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「……おぅ」
大介――シロガネは自分の胸を、下から持ち上げるように触る、というか掴む。
「……おっきい」
「兄ちゃん自身がそう設定したからねー」
「……」
股間へと手を運ぶ。
「……ない」
「外見だけ変わって、男の娘になりましたー、ってパターンじゃないみたいだねー」
胸と股間に触れたまま、シロガネはしばらく考え込む。
コガネはそんな兄――この場合、姉というべきなのだろうかと思いつつ、その様子を見守っている。心なしか、その顔はやや赤くなっている気がする。
しばらくして、コガネの顔を見ながらシロガネは呟いた。
「一人称はボクでいいかな?」
「え、この流れでその疑問?」
シロガネは、結構マイペースだった。
「さて、ボク的にはここでこの身体を堪能したいところだけど……まずは現状確認が先かなぁ」
「うん、後にしょうね。あとでゆっくりと、ね?」
二人は、自分――特にシロガネの身体の異変は後回しにすることにした。
「でもあれだね……美咲、いや、コガネは可愛いね」
「兄ちゃん……姉ちゃんがそれを言いますか……」
どうやら互いの呼び方を見た目に合わせることにしたようだ。
「とりあえずここは……ホーム?」
「そうだね。ログアウトした場所がここだから、ここで目が覚めた、ってことかな」
「だろうね」
今二人は所属するチーム『不忍』のホームハウスにいる。
チームは、複数のプレイヤーが集まって作るグループで、他のゲームだとギルドとかクランとかが当てはまる。
この『不忍』は、忍者プレイをしているのに全く忍ぶ気のないメンバーが集まった、まったり系チームである。(メンバーは二人。メンバーは随時募集中)
ちなみにシロガネは体術系忍者、コガネは妖術系忍者という区分のキャラクタービルドを行っていた。
チームを結成し、かなりのお金と資源を投入することでチーム専用の拠点、ホームハウスが貰える。
そして投入した金額や資源量が多ければ多いほど、大きくて多機能なハウスが手に入るのだ。
当然構成員の多いチームは大きなハウスが手に入る事になり、それがチームの規模を大きくしようとする原動力となっている。
なお、二人しかいない『不忍』は、適当な大きさのハウスを購入。そしてやりたい放題にデザインを弄った結果、完全な和風建築になっている。
拠点がある王都ニュトピアの中世風建築物からは遥かに浮いているが、本人達は大満足である。
窓の外を見ると、見慣れた中世ヨーロッパ的な建物が見えた。
「ニュトピアっぽいかな、多分。ラノベとかだとゲームの世界に取り込まれた―、みたいな定番があるけど、そんな感じか?」
「後で探索してみようよ。その辺を現状で確定はしたくないねー」
「そうだな」
シロガネはコガネの提案に同意する。
「あー、じゃあついでに俺、街の外に出てみようかね。モンスターいるかもしれんし」
「姉ちゃん、俺って言っちゃってるよー。あと、街から出るのはちょっと待っててね」
「なんで?」
「兄ちゃん、身体、女の子。身長、かなりちがう、おっぱいおっきい。身体、動き、いつもと違う、おk?」
「ああ、納得した」
大木 大介とシロガネでは身長差だけでも六十センチメートルくらい違う。それほど違えば、いつも通りに動けるわけがない。
「ゲーム的に身体が覚えてる動きを勝手にできるなら問題ないけどな」
「その辺も確認しないとねー」
シロガネは頷く。
こんなわけのわからない状況である。石橋を叩いて叩いて粉砕するくらいでちょうどいい。
「メニュー画面とか開ける?アイテム欄は?」
「チャット機能があると便利だけど……」
ゲームとしての機能が使えるかどうか。
「痛覚とかある?味覚は?」
「触角はあったけど……」
五感が現実と同じようにあるか。
「GMコールできる?」
「できたとして、この状況どうにかなるのかな?」
エリスオンライン運営と連絡がつくのか。
その他、気になった事はどんな些細な事でも調べることにした。
ここはどこなのか、ゲームの中なのか、それともよく似た異世界なのか。
元の世界に戻れる見込みはあるのか、そもそも戻りたいのか。
当面は戻れないとしても、二人で生きていく力はあるのか。
相談は、深夜まで続いた。
シロガネ達が現状確認をしている頃。
ニュトピアから少し離れた森を、四人の少女が歩いていた。
森に人がいることは珍しい事ではない。この辺りはゲーム時代でも初心者が練習で篭もるのにちょうどいい狩場として有名で、高レベルのプレイヤーにとっては何の危険もない近道のようなものである。
だが、四人の格好は少々変わっていた。
まず全員が――スタイルの違いはあるものの、美少女であること。
そして、全員が全くサイズの合っていない衣服や鎧を身に着けていた。
「ああもう、動きにくい!」
「鎧重いし!」
「くそっ、なんで、なんで女なんかに……」
「うぅ……ひっく……」
既にお気付きだろうが、彼女たちは、元男性のプレイヤーである。
この不可思議な事体はシロガネ達だけではなく、他のプレイヤーの姿形も変わってしまっていた。
彼らにとっての不運は、前日夜まで狩りをしていたため、狩場でログアウトしてしまっていた事であろう。
