トレードパズル



 放課後、誰もいない教室で私、桐原ぱずるは一人彼女を待ち続けた。
 手元には3つ、厚手の紙がある。
 そのうち一つには、女の子の絵が描かれている。小学校高学年くらいの娘だ。
 よく見るとその絵は、動いていた。目に涙を浮かべた女の子が、こちらに向かって何か叫んでいる。
 なにを言っているのかは聞こえないが、言いたいことは大体わかる。
「だーめ。まだ出してあげない」
 だって貴女は、大事な『素材』だから。

「もーちょっと我慢してよ。君にも利はあるんだからさ」
 いやむしろ、この娘にとっては良いことばかりだが。
「しかし、この状態になって抵抗しだすとは……まだ、心から折れてなかったわけだ。関心関心」
 まあ、それでも意味はないけど。そこから出せば元通りだ。
 ……そろそろかな。
 時計の針が5時を指そうとした時、教室の扉が開かれた。
「あれ?桐原さん、まだ残っていたの?」
 入って来たのは予想通り、学級委員の橋本 観月だった。
 真面目な彼女に似合った眼鏡と、制服を押し上げる巨乳。相変わらず素晴らしい『素材』だ。
「あー、うん。今日は、観月ちゃんに用事があってねー」
「ん?わたしに?」
 不思議そうにこちらを見つめながら近づいてくる観月。
「そうそう、観月ちゃんにしかできないことー」
 そう言いながら私は、手元の紙から、まだなにも描かれていない紙を選び、差し出す。
「なにこれ……え!?」
 反射的に受け取った観月は、そこに浮かび上がった図に驚きの声をあげた。
 そこに描かれていたのは、観月自身の姿だった。
「な…に?」
 そしてそのまま、気を失い倒れてしまった。
「おやすみ〜♪」

 観月に手渡した紙を見ると、キョトンとした観月が描かれていた。
 何が起きたのかわからない、そんな様子だ。
 まあ当然か。向こうからはこっちは見えないし。
 まあどうでもいいや、そんなことは。大事なのはここからだ。
 と、その前に。
「まずは誰も入れないようにしないとね」
 私は教室の扉に触れる。
『12ピース』
 そう呟くと、途端に教室の扉に切れ目が走る。
 切れ目にそって扉を「はがす」と、そこには「何も」なくなる。
 扉も、入り口も。まるで、ピースが抜けたパズルの台紙のように。

 このように私は、触れた物をパズルにする能力を持っている。木も鉄も、扉も紙も、そして人間さえも。もっとも、人間の場合は一旦存在を紙に封じる必要があるけど。

 そう、観月は紙に存在を封印されたのだ。
 あともう一人の女の子も。ちなみにこの娘はたまたま街で見かけたのを封印。確か半年前だっけ。
 存在を封印された者は私以外知覚できないので、騒ぎにはならない。今扉を消したのも、私が不審に思われないようにするためだ。
『データ』
 女の子達がいる紙の余白に、彼女達の個人情報が浮かびあがる。
 小学生の子は北野 美波という名前らしい。北なんだか南なんだか、不可思議な名前だ。
 この娘の身体は私の家だから、今楽しめるのは観月の身体だけだ。第二次性徴が始まったばかりの素敵ボディはこの半年堪能し尽くし、飽きている。
 故に今日は、新しい玩具に更新しようと思う。
『19ピース』
 その言葉と同時に、観月と美波の描かれていた部分だけが分割された。
 頭髪、顔(上)、顔(下)、首、胸、腹部、腰、太腿、足、上腕、二の腕、手……。

 とりあえずまずは一番わかりやすい部位からいこう。
 観月の胸と美波の胸をはずし、入れ替える。
 その瞬間、視界の片隅で転がる観月の胸がしぼんだ。
 制服越しでもわかるほどだった巨乳が、今は僅かに膨らむ程度しかない。


 絵の中の観月は、突然自分の胸が小さくなったことに驚いていた。
 自分の手を胸に当て、何が起こったかを確かめて――顔を青ざめていた。
 一方の美波も、急に自分の胸が膨らんだことで驚いていたが、こちらは逆に顔を赤らめていた。
 私は、観月の身体を抱え起こし、その『膨らみ始めたばかりの胸』を両手で包み込むように揉む。
 観月に反応はない。が、その弾力は心地よく、私を昂らせるには十分だった。
 ああ、何度揉んでもこのおっぱいは素晴らしい。
 でも、大きなおっぱいも堪能したい!
 早く終わらせて、全部私のモノにしてしまおう。
 もう、観月も美波も、私の手からは逃れられない。
 その身体も心も、存在すら私の思うが侭なのだから。


