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「モンスターを狩りましょう」
エリスオンラインのような世界にやってきて三日目、朝食中にコガネは言った。
「狩るの?」
「狩るのか?」
シロガネと亮一は箸を止め、コガネに聞き返す。
「はい、狩ります」
「ちなみに何を?」
「狼ですねー。毛皮が欲しいなと思いまして」
「昨日のじゃ足りない?」
シロガネは昨夜、戦闘スキル使用練習の為、ちょっとだけ街の外に出ている。
その際ドロップした毛皮はシロガネには使い道がないのでコガネに渡していた。
「ええ。ちょっといろいろ使いたいので」
「裁縫で?」
「はい。亮一さんの服とか、姉さんや私の私服とか、欲しいところですね」
「なるほど、バザーは今高いしな」
「同じ服着ているのも気分的によくないしな」
「ええ、そういう事です。ところで……」
コガネは亮一を見ながら言った。
「そういえば亮一さん、何しに来たんです?」
「……今聞くのかそれ」
まさかの一晩放置であった。
「……まあ、大したことじゃないんだよ……うん、ほら、こういう時だしさ、知り合いと協力した方がいいじゃないかと思ってさ」
「なるほど。ようするに『こ、心細いから、い、いっしょに、暮させてください!』って事ですか」
「……う、うん、まあ、そうなんだけど……声真似上手いねコガネちゃん」
亮一はチーム未所属で、普段は野良パーティーでの活動がメインである為、ホームは未所有である。
このようなプレイヤーは多く、ゲーム時代ならNPCの運営する宿に泊まるのが定番なのだが。
「どこの宿も人いっぱいだし、街中もそれどころじゃねえって雰囲気だし……」
「ゲームなら宿の入場数も無限だろうけど……現実っぽい状態じゃあ、混んでるよねー。王都だし」
「まあ、部屋は余ってるし、好きなだけ止まっていくといいよ」
こうして亮一は、『不忍』のホームに居候することになった。
空き部屋、残り24部屋。
ニュトピアの街、その中心にあるのは教会である。
エリスオンラインの世界では女神エリスと男神カムイの二柱を祀る教えが広く伝えられており、『聖都エリシア』を聖地と定める『聖教』という宗教が存在する。過去のシリーズでも度々登場し、プレイヤー達を助けてきた。
エリスオンラインにおける教会は、加護を与えられた冒険者達の復活地点でもある。
ちなみにこの世界では、全ての女性に『エリスの加護』、全ての男性に『カムイの加護』という者が付与されており、加護があれば教会で復活ができる。さすがに死体が消滅したり、再生不可能なレベルで損壊していたり、「加護を無力化」させられて殺されればその限りではないのだが。
「……で、ここに『彼ら』はいるの?」
アースに呼び出され教会を訪れたのは、鎧を着た小柄な少女。黒髪のショートカットは、活発そうな雰囲気を醸し出している。
彼女の名は「ヒサメ」。構成員数500を超えるチーム「ぐんぐにる」のリーダーである。
「ええ。すでに三日目ですから、誰かしら死に戻りしている可能性を考え、訪れたのですが……」
隣を行くアースは言葉を濁らせる。
ヒサメが来るまでに確認した状況は、信じられない――否、信じたくない光景であった。
だが、この世界では、「ステータス画面が見れてしまう」のだ。それこそが真実である証拠である。
彼らが、死に戻りした「元男性」プレイヤーであると。
「この部屋です」
教会の奥にある一室。普段は修道女達が寝泊まりしている部屋らしいが、この非常事態の為貸し出されている。
ヒサメは扉を開け、入室する。
そこには、ベッドに横たわる女性が3名、そしてそれを看護する修道女達がいた。
外見だけ見れば、普通の女性にしか見えない。
ヒサメは彼らのステータスを見る。
性別欄は全員女性。これは元男性のキャラでも全員同じ。
「あ、あのお方は、どちら様なのです?」
寝ていた女性の一人が、ヒサメに気付き、身体を起こす。
「あちらは、冒険者の方です。皆さんの事を調べてくれるそうですよ」
「あら、そうなんですか……すいません、よろしくお願いしますわね」
修道女と女性のやり取りを聞いたヒサメは違和感を抱いた。
聞いた話では、ベッドに寝ているのは「元男性」のプレイヤーだ。だが、今の女性の話し方、仕草はどう見ても女性の動きだ。
勿論仕草や話し方だけで男女は判断はできないが、一般的な男性であったことを前提とした場合は、普通ではないと思う。