こんな自体にならなければまだまだ同じ狩場でオイシイ獲物を借り続けていた事は想像に難くない。
が、彼らは戻ってきた。戻ってきて、しまったのだ。
薄暗がりの樹上から、彼らを見つめる者がいるのにも気付かずに……。
「あ、あれ……?」
泣いていた少女は、いつの間にか仲間達がいなくなっていることに気付いた。
「みんな、みんな、どこに行った?」
不安げな表情で周囲を見回すが、仲間はおろか、生き物の気配すらない。
はぐれてしまったのか。だが、全く気付かないなんてことがあるのだろうか。
魔法職であったため、他の三人と違い鎧で動きが制限されることはない。ローブこそぶかぶかだが、まだ許容できる範囲だ。
実際、ここまで戻る行軍では、恐怖心からか一人早足で移動してしまい、周りからツッコミを入れられることが多々あった。
不安である。ただでさえこのような不可思議な現象に巻き込まれているのだ。気の合う仲間が周りにいたからこそ、泣きながらも歩き続けることができたのだ。一人で帰るのは、無理。
仲間を探すため歩き出そうとする……が、足が全く動かない。
「え?な、なに!?」
よく見ると足に白色の紐のようなものが巻き付いている。
足だけではない。いつの間にか両腕にも紐らしきものが巻き付いている、
紐は弾力が強く、男であった頃ならともかく、女性となった今の細腕では引きちぎれそうにもない。
「ふふふ〜、この子もおいしそ〜」
耳元で、艶っぽい女の声が聞こえた。
ゆっくりと顔を向けると、笑顔を浮かべた女性がいた。
顔だけ見るなら、美人の部類に入るであろう。女性は軽く手を振る。大きな胸がその動きに合わせて軽く揺れる。
下半身に目を向けると、その腰から下は、蜘蛛。
「……アラクネ」
「正解よ〜」
アラクネは両手から糸を放つ。本来の蜘蛛とは違う糸の出し方ですが、仕様です。(ゲーム時代の公式ページ、運営便りからの引用)
糸は少女の体に巻きつく。ローブの下に包まれた、女性らしいボディラインが強調される。
「わ〜。あなたが一番、おっきいんだ〜♪」
アラクネは可愛らしい笑顔を浮かべている。だが、それが少女にさらなる恐怖を与える。
「ふっふっふ〜、お持ち帰り〜」
アラクネは少女を引き摺りながら、森の奥へと向かっていった。
「んぅっ……」
「ちゅ……うん、かわいい♪」
ローブの少女に口付けし、とらえた獲物を堪能するアラクネ。
ここはアラクネが巣を作っている洞窟だ。
少女は両手両足を拘束され、宙吊りの状態である。
床には少女の仲間であった三人が、全裸で転がっている。装備品があちらこちらに散乱しており、この場で何が起きていたのか、これから何をされるのかを少女に悟らせる。
「こ、殺さないで……」
「ふふふ〜。そんな勿体ないことしないわよ〜♪」
アラクネは笑顔を絶やさない。少女は、それが怖かった。
「お洋服は、後で別の上げるからね〜」
ローブを引き裂かれ、小柄な少女の身に見合わぬ、豊かな胸が曝け出された。下着は身に着けてはいない。
アラクネは少女に覆い被さる。
少女の大きな胸を、小さな両手で掴み、ゆっくりと動かす。
本来なら存在しない部位を揉まれる感触。いつもと異なる華奢な己の肉体。そして目の前にいる、人外の存在。
その全てが異常で、恐怖を感じる。
だが、何もできない。抵抗しても無駄だと理解できてしまう。
だから少女は、抵抗をあきらめた。受け入れてしまえば、楽になれる。
「んっ……ぁんっ……」
「ふふ〜。いい声。『元が男』だとは思えないわね〜」
アラクネの呟きに、地に転がる三人が顔を上げる。
「あら〜、気付かれないと思った〜?『カムイ』の加護は、女の子モンスターにはいい匂いがするんだよ〜」
その言葉を聞いた瞬間、一人がいつの間にか手にしていたナイフで自分を刺した。
「あら、アイテムボックスは気付かなかったわ〜」
ナイフを使った一人は光の粒子になって消える。
それを見た残りの二人も、それぞれの方法で自殺する。
「そうね〜。『カムイ』の加護があれば確かに『死に戻り』とやらはできるでしょうけど〜」
アラクネは目を細める。
「でも、カムイはもういない。目覚めたあなた達は、あなた達でいられるのかしらね?」
そう呟くと、見捨てられた形になったローブの少女に視線を戻す。逃げた獲物に興味はないらしい。
よそ見している間も攻められ続けた少女の『下』に手を伸ばす。
「濡れてるわね〜」
そしてそのまま「膣内」へ指を入れる。
「ひぅっ!」
「さあて、このまま糸を出したら、どうなるかしらねぇ……」
何回か指を出し入れし、少女に再び口付けしながら。
少女の膣内に、糸を放出する。
「んっ!んんっ……んっ!」
「ふふ〜、気持ちよかった?大丈夫、この糸はすぐ溶けちゃうから、何度でも何度でも出してあげるわよ〜」
さらに再び糸を放つ。
「あっ…ああっ……あんっ!!いい、きもちっ、いぃ!!」
「そうそう。素直に受け止めなさい。ずっと、ずっと気持ちよくしてあげるから」
「モウ、ニガサナイワヨ」
アラクネと少女の『夜』は、始まったばかりである。
全員女性化設定のせいで、ベテラン系キャラクターが出せず苦労することにこの時の僕は気付いていなかったのです。
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