 さて、次に交換するのは……髪型にしよう。
 観月の髪型は肩で切り揃えられた、ショートカット。もちろん真面目な観月は髪の色など染めていない。
 一方の美波は、明るめの茶髪をツインテールに結わえている。彼女の親は随分と娘を甘やかしていたようなので、この髪も美波自身の意向なのだろう。
 あ、ちなみに美波はもう私のモノなので、両親のところへは帰っていない。もうお互い顔すら覚えてすらいないだろう。
 そういうこともできるのだ、このパズル能力は。
 さっと入れ替えて……はい、完了。
 二人の髪型部分のピースを取り換えると、抱きかかえていた観月の髪が爆発的に伸び、明るい色合いが流れるように黒髪を染め上げていった。
 絵の中の二人は、自分の頭の重量が変わったことで髪型の変化に気付いたようだが、私的にはそちらの反応は正直どうでもよかったりする。どう反応しようと、最終的には私の欲しいカタチになるのだから。

 それにしても、真面目な委員長さんが、茶髪ですよ茶髪!
 それもツインテールと来たものだ。今、この姿を私以外の人が見ても、彼女が真面目な学級委員だとは思わないだろう。
 むしろ、明朗で活発な少女にすら見える。髪型と胸だけで随分と雰囲気が変わったものだ。


 さて、次は……。
 そういえば、この間の音楽の授業のとき、観月って歌声が綺麗だった。
 綺麗だったんだけど……音痴だった。
 よし、今度は声を交換しよう。美波の方がうまいからね。
 声帯だけを変えられないので、首の交換……っと。
 外見からは違いが判らない。これが男性との交換なら、喉仏で判断できるけど……まあいいか。帰ってから確認すれば。

 このパズルのすごいところは、明らかにサイズの異なる部位も、自然なつなぎ具合になることだ。
 例えば、胸の交換。美波と観月の年齢差では胸だけそのまま交換した場合、普通なら胸囲と腹部に激しい違和感が生じるはずだ。
 でもこのパズルの場合は、胸のサイズだけが変動する。どうやら私にとって都合のいい変化となるようになっているみたいだ。
 状況に応じて、交換した相手の年齢に合わせたサイズへ変化することもあるし、逆に胸のように発育具合をそのままに交換することもできる。
 あくまで私の能力だからだろう、私に都合よく変化するのだ。
 少々ご都合主義が過ぎるが、「身体が子供で両腕大人な人」みたいなのを量産するつもりはないから、これでよい。

 そういえば観月は調理実習のときの手捌きが見事だった。あの料理を毎日食べたいなぁ。
 私は二人の両腕を交換する。
 観月の腕の長さが若干縮み、親指の付け根あたりまで袖が覆われた。どうやら美波が観月の年齢まで成長しても、あまり大きく育たないようだ。
 まあ、別に違和感がないレベルなのでこのままでいいか。


 さて次は……待てよ?
 私はどこまで交換するつもりだ?
 すでに一番堪能したい部位は頂いているのだ。これ以上交換したらもうそれは全とっかえと同じではないか?
 それはそれでいいけど、後でもいいよね、それだったら。