パラメータは全体的に低い。実際、彼女たちの手足は、冒険者として活動するのは無理なのではないかというほどに細く、か弱い。
スキル欄を見る。
「……おかしい。こんなスキルなかったよね」
そこには見覚えのあるスキルに交じって、「お料理」「洗濯」「編み物」「子守」といった家庭的なモノが紛れていた。他にも未知のスキルが多数あり、「園芸」や「包丁裁き」などというよくわからないものもあった。
「一応は、存在しました……NPC用にね」
アースの言葉にヒサメは納得する。
無駄に凝ったところのあるエリスオンラインでは、NPCのパラメータも一人一人細かく設定されていた。
大抵のプレイヤーはそんなところまで見ないのだが、攻略サイトを運営するほどのめりこんでいたアースはそんな部分もしっかりと確認していたのだ。
「ん?でも、じゃあこの人達はNPCだったんじゃ?」
「残念ながら、違いますね――一番下、見てください」
促され、スキル欄の一番下に記載されていた「それ」を見たヒサメは、それで全てを理解した。
「……アース、スキル欄もう一度見せて」
アースは無言で自分のステータス欄を見せた。
ヒサメは両者を比較し、自分の考えが間違っていないことを確認した。
そこに記載されていたのは、加護に対する表記。アースの場合はこう書かれている。
『カムイの加護 残り1』
そして、ベッドに横たわる女性達はこのような表記だ。
『カムイの加護 残り0』
残数0。
どういった意味かは分からないが、これが彼女から感じた違和感の原因だとすれば。
「シスターさん達やヒサメさん、シロガネさんの『エリスの加護』には残数が表記されていません。俺は「カムイ神」に何かがあったんじゃないかと思っています」
冷静にふるまうアース。だが、その表情はやや青ざめており、身体も少し震えている。
当然だろう。目の前にいる彼女達は、アース自身の末路かもしれないのだから。
「俺の予測では、俺達に起こった変化は、実は身体だけではなく「精神」も変化させようとしているんだと思います。今は『カムイの加護』のおかげで精神やスキルは守られているけど……」
もし死んでしまい、加護を失えば。
「その時は、俺も彼女達と同様、心まで女の子になるでしょうね。自分が男だったことも忘れて、ね」
「よっと!」
「はいおつかれー」
亮一に留守を任せたシロガネ達は、街の近くで狼などの動物を狩り続けていた。
「亮一が戦えれば戦力が増すんだがなぁ……」
「仕方ないですけどね。死亡のリスクがきついですしね。侍は死にやすいですし尚更です」
エリスオンラインには一つのキャラが持てる職業は二つ。メイン職とサブ職である。
メイン職はそのキャラの能力自体を反映する職業であり、大抵のプレイヤーはこちらの職を名乗る。
サブ職は能力値は反映されないものの、サブに設定した職業のスキルは使えるという仕組みだ。その組み合わせはかなりの数になるので、その全てを把握しているプレイヤーは、アースの様に調べることを趣味としているような人間くらいである。
亮一は侍という職業である。その職特性は瞬間的な火力の高さと、紙装甲である。
忍者も紙装甲ではあるが、回避能力が高い為軽装でも戦える。だが侍は回避率は標準的な為、甲冑を着こまない限りはすぐに死んでしまう。その代わり、全職中でも圧倒的な攻撃力で、「殺られる前に殺る」スタイルが基本だ。
特に亮一の場合はメイン職が侍、サブ職が重戦士(斧などの高威力武器と重装甲の鎧を着れる)という超攻撃型。侍の耐久力では鎧を着こんでも死ぬので、基本PTでの運用前提なのである。
というわけで
ちなみに、コガネはサブが針子なので、ほぼ忍者だけで戦っているようなものである。シロガネもどちらかと言えば戦闘向きではないと言われている職がサブ職である。
周囲にはまばらではあるが、モンスターを狩る冒険者の姿を見かける。目的はシロガネ達と同じく毛皮だろうか。
とはいえ、この状況でモンスターを倒そうと思うプレイヤーは少数派である。
元NPCの冒険者もいるはずだが、彼らも女性になっている。その事実を受け入れられていないのかもしれない。
むしろこの状況で積極的に動き回っているシロガネやアースの方がおかしいのだろう。
街中には変わり果てた自分を受け入れられない者、自分や仲間の身体に興味津々で、街中で周囲の目を憚らず乱れる者、身体能力に任せて暴れまわる者にそれを諌める者……。
