せずにいた。
 同様の依頼をいくつかのチームに持ちかけたが、全て同じ返事であった。

 ニュトピアの王宮には、会議室には数名の冒険者と、王宮関係者が集まっている。
 『ソードマスターズ』リーダー、キリ―。
 『魔術研究会』リーダー、まりーん。
 『ぐんぐにる』サブリーダー、ひえ〜。
 アイテムや武器の生産を中心に活動する『妖精の靴』リーダー、エチゴ。
 この四チームは所属者五十名を超える大規模チームであり、ニュトピアの冒険者の三割を抱え込んでいると言われている。
 そして少数のチームリーダーも四名。
 『☆きらきら☆』リーダー、ミトン。
 『煉獄騎士団』リーダー、レックス。
 『マックスファイター』サブリーダー、ナノハナ。
 『不忍』リーダー、コガネ。
 以上の冒険者は、ひえ〜が信頼できる「という名目で」集めたメンバーである。もちろん、全員女性になっている。
(……よし、予定通り、『いる』ね)
 コガネは人知れず微笑む。
(目立ちたがり屋だからね。こういう場は名は売る機会、とか考えちゃったんだろうなぁ)
 ひえ〜と目が合い、周りに気付かれぬよう、頷きあう。
(もしかしたらよくあるお話の様に政治に絡んでいく立場になれるかも、とか考えてるんだろうけど……さて、そううまくいくといいですねぇ〜?)
 そう考えるコガネの顔はとても悪そうだったと、後にひえ〜は語った。

「ちっ、俺らが出れればなぁ」
 キリーはぼやく。常に熱い戦闘を求め、ゲーム中を掛け回った彼にとって、戦う事の出来ない現状は退屈極まりない。
「歯痒いですね。自分が動けないというのも」
 まりーんも同調する。知性派と言われる彼もキリー同様、戦闘を好む性質だ。
「しかし、戦える人間送っても戻ってこないのも困るぜ?そろそろ素材も少なくなっている。このままじゃジリ貧だ」
 手元の資料を見ながら、エチゴは頭を抱える。
 生産をメインに活動する彼らにとって、素材を確保する冒険者の数が減るのは好ましい事ではない。
 それは、ニュトピア自体にも言える。冒険者が金を落とすからこそ経済が回っているという側面は無視できない。
「……女性冒険者中心で、狩りを行うのではいけないのですか?」
 ローゼリアは疑問を投げかける。
 元々冒険者は女性も多かったはずだ。例えば、目の前にいる赤い忍び装束の少女とか。
「戦える人間はいます。ただ、『戦える人間が、戦いをできるか』は別問題なわけですね」
 ローゼリアの目線に気付いた赤い忍者――コガネは説明する。
 周りが大規模チームの中、小さなチーム(さらに言えばこの間まで二人という、他の少人数チームから見ても存在を認知されているかすら怪しいチーム)である『不忍』はやや浮いているが、気にしない。大体見知った顔だ。
「確かに私達は戦っても大丈夫でしょう。エリス様の加護がありますから。
 ――でも、私達のこの身は、仮初めの者です」
「仮初め……ですか?」
「はい。……ちょっと言いにくいのですが、私達は……遠隔操作の魔術で、この身体を安全な所から動かしていたようなモノ、って考えていただけるとわかりやすいかもしれません。
 いわば、失礼な言い方になるかもしれませんが、この世界で命を懸けていたわけではない、ということです」
「命懸けの戦いには、不慣れであるという事ですね」
 事前の打ち合わせで、コガネ達は「決して嘘をつかない」という事だけを決めてきた。
 王族の力は大きい。ここで協力関係を築ければ、今後の動きがしやすくなるのは間違いない。
 そんな打算もあるが、なにより必要なのは信頼関係だ。働けぬ者が多い現状、プレイヤーの立場が悪くなるのはあまりよろしくない。少しでも分かり合い、苦労を分かち合わなくてはならない。
 言葉を選びながら、コガネは冒険者の抱える事情を伝える。
 お前たちは架空の存在だ、ここはゲームの世界だ。こんなことは口が裂けても言えない。目の前にいる王女はどう見ても血の通った人間であり、プログラムだけの存在だとは思えない。
「ええ、残念ながら」
 ローゼリアは自分の中の冒険者像を修正する。彼らは勇敢で、無謀で、自由で、何より楽しそうであった。
 思えば、不自然な感じもあった。山より大きなモンスターへ挑む勇気を持つ者など、王宮の兵士でもあまりいない。恐怖心に勝てる冒険者など一握りだ。
 だが、(手段は不明だが)遠くから身体を動かせるのなら。
 直接対峙するよりは、恐怖心は抑えられるはずだ。
(ちょっとずるいな)
 そう思ったが、声には出さない。出したところでどうなるわけでもないし、今は条件が同じだ。意味がない。
「しかし、お前ん所のシロガネはどうなのさ?前に見かけたときは自由自在に動き回ってたぞ?」
 キリーは疑問を投げかける。
 シロガネだけ、明らかに動きがおかしい。これは、この場にいる人間全員の総意でもあった。
「ああ……あれはああいう人間ですので」
 コガネは誤魔化した。さすがに「元に戻る事を優先せず、開き直って現状を受け入れればいいかもしれない」とは言えなかった。
「まあウチのアレに関しては置いておきましょう。今考えなくてはならない問題は、三つです」
 話を切り替える。
「一つは、加護の問題だな?」
「ええ、これは聖都へ遠征するにも戦える人材がいない、という事でもあります」
「二つ目は?」
「風紀が悪いですね」
 言われて、全員納得する。
 あちこちで人目を憚らず絡み合う女性が見かけられるのだ。風紀など存在しない。
「我が城でも、父母が……」
「ああ……それは、うん、色々辛いですね……」
「ええ……それで最近わたくしに色々仕事が回ってきて……」
 ローゼリアはため息をつく。疲れを隠せぬようだ。
「我々でできる事ならば手伝いますよ……特にひえ〜が」
「俺かよ」
「まあ、その辺はまた話し合いましょう。で、コガネさん。三つ目はなんですか?」
 まりーんはコガネに次を促した。
「三つ目は、行方不明者が多すぎるという事です」
「……先ほど、さらに増えましたしね」
「戻ってこない人が多いので、それが冒険者全体を委縮させている要素の一つになっています」
「自分達も戻ってこれないんじゃないか、って考えちまうよな」
 帰ってこれない者達がどうなっているかがわからないのだ。恐怖心を抑えられないのも仕方のない事であろう。
「困りましたね……」
「そこで、一つお願いがありまして……」
 コガネは、兼ねてからの計画を実行に移そうと提案を持ちかける。
 大丈夫、うまくいく。本来なら、反対する要素なんてないのだから。
「『ぐんぐにる』からヒサメさんを頂きたいのですが、構いませんよね?」
「……はぁ!?」
 それはまさかのヘッドハンティングであった。