 よし、ここまでにしよう。
 脚くらいは変えてもいいかなと思うけど、調整も大変だしね。


 二人のパズルを並べ、手をかざす。
 観月も美波も、胸以外の部分への変化に気付き始めたようで、自分の身体をあちこち触り、見て、表情をめまぐるしく変えている。
 ただし、観月はかなり怯えているだが、美波の方は少し嬉しそう。
 ま、成長するのは嬉しいだろうけど、退行(で、いいのかな?)するのは嫌だよね。もうちょい大人になったら、若返りたいとか思うかもだけどー。
 さて、パズルな二人の観察もいいけど、元に戻さないとね。
『コンプリート』
 すると、パズルから二人の絵が消えていく。
「パズル、完成!」
 その言葉と同時に、横たわっていた観月の身体が動き出す。
「ぅ、ぅぅ……」
「あ、観月ちゃん大丈夫ー?」
「あ、あれ?わたし……」
 観月の口から出てくる声は、若干の違いはあるものの「美波の声」に近いものだった。
 顔の骨格や体系、年齢が違うので、そのまま美波の声にはならないようだが、それでも年相応の声とは言い難い。
 まあ、これはこれでいいね。素晴らしい。
 さて、美波の方も楽しみだけど、まずは観月で楽しみますか。
「ねえ、桐原さん、わたし、どうしちゃったの?」
「いや、突然倒れちゃったんだよー。私、びっくりしちゃった」
「そ、そうなの?……貧血かな?」
 うんうん、身体の変化は気にしてないようだよね。
 ま、『元からそういう感じ』と思い込ませてるんだけどね。パズル超便利。
「かもねー。……それよりさ、そんなことよりさぁ」
 私は困惑している観月へ顔を近づける。
 ちょっと動けばキスをしてしまいそうなくらい、間近に。
「え?き、きりはら、さん?」
「あれ?なんで名字で呼ぶのかな?」
「へ?」
「『ぱずるお姉ちゃん』、でしょ?」
「な、何言っているの、ぱずるお姉ちゃん……え!?」
 ふふ、驚いてる驚いてる。やっぱり、楽しいなあ、これ。
 同級生の女の子に、『お姉ちゃん』って呼ばれるのもなかなかいいね。
 でも、他の呼び方でもいいかな?例えば……
「あ、間違えた。『ぱずるお嬢様』だっけ」
「ちょっ……」
「『名前を呼びなさい』」
「ぱずる……お嬢様………何これ!」
「あ、お嬢様ってがらじゃないもんね、私。でもただの様づけじゃあ面白くないし……」
「何よこれ!これ、あ……ぱずるお嬢様の仕業なの!?」
「そうだよー。あ、そうだねー。呼び方なんかどうでもいいよねあとでもいいよねぇ」
「な、何をする気?」
 少しずつ後ずさりをし、私から離れようとする観月。
 無駄な抵抗する娘は嫌いだねぇ。私が欲しいのは、私専用のカワイイ女の子だ・け♪
 私はにこやかな表情を浮かべ、観月の耳元でささやいてあげる。
「『逃げも隠れもできない、大声も出せない、抵抗も無意味、私から目をそらすな私の声を一字一句聞き逃すな私以外の声を聞くな私以外視界に入れるな私以外の人間の存在を忘れろ記憶から抹消しろ』」
「ひぅっ!」
 観月の身体が、力が抜けたかのようにがくっと崩れるのを私は支え、抱きしめながら囁く。
「もう気づいていると思うけど……もう、観月ちゃんは私の言葉に逆らえないからね……」
 そう、それがパズルの真の力。パズルにした相手の所有権を得られる。所有権を奪われた相手はこのように……
「そ、そんなこと……」
「じゃあ、私たちの担任の名前は?」
「……た、たんにん……?なにそれ?」
「隣の席の男子……幼馴染だっけ。覚えてる?」
「おさな……よくわからない」
「観月ちゃんのお母さんの名前は?」
「だから誰なのそれは!」
 完全に、観月の記憶から私以外の人間の存在が消えている。
 担任や幼馴染、母親という概念すら忘れているようだ。
 こういった立場を表す言葉は相手がいてからこそ成立するので、その相手の存在忘れてしまったことでその言葉自体の意味も理解できなくなった、ということだろう。
 さて、私は過程より結果を堪能する主義だ。だからもう、早々に決着をつけようと思う。
「『もう観月ちゃんには私しかいない私以外誰も見えない見られない聞こえない聞かせられない知れない知られない忘れて忘れられ失い失われていく……』」
 観月の記憶から『思い出』というピースを抜き取っていく。
「や、やめ……な、なにか消えてく!わたしからなにか消えてく!」
「いいんだよぅ、消しちゃっても。だってもう、観月ちゃんには必要ないんだからね」
「いや!なくしたくない、なくしたくないのにぃ!大切な人達なのになんで、思い出せないの!」
 絶望的な観月ちゃんの表情。うんうん、こういうのもいいね。興奮してくるよ。
「『大丈夫だよ、私がいるから。私だけがいるから。私しか見えないから聞こえないから私だけが観月ちゃんを知っているから覚えているから絶対に無くさないから……』」
「あっ……」
「『新しく埋めてあげる失ったモノ全ての代わりになってあげる私がお母さんで先生で幼馴染で恋人で姉で妹で兄で弟で父で子供で祖父母で友達で夫で嫁でやっぱり恋人でご主人様でお嬢様で下僕で同僚で何をおいても恋人で憧れの人で先輩で後輩で隣人で親戚で赤の他人で一番大事な恋人で……』」
 奪い取った関係を埋め尽くすように、私の役割をはめていく。私自身が、世界の全てであるかのように。
「入ってくるぅ、なにか、たくさん入ってくるぅ」
 気持ちよさそうな表情で、観月が声を上げる。どことなく、いやらしい。
「『私だけが愛してあげる愛させてあげる好きでいてあげる好きになることを許容してあげる一緒にいてあげるついてくるのを許してあげる触ってあげる触らせてあげる抱いてあげる抱かれてあげる抱きしめてあげる抱きしめさせてあげる従ってあげる従わせてあげる娶ってあげる娶らせてあげる……』」
「あぁ……」
 顔を赤らめ、嬉しそうに目を細める観月。
 そこにはもう、真面目な学級委員長としての観月はいない。私に依存し、私を依存させるためだけに存在する可愛い可愛いかわいそうな女の子、それが今の観月だ。
「さあ、誰も邪魔はしない邪魔なんてさせない。二人きりで、ずっとずっと楽しみましょう?」
「……はい、ぱずるお姉ちゃん♪」
 そう言いながら、観月から私にキスをしてきた。そして……


 これが私のやり方。
 欲しいモノは全て私の思い通りに染め上げ、手に入れて、独占する。
 さて、次はだれを私のモノにしようかな。

 ああ、その前に観月と美波を引き合わせないと。私のモノ同士、仲よくしてもらわないとね。

 あと、観月にはキスの仕方を教えないとね。
 いきなり舌入れるとか、その、恥ずかしいし。


掲示板でちまちま書いていたやつに色々追加したもの。後半部分が一番ノリノリで書いていた気がします。
書いたはいいけどいまいちジャンルがよくわかりません。あと需要があるかもわかりません。
とりあえずPixivに入れたときはMCとか洗脳とか記憶操作とか部分交換とかそれっぽいモノ入れときましたが、正しいのかどうか……。
もう少し絞ればよかった気もしますが、後半はお気に入りです。お気に入りです。


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