それでも王都の女性を中心としていた騎士団や『ぐんぐにる』のような大手チームの有志が治安維持を行っている為、最低限の秩序は保たれている。
身体能力や魔法能力の高いプレイヤーが全員で暴動を起こせば、王都は三日で堕ちるだろう。それはなんとか避けたい。
そう言っていたのは、『ぐんぐにる』のサブリーダーである「ひえ〜」だった。ヒサメに手を出させる気はないらしい。
そんなわけで、大手のチームもあまり外には出ておらず、結果的に少数の冒険者がモンスターに怯えながらもなんとか狩りを行えていた。
「モンスターの湧きは確認。ゲームの世界に入った説が濃厚になってきたね」
「未来のゲームはこんな感じかもねー」
一時間ほど狼などを狩り続けた二人は、木陰で一休みしていた。
コガネはシロガネに膝枕してもらっている。冗談で頼んでみたらやってくれた。
「兄」よ、もう少し自分を大切にしてほしい。あとおっぱいおっきい。揉んでいいかな?いやでも、さすがに怒られそうだし、見てるだけでも……。
妹がそんな事を考えているとは知る由もないシロガネは、大きくなったけどまだ幼い部分があるなぁと、非常に兄らしい感想を抱いていた。
別にコガネは「ソッチ」の趣味があったわけではない。(ブラコン気味ではあるが)一般的な性癖をもった少女である。
それがこちらに来てからはシロガネに惹かれ続けている。確かに以前からお気に入りのキャラではあったが、それはあくまでゲームキャラだからであって、恋愛対象ではない。
なのに。今、「兄」に抱いている感情は。
(これも、こっちに来た影響……なら、いいんだけどね。男がみんな可愛い女の子になってるんだから、女の子の私達に何の影響もないとは考えにくいし。そう考えると、兄ちゃんが妙に受け入れてるのも理解できるかなー?)
兄の事は好きだが、それは果たして恋愛感情だったか、家族の信愛でしかなかったか。もはや、それも曖昧で。
考えれば考えるほどわからないくなる――だから、考えない。感情に身を任せ、やりたいようにやろう。
(これがなんらかの陰謀で、仕組まれた感情だったら、黒幕を必ず見つけ出して殺そう)
受け入れるけど、許すかどうかは話は別。
(当面は安定した生活を確保する。あと偉い人とのコネがあると楽かな、面倒も増えるだろうけど)
コガネのこの世界の目標は、この時点で少しずつ定まっていくのだった。
「しかし、見られてたねボクら」
「目立つからねー」
今のコガネの姿は赤い忍び装束である。「金髪で赤い装束のちびっこ忍者」は目立つが、そういうコンセプトなので問題はない。
むしろシロガネの格好の方が問題であろう。
普段のシロガネは黒い忍び装束で、いかにも忍者であるという格好である。その格好は可愛らしく、亮一からは「中の人を思い出さなければ最高の美少女」とまで賞賛されている。
しかし一歩戦場に出れば、シロガネの姿と評価は一変する。
古い時代のゲームには「裸だと強い」というモノがいて、ゲームにおける忍者のイメージの一つとして存在してしまっている。そんなイメージを反映してか、エリスオンラインにおける忍者は「軽装になればなるほど身体能力が強化される」という仕様が存在する。
そしてシロガネは体術中心の忍者である。その仕様を最大限活かし、最も強くなれる装備――それは水着。
本来は非実用的な装備である水着は、その軽量さから一部の忍者においては最強装備となりうる逸品である。
もっとも、敵の攻撃に当たれば死ぬので、さすがに水着を愛用している忍者は少ない。
そんな中、シロガネは水着を愛用している。その種類は豊富で、心細い耐久面もコガネの裁縫で強化されている。
今着ているのは、紺色の布地に白いゼッケン、上下一体のワンピースタイプ――いわゆる、スクール水着だ。
もちろんただのスクール水着ではなく、物理ダメージ耐性、回避能力向上といった能力がついた、「水着のようななにか」である。
さらに「軽装」の判定に引っかからないインナーカテゴリーの装備である「ニーソックス」「手袋」「水着用サポーター」、同じく判定外のアクセサリー「マフラー」をセットで着用しており、大きな胸も合わさって、見た目は凄くマニアックな状態である。
しかしそれぞれが下手な鎧より性能が高い。対人戦ではその「あざとい」姿に目を奪われた相手を一撃で葬る為に、「偽装痴女」「偽幼女」「ロリ巨乳トラップ」「淑女忍者」「エロネカマ」などの異名も陰では存在している。(本人は「電光石火」以外の異名は知らない)