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 第二王女、チェリアは暇を持て余していた。
 父も母も部屋から出てこない。姉も父母に会わせようとしない。
 国中の人々が女性になってしまったことはチェリアも理解している。だが、その影響は理解できていないのかもしれない。
 だが、幼いとはいえ、チェリアも王族である。せめて姉の手助けくらいはしたい。
 そう思い、何かできる事はないかと城内の人達に聞いたのだが、丁重に断られてしまった。
 結局幼いチェリアにできる事はなく、少々不貞腐れながら、城の中庭で寛いでいたのだが。
「はい、お手!」
「わんっ!」
「よしよし、ウルはえらいな〜」
 銀色の忍者が白い子犬(狼?)を手懐けていた。
 チェリアは困惑した。
 あの忍者は知っている。『電光石火』のシロガネだ。幼きチェリアですら聞き覚えのあるほどの有名人だ。
 最近ニュトピアの街をあちこち動き回っていると侍女が言っていた。
 そういえば今日は冒険者のチームリーダーを集めて話し合いをするとローゼリアが言っていた。ここにいるのはそういう事であろう。
 それはいい。いや、会議に出てない辺りが全然よくないのだがそこはいい。チェリアが気にすることではない。
 問題は、白い子犬?だ。
 なんて可愛いのだろう。
 チェリアは動物が大好きだ。
 王族という立場上、気軽に動物と触れ合えない彼女。そんな前にいる、可愛らしい子犬。目を奪われるのは仕方のない事であろう。
 そんな目線に気付いたシロガネ。
 実はコガネが会議に出ている間は暇なので、待ち時間を利用してサブ職の方を確認していたところであった。
 正直自分でもお城の中庭でやる事ではないとは思っていはいたが、街中やホームハウスで試すわけにはいかず、かといって街の外では危険。
 こっそりと試してばれないうちに撤収しようと思っていたところであった。
(あ、やばい)
 しかも見つかった相手はお姫様である。怒られるかもしれない。
 一瞬逃げようかと考えたシロガネだったが、お姫様の視線が足元の狼に注がれていることに気付いた。
「……えっと……触ってみます?」
「はい!」
 満面の笑顔を浮かべ、チェリアは駆け寄ってきたのだった。

 趣味の合う人間同士というのは、仲が良くなるのも早い。
 狼を抱っこしたチェリアはシロガネの隣に座る。(地べたに座らせるわけにはいかないので、シロガネが椅子をアイテムボックスから出した)
「シロガネ様は『召喚』も使えるのですね」
「そうですね。やっぱり、動物とかモンスターとかと仲良くなるのは憧れがありましたのです」
「ああ、わかりますわかります。スライムとか可愛いですよね!」
「おお、スライムの可愛さがわかるとは素晴らしい!」
 シロガネとチェリアは固い握手を交わす。
 ちなみにエリスオンラインのスライムは序盤の雑魚敵ではなく、物理無効、溶解能力ありのドロドロとした液体状生物である。その見た目はややグロめで、人気はあまりない。敵としても倒しにくいため敬遠されており、スライム系モンスターを集めた「スライム島」は常時人のいない、過疎地である。
「私、いつかスライム島に別荘作りたいんです!」
「なにそれ素敵。ボクもあそこに暮らしたい」
「いつか一緒に行きましょう!」
「ええ、是非」
 仮にも一国の王女と交わす約束ではないのだが、この場にそれをツッコむ者はいなかった。
「ドラゴンとかもいいですね」
「いつか仲間にしたいですね。背中に乗りたい」
「その時はぜひご一緒させてください!」
「ええ、いいですよ」
 城の関係者が聞けば卒倒しそうなくらいの安請け合いであるが、二人とも気にしなかった。
「あと蜂さんとか、妖精さんとか、マーメイドさんとか、アラクネさんとか……」
「イルカとかバンパイアとかゴーレムとか……」
 モンスターや動物への愛情を語り合う二人を止める者はいなかった。


大量に新キャラが出てきたけど、ほぼ使い捨てです。別に会議とか内政とかしないので……。


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