「……普通の装束にするべきだったかな」
周囲の冒険者からチラチラとみられていることに気付いたシロガネは、身体を隠すようなしぐさで座り込んでいる。さすがに恥ずかしいようだ。
シロガネだってこのような「イロモノ」な格好を好き好んでしているわけではなく、一番生存率が高いからやむを得ずしているだけである。リアルで着る事になるならもっとまともな装備を選んでいる。
「……どうせいつか着ますし、慣れておきましょう」
最終的にはもっと恥ずかしい姿になるだろうし、と思いつつも口には出さないコガネ。
さすがに下着姿で戦う「兄」を想像したくない。ビジュアル的にではなく、状況的に。そうなる場合は、そうしなければ勝てない相手であるという事なのだから。
そんなことにならないように頑張るのが、自分の役目。後ろで守られるだけなのは性に合わない。なんとしても「兄」は守る。
……ついでにカッコいい自分を見て惚れ直してもらおう、とは少ししか思っていない。
「さて、そろそろ狩りに戻るかい?」
「そうだねー」
シロガネの膝枕から名残惜しそうに起き上がったコガネ。
その頭をそっと撫でてから、シロガネは辺りを見回す。
「手頃な相手は……」
周りにいるのは、狼に野兎、野良ヤギに野良熊、大飛蝗に大カラス……。
「……ゲーム時代から思ってたけど、ここの生態系は明らかにおかしいよねー」
「野良ってか野生だよねどっちかっていうと……」
ニュトピア周辺は野生動物の宝庫である。が、節操はない。
そんな雑な光景の中、シロガネは一匹の熊に目をつけた。
他の熊よりも大きく、ボス級の強さのモノだと一目でわかる。
他のモンスターにもボス級が混ざっているようだったが、その中でも戦いやすそうなクマを選んだ。
「熊の皮はいる?」
「いるクマ―」
「りょーかいっと!」
シロガネが身構えると右手に一本のクナイが現れる。ちなみにこのクナイ、スキルで精製されたものである。
いろいろあちこち「仕込み」ながら、四○歩程前に歩く。瞳を閉じて、呼吸を整える。
瞳を開いた瞬間、シロガネの気配が薄まる。あれほどに目立つ格好なのに、そこにいるかどうかが曖昧になる。
気配を消し、姿をも透過させるスキル――『隠密』である。忍者にとって必須スキルの一つで、シロガネも愛用している。これで攻撃するまで相手に気付かれる事はあんまりない。
そのまま熊に狙いをつけ、クナイを投げつける。クナイは熊の胴体に当たる。
「ぐぎゃあ!」
「さすがにボスは一撃死しないか」
「でも、だからこそ連係の練習になるよ!」
コガネはシロガネがボスを狙ったことには少々驚いたが、その意図は正しく理解していた。
ただでさえパワーインフレが留まることの知らないエリスオンライン。いわゆる雑魚モンスターでは一撃で死んでしまうので連携の練習なんて不可能なのだ。
もう少し敵の強いフィールドなら何とでもなるが、生身で戦うのにいきなりそんな危険を冒すわけにはいかない。
安全に戦えて、かつ、すぐに死なない相手として手頃な相手は、この辺りのボスくらいであろう、そうシロガネは考えている。森や山岳地帯での戦闘を体験する前に基本的な戦い方を身体に覚えこませたい、という部分も大きい。
攻撃を受けたボス熊はシロガネの方へと向かってくる。すでに透明化も消え、マフラーをなびかせたその目立つ格好は熊にとってもいい目印である。
そう、他の物が目に映らない程に。
眼前に迫るボス熊。その迫力に押されつつもシロガネはその場で立ちふさがる。
熊が覆い被さるようにシロガネに襲い掛かる。その巨体に押しつぶされれば無事では済まない。
だが。
「『空蝉』」
シロガネはタイミングを合わせてスキルを使用する。
ボス熊の身体がシロガネに触れる――直前、シロガネの姿が消えた。
使用したスキルは『空蝉』。いわゆる身代わりの術だ。
一瞬でシロガネはボス熊から四○歩程後方へ移動していた。
そして、ボス熊の懐には――大量の御札が貼られた、丸太があった。
「『起爆』、いっけぇ!!」
コガネが手に持った御札をかざし、叫ぶ。御札が光を放ち消滅した。
次の瞬間、ボス熊が抱え込んでいた丸太が――正確には、そこに貼られた御札が、爆発を起こす。
身体の下で、一回、二回、三回……十回は爆破しただろうか。
爆破の衝撃でボス熊が浮かび上がる。
「『稲妻』」
宙に浮かぶ巨体に向けて跳躍したシロガネは、腰の小太刀を抜刀し、ボス熊へ振り下ろす。
斬る、というよりは、叩き落とすと言った方が正しいであろう。ボス熊は抵抗できぬまま地面へと叩き付けられた。
そこには既に、「仕込み」は終わっている。
「『土遁:剣ヶ峰』っと」
コガネの言葉に合わせて地面が隆起し、鋭く尖った岩がボス熊の身体を貫いた。
それがトドメの一撃となり、ボス熊の身体は光の粒子となり、消滅した。
「さすがに三千メートルも伸びないかー」
「……うん、そりゃ、平地にいきなり富士山は作れないだろうね」
隆起した大地が元に戻っていく。その自然にはまず起こらないであろう現象は、この世界がゲームなのか現実なのか考えているプレイヤー達を嘲笑うかのようでもあった。
それからしばらくモンスターを狩り続け、帰宅。亮一も交えて夕食を食べ終えた二人は、シロガネの部屋で向かい合っていた。
「さて姉ちゃん、お化粧の練習をしましょう」
「ちょっと待って、それ、必要なの?」
「必要ですよー。可愛いお姉ちゃんをさらに可愛くする上に、紫外線とかからお肌を守れる気がします」
「そこは言い切ろうよ」
「この世界の化粧品にそこまでの性能があるかどうか……」
「そこを信用しないんだ……」
元男であるシロガネには化粧の必要性はいまいち理解できなかったが、『シロガネ』というキャラをさらに可愛くできるというのは嬉しい要素である。例えそれが自分自身だったとしても。
コガネも善意で言ってくれているのだし、自分にはよくわからない意図があるのだろう。
そう考えたシロガネは化粧の指導を受けることにした。
「じゃあ、今日は私がしてあげるので、目を瞑ってください」
「あいあい」
言われるままに目を瞑るシロガネ。
コガネは化粧用品を手に取り、シロガネに化粧を施そうとする。
(……やっぱり、可愛いなぁ)
元々コガネは、シロガネの容姿に憧れてエリスオンラインを始めた。目の前の美少女は、ある意味、理想の姿そのものである。
コガネのキャラもシロガネを基に作っているので顔立ち自体は同じではあるのだが、自分からは鏡を使わないと見れないのでどうにも興味が薄い。化粧はしっかりするつもりだが。
そんな理想が目の前にいる。しかも妙にシロガネに惹かれつつある自覚がある為、非常に照れくさい。
(というか、キスしたい……って駄目だって!さすがにまだ早いって!)
浮かんだ欲望を振り払う。まずい、ではなくまだ早い、と考えている時点でもはやいろいろ手遅れではあるが、さすがにそこまでの自覚症状はない。
次々浮かんでくる誘惑に抵抗しながらも、シロガネに化粧を施していく。
シロガネは時折くすぐったそうにしながらも、妹がせっかく自分の為にしてくれているのだからと、大人しく化粧を施されていった。
「……はい、完成」
誘惑に打ち勝った。立派にやり遂げた。
達成感に満ちた表情でコガネはシロガネに手鏡を渡す。
鏡に映る『シロガネ』は、ここ数日で見慣れつつあった顔よりも可愛らしく、魅力的だった。
「これが……ボクか……」
鏡に映るモノが自分である事をこれほど後悔することがあるだろうか。
シロガネの理想の具現化である『シロガネ』だ。自分自身とはわかっていても、惹かれてしまうのは仕方のない事だろう。
ふと、目の前のコガネを見る。
同じ顔立ちの少女は、自分自身に見惚れるシロガネを見て楽しそうに微笑んでいた。
(……コガネも、同じ顔なんだよな)
という事は、コガネを化粧させれば、鏡に映る少女に直接触れ合えるという事で。
(いや待て、そんな理由でコガネに手を出すのは「兄」として、否、人としてどうなのさ!?)
シロガネの「兄」としての理性は中々に頑固だ。
(で、でも、化粧を覚えてコガネにしてあげるのも……自分にするのも……悪くない……かな?)
だが、可愛い姿を見たいという願望もまた、正直であった。
結局、シロガネはコガネからの化粧指導を受けることになったのである。
(可愛くできたけど……ダメだ、二人きりだと私の理性がそのうち危ない)
次の指導からは亮一も巻き込もうと心に決めるコガネであった。
死に戻りプレイヤーさん達は2話の自殺プレイヤーの人達。説明なしじゃ伝わらない。
なおこの回のみ2パターンのラストがあり、もう片方はお風呂でしたがそちらはPixivで……。
(こちらの展開の方が好みなのです。なお、どちらにせよコガネといちゃつく)
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